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虚空の【セカイ】と魔女  作者: 白河律
君が怪物になってしまう前に
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君が怪物になってしまう前に 12

 「――ねえ、殻木田君、聞いてもいいかな?君にはわたしの手はどう見えるのかな?」

 不意な質問。殻木田君は、その言葉を聞いて暗闇の中、目を凝らしてわたしの手を見る。

 「鈴木さん、その手は……」

 「殻木田君にも見えるんだ……」

 わたしの手、わたしの手はいつの間にか――血に塗れた怪物のモノのようになっていた。

 「わたし――どうしたんだろうね?色々なモノを、憎んでコワシタイと思い過ぎたのかな?こんな手になっちゃうなんて」

 自分の手を見つめて、呟く。

 「――これじゃ、まるで怪物みたい」

 わたしは、殻木田君を見つめて聞く。

 「わたし――どうしたらいいんだろうね?こんな手でわたし、帰れるのかな?元いた場所に、わたしの世界に」

 殻木田君は一瞬、険しい目をしたけれど、わたしを見つめて言った。

 「帰すよ、君を」

 「えっ……?」

 驚くばかりのわたしに殻木田君は、優しく微笑んで言うのだった。

 「俺の力だけでは無理だけど、でも知ってるんだ。こういう事を解決できそうな人を。鈴木さん、俺と一緒にその人のところへ行こう」

 その手をわたしに差し伸ばす。

 でも、わたしはその手を取れない。

 「それでも、わたし怖いよ。どんな顔をして母さんに、学校のみんなに会えばいいのか分からないよ。それにこれから、またつらい想いをした時、怪物になってしまうかもしれない自分が怖いよ……」


 「そしたら、俺がまた来るよ。君が助けを求めるのなら絶対に。君が怪物になってしまう前に――」


 その笑顔は崩れない。

 その笑顔を信じて、わたしは殻木田君に手を伸ばす。怪物のモノのような手で。

 そして思うのだった。


 殻木田君はどうして、こんなにも誰かのために――


 わたしは殻木田君を知りたいと――願った。

 殻木田君の手を握りしめた時、わたしは見た。

 殻木田君は、全身がどこもかしこも――傷だらけで血に塗れていた。


 その事に驚いて、そして恐ろしくて、わたしは殻木田君の手を、振り払った。

 それだけだった筈なのに、殻木田君の身体は宙を舞い、部屋の隅に集められ放置された机やイスの中に吸い込まれていった。



 ナニカが激しくぶつかり崩れていく音、部屋に沸き立つホコリ、部屋の隅に集められた金属製のイスや机が崩れていく。

 その中に埋もれながら、グッタリとうつ伏せに倒れ込んでいる――殻木田君が、そこにはいた。

 「え……?」

 わたしには、何が起きたのか分からなかった。

 「殻木田、君……?」

 恐る、恐る、近づき殻木田君の様子を見る。

 倒れ込んでいる殻木田君は、何も答えない。

微かに息をしていることは分かった。

 ただ、ただ――身体から流れる血が床に黒いシミを作っていく。

 「――っ!」

 起こってしまった事に驚いて、声すら出なかった。

 なんで、どうしてこんな事になってしまったのだろう?

 こんな事をダレがしたんだろう?

 わたし?ワタシ?ワタシ?

 「あっ、あっ…」

 分からない。ダレガ悪いのだろう?

 ソレはきっと――

 ――怪物の手を持ったわたしだ。

 自分の手を見つめる。

 醜い、血に塗れた手がそこにはある。

 殻木田君の身体から流れる血が止まらない。このままでは殻木田君は死んでしまうかもしれない。

 シヌ。シンデシマウ。

 この手が、こんな手だからきっとわたしは――殻木田君を殺してしまいそうになっているんだ。

 ワタシ――コロス?

 コロシテシマウノ?

 わたしを助けようとしてくれた殻木田君を?

 ソンナ、ツモリジャナカッタノ二?

 「ごめん…なさい……」

 涙が零れた。

 どうすればいいのか分からなかった。

 ただ、ただ怖かった。苦しかった。

 殻木田君を殺してしまうことが。

 ひとを殺してしまうことが。

 ひと殺しになってしまうことが。

 ドウシタライインダロウ?


 ソノトキ――誰かが頭の中で囁いた。


 コワクテ、クルシイのナラバ、イッソ、ヒトゴロシにナッテシマエ。


 「あっ、あっ!」

 その囁きは酷く蠱惑的に思えた。

 元々、ヒトをコロシテしまいそうな想いに、悩んでいた。自分はその想いのために、ヒトゴロシがデキテしまうかもしれないことに苦しんでいた。


 ナラ、コロシテシマエバ――


 ――わたしはヒトゴロシの自分を受け入れられる。


 最初からヒトが殺せるニンゲンだったと思える。


 「はは…ははは……」

 その事に気が付いてしまうと、嗤いが止まらない。

 これまで悩んでいた事が、酷く莫迦らしく思えた。

 「ああ――」

 わたしは殻木田君の首に手を掛ける。この怪物のような手で力を込めれば、今の彼なら簡単に死んでしまうだろう。

 こんなワタシを殻木田君は赦してくれるだろうか?

 彼なら赦してくれるかもしれない。

 ゆっくりと、手に力を込めていく――


 ――なぜだろう。涙が零れて止まらない。


 「ハハハ…」


 「――止めなさい」

 不意に、声が響いた。


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