終話 機知の刃
終話 機知の刃
八月の末、夏休みもあと少しで終わる頃、わたし――古谷千鶴は学校に来ていた。
本当は学校に来ている場合ではなかったのだが。
数日前に街に流れ着いた〝最悪〟の魔女。
その魔女を追っていた小夜は深い傷を負った。しかもその傷は〝最悪〟の魔女との交戦によるものではなく――
――その場に居合わせた殻木田君が。
正直に言えば、まだこの事態をわたしは飲み込めていないでいた。色々と不可解な事も多い。
それでもわたしが、学校まで来たのは――境ふたみを探す為だった。
境ふたみはいた、夕暮れの紅く染まる生徒会室前の廊下に。
「古谷先輩、お久しぶりです!お元気にしてましたか?」
境ふたみはわたしを見るなり屈託なく笑い、頭を下げた。
その顔は、その笑顔は夏休み前に最後に会った時となんら変わらない。
「……そうね、まあまあという所」
境ふたみを見ながら適当に返す。
「ホントウですか~?ふたみには、あの完全無欠の古谷先輩が、随分とお疲れに見えるんですけど、もしかしてこの夏休みの間にナニカありましたか?」
彼女は一度、言葉を切ってからこう言った。
「もしかして……センパイの大事なひとが大怪我でもしましたか~?」
クスクスと境ふたみは嗤う。
「……」
わたしは、そんな彼女に一枚のタロットカードを投げつける。
しかしカードは届かず空を舞って、表側に捲れて廊下に落ちる。
そのカードは――〝悪魔〟のカード。
「ああ……これは夏休み前に殻木田君を占った時のカードですね。これがどうかしましたか?」
「……あんた、こうなる事を知っていたの?あんたにはいったい、何が〝視えて〟いるの?」
感情が高ぶって抑えが効かなくなりそうになるのを、辛うじて押し留めながら問う。
「おお、コワイ。まるで敵でも見るような目ですよ、今の古谷先輩」
「……」
私は相変わらず飄々とした態度を崩さない境ふたみを睨む。
廊下に落ちた〝悪魔〟のカードを拾い上げながら、彼女はこう返した。
「ふたみのしているのは〝アクマ〟で占いですよ――」
「――でも、その言葉が時として変えてしまう事もある。人の人生さえも」
「……」
境ふたみの吊り上がっていた唇が結ばれる。そして、カードを胸に抱いたまま、わたしの横を歩き去っていく。
ただ、ひとつの言葉を残して。
「私は古谷先輩と〝同じ〟になりたいだけです――」
わたし達は、紅く染まる道をすれ違う。




