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虚空の【セカイ】と魔女  作者: 白河律
二月の夜の闇は昏く、深く
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二月の夜の闇は昏く、深く 1

     二月の夜の闇は昏く、深く


     1


 「そろそろ、行こうかな――」

 部屋に置かれたデジタル時計の数字は、十時を示していた。

 それを見て、誰にというわけでもなく呟く。

 外はきっと寒いので、厚手のコートを着込む。

 手袋は――少し、考えてから嵌めることにした。

 もし本当に〝それ〟に出会った時、手が寒さで(かじか)んでいたら、どうしようも無いと思った。

 護身用の竹刀を入れた竹刀袋を担ぐ。

 部屋の電気を消して、暗い部屋の中、アパートの出口を目指す。

 戸口を出て、鍵を閉める。


 部屋の表札には304号室「殻木田」とある。


 細い道の住宅街を通り、繁華街へと向かう。


 その間、俺が思ったことはただひとつ――

 ――二月の夜って寒くね?


 個人的には、よくイラストなんかでサンタと一緒に背景として書かれているあの雪が降っていそうな、十二月なんかより寒く感じていた。

 それは、見上げた夜空には厚い雲が掛かっていて、星も月も見えないから余計にそう思うのかもしれない。

 少しもったいないな、と思う。

 いつもの冬の澄んだ空気なら、綺麗な星空が見えるのに。


 そんな事を考えながら、歩いていると繁華街に着く。

 駅前の繁華街は、通って来た住宅街とは違って、光と喧騒に溢れている。

 うーん、目が眩しい。

 仕事帰りのサラリーマンやOLのお姉さん、なにやら酔っ払ったおじさん達、路上ライブを行うグループなど色々な人達がいた。

 夜の街って昼間とは違うんだなあ、と今年、高校生になる学生は思うのでした。

 もの珍しげに辺りを見渡す。

 すると、不意に視線を感じた――

 ――んん、何やら交番の方からガタイの良い警察官の方がこちらを見ていますよ。

 これは、マズイですね。

 そう、思った俺は街角の路地に入り込む。

 万が一、補導なんかされてしまったら迷惑を掛けるのは、今まで面倒を見てくれた叔父さん達だ。

 人の良いあの人達にこれ以上、面倒を掛けたくなくて高校の入学が決まった時に無理を言ってひとり暮らしをさせてもらったのに、それじゃ本末転倒だ。



 暗い路地裏を行く。

 ビルとビルの隙間、いわゆる裏路地。

 クモの巣に例えたら、網目みたいなところ。

 うん、暗いね。表通りと違って、零れるような光しか差さない。

 しかも、ポリバケツに入ったゴミ箱や袋が散乱していて何やら臭い。

 よくマンガなんかで不良が溜まっていそうな所だけど、本当にいたら凄いと思った。

 ここは――暗くて寒い。オマケに臭い。

 ビルという立派な人家の側にいるのに、そんな気がしない。

 こんな所を好んで通るとしたら――何か、負い目があるのかもしれない。

 人目を避けるような。

 あれ、今の俺の事かな?

 そんな事を思って、頬を搔いた。

 それでも俺は路地裏を通って、目的地を目指した。



 俺の目的地――それは、友達が〝通り魔〟に襲われた場所。

 一週間前、俺とは別の高校への進学が決まった友達は夜、ある通りで〝通り魔〟に襲われた。


幸いにも身体は刃物による切り傷、軽い軽傷で済んだけれど、心はそうはいかなかった。


 ――命を狙われて、もしかしたら殺されていたかもしれない。

 ――自分に何も関係ない相手の悪意で。


 その事で、その友達は〝人〟が怖くなってしまった。

 例え、見知った相手でも近くに人が傍に寄ると身体が震えて止まらなくなってしまったのだ。

 俺が見舞いに訪れた時も、ごめんと謝りながら震えていた。

 その時の事を思い出して、竹刀袋を握る手に力が入った。


 アイツが何をしたっていうんだ。

 高校に入っても、部活をするのだって楽しげに笑っていたのに。

 これから始まる新しい生活を楽しみにしていただけなのに。


 俺は〝通り魔〟が許せなかった。

 それに、もしこれからも〝通り魔〟が人を襲うとしたらアイツみたいに傷付く人が出るんだろうか。

 そんなのは――やっぱり許せない。


 それなら、俺は、俺にできる事をしたい。


 例え捕まえるのは無理でも、探して見つけて、警察に通報して、捕まえる協力がしたい。そこまで上手くいかなくても、手がかりくらいは見つけたい。

 ――アイツを襲った〝通り魔〟は未だ、見つからず大きな手がかりも見つかっていなかった。

 俺が何かした所で、何も変わらないのかもしれない。それでも何もしないのでは、俺の気持ちが収まらない。


 俺は、誰かの為に何かしたい。

 しなくてはいけない、と強く思う。


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