彷徨える銃弾 8
◇
「――それで結局、この話を受けてしまったのよね」
「はい……」
少しずつ夏の日差しも傾き始めた頃、日向さんの捜索について細かい情報や今後の段取りについて聞いた後、一緒に帰路に着く虚木先輩――先輩に俺はジト目で睨まれていた。
「殻木田くん、分かっているの?今回は私どころか、千鶴だってあなたを直接的には助ける事は出来ないの。もし、もし……何か危険な目にあってもね」
「……それは分かっているつもりです」
そう今回の捜索では、魔女の不文律の存在で先輩達は隣街では力を使えないし、干渉も出来ない。
それはつまり、何かあってもこれまでのように先輩達に魔法で助けてもらう事は出来ない事を意味していた。
「……本当にそれで大丈夫だと思っているの?」
先輩が真っ直ぐに俺を見る。端正な顔にあるいつもは物憂げな瞳が、今は怒りか、あるいは悲しみを表すように細められている。
古谷先輩のお母さんの話では、現地で魔女の〝協力者〟という人が捜索に同行してくれるらしいけど……きっと先輩が心配している事は、そういう事じゃないだと思う。
〝先輩〟が〝俺〟を助ける事が出来ない事。
それから、どうして〝俺〟がこんな話を受けたのかという事。
〝危険〟である事が分かっていながら。
「どうして殻木田くんは……この話を受けたの?それはやっぱり、元学校の同級生の為?」
「……」
少し考えてから、足を止める。それに合わせて少し先に進んでから、先輩も足を止める。ふたりの影が並ぶ。俺は先輩と向き合う形になる。
「その……先輩の気持ちは分かっているつもりなんです。先輩が俺の事を心配してくれている事。それは〝ふたり〟の事でもあるんだっていう事も。でも……」
「でも……?」
先輩は一度、切ってしまった俺の言葉を待つ。
「やっぱり……日向さんの事はこのままにはしておけないな、と思って。それから――こうも思ってしまったんです。俺がこの件を受ければ、先輩が危険な目に遭う事がひとつは減るのかな、と」
俺は自分の影を見つめるように俯きながら答えた。
上代啓二の時の事でよく分かった。怪異に関わる限り、危険と隣り合わせなのは魔女の先輩だって変わらない。
「……」
先輩が俺に背を向ける。
「そう言われてしまったら、私は何も言う事が出来ないわ。千鶴と話し合ったけれど今回、私が出来るのは、あなたの無事を確かめる為の、定時連絡を取る事だけだから……」
そのまま先輩は、長い髪を揺らしながら歩き始めた。
「明日の朝、あなたが隣町に行く前にメールで連絡するから」
先輩の影は去っていき、俺の影だけが残された。
「はあ……」
溜息を吐く。これで、本当に良かったのだろうか。