エクストラ その5・3
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夜も遅くなって、先輩の家を後にした帰り道。俺は少し遠回りをする事にした。
駅のある中心街と違って、住宅街の多いこの道は時間も相まって人通りは殆ど無い。
ただ、ナイフのようなカタチの三日月だけが空に浮かんでいる。
そんな月を見上げながら、先輩の言葉を思い出す。
――私の傍にいて欲しい、傷付いて欲しくない、悲しんで欲しくない、誰かを傷付けるような事はして欲しくない。その為には私自身も気を付ける。
その言葉にはきっと――ふたりで傍にいる為に、いう先輩の希望が込められているんだと思う。そういう風にいられたら、いられるのならばそれはきっと幸せな事だと思う。
実を言えば六月の雨の日に先輩との距離が近づいてから、俺は今回の事があるまでなんとなく無条件に、それを信じていたような気がする。先輩が〝魔女〟である事を分かっていながら。
ため息を吐く。
でも、やはりそうはいかない。魔女である先輩は、いつも危険と隣り合わせだ。今回は辛うじて何事も無かった、辛うじてだ。
でも次は――
俺はそれがコワイ。先輩が大切なひとになってしまったから。事故で亡くした家族と同じように。だからまた亡くすのが、コワイ。
もしまた先輩を傷付けるようなヤツが出てきたら、俺は――
――俺はソイツをドウニモせずにいられるだろうか?
先輩の言葉とコワさが、胸の中で混じり合って黒々とぐろを巻く、夜の闇のように。守りたいのに、守れないかもしれないというジレンマ。先輩と一緒にいたいのに。
溜息を吐いた。ふと、空にある三日月が俺を見て嗤っているように見えた。
――オマエノ、ホントウネガイハ、チガウダロウ。
気が付けば、掌に血が滲むほど強く爪を立てていた。
彼と彼女の距離 了
二年…この章を書き始めて二年。
ようやく、ようやく本当に幕を下ろせました……




