エクストラ その1・2
2
教室に差し込むうららかな日差しの中、私は授業を白河夜船を漕ぎながら受ける。時間も授業の内容も曖昧なまま。
次のテストの事が少し頭に浮かんだけれど、忘れる事にした。
そうして、放課後までの時間を過ごした。
◇
放課後、授業が終わった後、夕暮れが差し込む教室で私はひとり、殻木田くんを待っていた。
今日の授業の終わりは殻木田くんと同じはず。
時計を見れば、既に三十分ほど経っていた。
教室の掃除をしていたクラスメイト達も、みんな帰路に着いた。
「ごめんなさい、お待たせしました!」
急ぎ足に殻木田くんが教室に入ってくる。
「痛っ……」
息を整えようと胸に手を置くと、まだ痛むらしくそのまま身体を折る。
「殻木田くん、大丈夫?」
「はい……」
「本当に?」
「はい!」
身体を起こすと、強く頷く。
この、強がりは――
「少し遅くなったみたいだけど、何かあったの?」
「クラスメイトに掃除の手伝いを頼まれました。それで遅くなってしまいました、すいません!」
――本当に。
殻木田くんは頭を下げる。
「……」
「先輩、やっぱり怒ってますか……?」
「――付き合って、欲しいのでしょう?」
「えっ?」
「あなたが言った事よ。放課後、付き合って欲しいのでしょう?」
「あ、はい!」
「それで、私はどうすればいいのかしら?」
「あの先輩、何か食べたい物ってありますか?」
「そうね……」
そう言われても、すぐには出てはこなかった。
「昨日のお礼に、何か俺に奢らせてください!先輩の食べたい物なら、何でもいいですから!」
「へぇ……何でも」
その言葉を聞いて、自然と唇の端が吊り上る。きっと今の私は、随分と意地の悪い笑みを浮かべている事だろう。
「なら、ドレスコードの必要なお店のフルコースにしようかしら」
その言葉を聞いて、涙を浮かべ殻木田くんがプルプルと震え出す。ポケットに手を入れ、サイフを取り出すと、中身を確認する。
「あの、大変申し訳ないんですが、先輩……予算が……」
「ええ、知っているわ、あなたのサイフの薄さは。強がりは止めなさい」
その言葉を聞いて、殻木田くんは何やらうなだれている。男のプライドが、とか小さく呟いている。
元より、安アパートにひとりで住んでいる学生に期待なんてしてない。
「あなたが出せる範囲の所にしましょう。それから――」
私は、木田くんの身体を軽く小突く。
「――っ!」
すると、殻木田くんは声なき声を上げて身体を抑える。
「――近場にしましょう。あなたの身体に負担を掛けないように。私は、あなたが普段よく行く場所に行ってみたいわ。それでいいかしら」
「はひ……」
痛みを堪えながら、殻木田くんは頷く。
きっと――私だけが知っている。あなたの強さも、強がりも、傷も痛みも。弱さも。それからサイフの薄さも。
それでも――




