彷徨える銃弾 6
◇
ここまで一緒に来た虚木先輩と別れて、俺――殻木田順平は古谷先輩に、古谷邸の屋敷の中でも奥まった場所にある部屋の前まで連れてこられた。
部屋に着くまでの間、俺は日本家屋然とした風貌の広い屋敷の中を、物珍しさと興味から見渡していた。以前にも古谷邸には来た事があったけれど、その時はすぐにある部屋の一室に通されただけだったし、虚木先輩が行方不明でそんな余裕もなかった。
外の堀と外見から広いんだろうなあ、と想像はしていたけれど本当に広い。ここまで来るまでに何人もの使用人の人達ともすれ違ったし、その度にお嬢様と呼ばれる古谷先輩にだけではなく、俺も会釈付きの挨拶をされた。
しかしこうして見ると古谷先輩は、ひとり高級マンションの一室に住んでいて、イマイチ生活力のない虚木先輩とは別の方向でお嬢様なんだと思った。
いや学校でも優等生の生徒会副会長だし、容姿端麗。魔女の時の冷徹とも言える古谷先輩と知らなければ、心の底からそう思えただろう。
そんな事を考えている俺を他所に、学校の制服姿の古谷先輩は廊下に正座してから部屋の中へと声を掛けた。
「失礼します。母様、殻木田順平君をお連れしました……」
「どうぞ、お入りなさい」
中から返事が返ってくると、古谷先輩が静かに襖を開けた。
開かれた襖から見える和室の中には、古谷先輩と似た容姿の妙齢の着物を着た女性がひとり正座をして待っていた。
「えっと……」
こうした和室に入る際の正式なマナーを知らない俺は、立ち尽くして戸惑った。
そんな俺を見て部屋の中の女性は、こう言葉を掛けた。
「そのまま、お入り下さって構いませんよ」
「失礼します……」
俺は頭を下げると、部屋の畳へと足を踏み入れた。
「まず本日は暑い中、お呼びしてすみませんでした。それから、いつもウチの魔女達――千鶴と小夜がご迷惑をお掛けしているようで」
「あ、いえ……こちらこそ。というかむしろ、俺の方が先輩達に迷惑を掛けているというか……」
古谷先輩のお母さんらしい女性と、和室の中心に置かれた座布団に正座で向き合って話す
「いえいえ、先日の小夜が拉致された件では殻木田さんの協力がなければ、間違いなく更に大事になっていたかと思います。恐らくは、無事では戻ってこられなかったでしょう。私からも御礼を申し上げます」
「そんな……俺はただ先輩が心配だっただけです」
古谷先輩のお母さんが頭を下げる。
それにしてもこうして改めて近くで見て話すと分かるが、古谷先輩のお母さんは古谷先輩と似ておりその上、年頃の娘がいるとは思えないほどに若々しい。
更に学校では優等生で人当たりもいい古谷先輩が、そのまま大人なったら……といった丁寧で柔らかい雰囲気を身に纏っている。
「さて――そろそろ今回、殻木田さんを何故お呼びしたのか、本題についてお話したいと思います」
それから古谷先輩のお母さんは、静かに笑ってから話し始めた。
話の内容を簡単に纏めると、こういう話だ。
隣街で行方不明となっている女子高校生――日向旭を探して欲しいという事だった。
「日向…旭……?」
聞いた事がある名前だと思ったが、手渡された写真の添付された資料を見て確信する。
日向旭――日向さん。俺は彼女を知っていた。彼女は俺が中学生の時の同級生で、最後の年のクラスメイトで一緒に委員長もしていた。
今は別の学校だけど、もし彼女が行方不明だと知ったら、特に誰かに頼まれる事がなくても彼女を探す事をしただろう。
でもそれはあくまで、俺個人の話だ。
何故、それが虚木先輩や古谷先輩、それどころか近隣の街の魔女をも束ねているらしい立場にある古谷先輩のお母さんから俺に、その話が来るのだろう?




