エクストラ その1・3
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私を連れて殻木田くんが訪れたのは、駅の近くの行きつけだというラーメン屋だった。
じゃんがら――入口の暖簾にはそう書かれていた。
夕食時を迎えた店内は結構、人が入っている。
「先輩はどれにしますか?」
券売機の前で殻木田くんは、そう私に尋ねる。
「えっと、どれにしようかしら」
券売機に書かれたメニューを見てみるが、しゃんぽん、ぽんしゃんとか書かれていて初めて訪れた私には、なんだか分からない。
「あの、殻木田くん。私……」
「ああ――」
私の視線で事態を察したのか、彼は私にこう尋ねた。
「先輩の好みの味ってありますか?味噌とか醤油とか」
「分からないわ。ラーメン自体、余り食べたことが無いから」
「そうですか。じゃあ、こうしましょう!」
カウンター席に案内されて、しばらくした後、ふたつのラーメンが運ばれてきた。
「薄めの味の物と、少し濃い物を頼んでみました。一度、味見してからどちらを食べるか決めてください」
殻木田くんがレンゲを渡してくれる。
レンゲを手にまずは濃い物からスープをすくい飲む。次に薄めの物を。
ふむ。
「濃い物の方がいいかしら」
「わかりました。それにしても……」
殻木田くんが私を見てクスリ、と笑う。
「前々から思っていたんですけど、かなり甘いものが好きだったり、濃い味を好んだり先輩って結構、はっきりした味が好みですよね。案外、子供舌――」
ギロリ、と睨む。
「殻木田くんなんて知らない」
そっぽを向いて、ラーメンを食べ始める。
スープと一緒に麺を啜る。
口の中で味が広がる。
美味しい。
「いらっしゃい、殻木田くん。久しぶりじゃない」
「あ、どうもお久しぶりです」
殻木田くんがなにやら店員と話している。
私はラーメンを食べ続ける。
「また、暇があったら店手伝ってよ。ところで今日は……おや、おや、随分と美人さんを連れているね。彼女かい?」
「違いますよ。学校の先輩ですよ」
「本当かい?」
何やら視線を感じる。
私はラーメンを食べる。
「なるほど。確かにそうらしいね。こんな話をしているのに、何の反応も無い。これだけ夢中で食べて貰えると冥利には尽きるけど。こりゃ、脈はないね。諦めな、殻木田君」
「はあ……そうですか」
今の私には、周りの声は何も聞こえなかった。




