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虚空の【セカイ】と魔女  作者: 白河律
彷徨える銃弾
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彷徨える銃弾 1


     1


 夜――郊外にある、とある廃ビル。

 そこにわたしは、兄を殺した連中といた。その中のリーダー格の少年が私に話掛ける。彼は兄さんを殺した主犯者のひとりだ。

 「全くいい話だなあ……死んだ兄ちゃんの為に、何?ひとりで敵討ちに来たの?いやでもさ、姉ちゃん。ソイツはちょっと無謀じゃないかな。一対一ならまだ兎も角さあ、姉ちゃんの要望で連絡の付かなかったヤツラ以外、みんな集めちゃうんだもん」

 保護観察中という事で派手な髪色から戻されたものの、恰好だけは相変わらずなのが数える事、六人。確かに全員じゃない。後、ふたり。その中には、もうひとりの主犯格の少年がいた。

 「姉ちゃん、ひとりで俺らの相手をしてくれるの?」

 わたしは頷く。

 わたしを取り巻くように立っている連中が嗤う。

 「いやさあ、面白い冗談だなあ。ワラエル、ワラエル。それはそうと、ちょっと心外だなあ。俺達は確かに、あんたの兄ちゃんを殺しちゃったよ?まあ、ただでもワザとじゃないんだわ。弁護士の人も言ってたでしょ?あんたの兄ちゃんも悪いトコロあったって」

 また取り巻きがゲラゲラと嗤う。

 それを見て、確信した。コイツラは兄さんを殺した事を何とも思っていない。罪の意識の一欠けらも持っていない。握り締めた拳に強く爪を立てる。

 「う~ん、俺達ちょっと傷付いちゃたかなあ。冤罪だし。だからさあ、姉ちゃん、俺達に謝ってよ。身体でいいからさ!朝まで全員!そもそも姉ちゃん、敵討ちとかいってこれが目的だったんじゃないの?夏休みだってのに、制服着てまで俺達に会いに来てくれるんだもん!オレ、その学校の制服好きだし、姉ちゃん、そこそこ可愛いし似合ってるよ!」

 リーダー格の少年が目配せすると、下卑た顔を浮かべて取り巻きの二人が近づいてきて、わたしの両の腕を掴んだ。

 「まずは、下着の色をチェックしようかなあ?」

 腕を掴んでいる取り巻きの一人が、太ももに手を這わせてスカートを捲ろうとしてくる。


 その次の瞬間――

 「俺の手が……」

 ――グギッと何かが折れる音がした。

 「……俺の手が折れちまったよ!イテエ、イテエよお!」


 スカートを捲ろうとしていた取り巻きが声を上げて倒れる。

 「はあ……?」

 リーダー格の少年も、残った取り巻きも何が起こったか分からず、茫然と息を飲んだのが分かった。

 「放して……」

 わたしは、何処からかともなく取り出した不可思議な〝銃〟を腕を掴んでいるもうひとりの取り巻きに押し当てると、引き金を引いた。

 「ぎゃあああ!あ、足が!」

 その少年は足を押さえて、倒れ込んだ。

 発砲音は無く、どんな弾が飛んでいるか、わたしも分からないが、今度は足の骨を砕いた。

 ここにきて、残っていた連中が動き出した。起きた事が理解できず声を上げて逃げ出そうとするヤツ、あるいは拳を振り上げて向かってくるヤツ。

 わたしは構わず――全員に不可思議な黒い〝銃〟の銃口を向けて引き金を引いた。



 「なんなんだよ……そのチカラはよお……なんで、オレがこんな目に遭うんだよう……イテエヨ……イテエヨオ……」

 リーダー格の少年が廃ビルの剥き出しのコンクリートを芋虫のように這いずっている。

 その全身は所々、オカシナ方向に曲がり、服の上に幾つもの血溜まりが出来ていた。這いずった床には血の跡が残る。

 「ちくしょう……ちくしょう……」

 他にも怪我を負って、悶え苦しむ取り巻きを見捨ててこの場を離れようとしているようだった。

 その身体をわたしは、背中から踏みつけて押さえる。

 「ひい、ひぃ、もう止めてくれよお……おれたちが、俺達が悪かったからさああ!」

 うつ伏せのまま、こちらに顔を向けて必死に懇願する。

 その顔は思った程には酷い事にはなっていない。


 「ねえ……その言葉、兄さんも言ってなかった?もう止めてって……」


 〝銃〟を頭に押し当てると、少年はガタガタと身体を震わせながら、何度も強く頷いた。


 「でも……あんた達、止めた?」


 少年が目を見開く。

 わたしはもう一度、引き金を引いた。



 全てが終わった後、嗚咽とうめき声だけが響く中でわたしは息を吐く。

 殆ど光の無い昏い廃ビルの中で、吸い込んだ空気には夏の暑い湿り気は無く、酷く冷たく感じた。

 ゴフ、と咳き込む。不意に喉に込み上げてきたものを吐く。

 手で拭ってみると、それは血だった。拭いきれずに血は地面に落ちた。


 「痛い……」


 何でだろう?まだ、二人残っているとはいえ、わたしはわたしの願いを不可思議な〝力〟で叶えた筈なのに――

 ――酷く気落ち悪い。


 身体の〝どこか〟が痛みを覚える。

 身体の〝どこか〟がジンとし痺れるような鈍痛を訴える。

 「でもまだ、終わりじゃない……」

 後、ふたり。

 わたしは、意識を失いピクリとも動かない主犯格の少年の服から血の付いた携帯を抜き取ると、痛む身体を抱くように押さえて歩き出した。


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