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虚空の【セカイ】と魔女  作者: 白河律
君が怪物になってしまう前に
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君が怪物になってしまう前に 6

    ◇


 〝常識〟とは、なんだろうか。

 私達はそれぞれの生活を、それぞれの想いを持って日々を生きている。

 それらは千差万別で、きっとひとつとして同じものはない。

 けれど、多くの同じ共通の認識を持って生きている。

 昼と夜。光と闇。人。人間。言葉。右と左。

 信号は赤は止まれで、青は進め。

 音。気持ち。思い。上と下。男と女。街と荒野。

 110の電話番号はお巡りさん。

 止まることのない時間。戻れない時間。高さと低さ。

 日曜日は休日。

 晴れと雨。熱さと冷たさ。若さと老い。生と死――


 これらが存在し、それを認識し、知っているからこそ私達はそれぞれの生活や想いが別のものでも、同じ社会の中で生きていける。


 例えば私が明日のテストがイヤで、明日なんて来て欲しくないと、どれだけ祈っても、時間は止まらず明日はやって来る。

 みんながそう知っていて、たとえどれだけ現実逃避をしようとも、やはりそのことを私も知っているからだ。

 だからこの【セカイ】では明日はやってくるのだ。

 多くの人の認識と、私ひとりの認識。

 多くの人の想いと私の想い。

 私ひとりのちっぽけな想いは、明日はやってくるという多くの人の認識には所詮勝てない。

 私が布団を被り、明日が来てないことにしても朝のニュースは流れるし、みんなは学校に仕事に行くし、そのうち担任の先生から呼び出しの電話も掛かって来るだろう。

 そんな風に世界は回っていく。

 それが〝現実〟というもの。


 そんな認識――〝常識〟によってのみ造られているのが私達の【セカイ】。


 だからこの世界は危うい。

 空想が本当になってしまうような、いや空想そのものの世界なのだから。


 人々の〝常識〟の在り方、捉え方、認識で簡単に変容してしまう世界。

 もし、多くの人が明日になれば世界が終わると信じてしまえば――きっとこの【セカイ】は終わってしまう。

 そうならないのは、私達が明日は来るという〝常識〟を疑わないことで世界を知らないうちに守っているとも言えるからだ。


 だがこの世界にはもうひとつの危険が存在する。

 それはこのヒトの世界を否定し、拒絶する想い。

 世界に対する――怒り、憎しみ。

〝現実〟に付けられた傷。


 完璧では無いこの世界では、みんなが必ず幸せにはなれない。

 幸せと同じように、不幸は大なり小なり必ず降りかかる。

 それは、普通に生活をしていれば起こる当たり前のこと。

 しかし、もしそれがその人にとって抱えきれない程のものだったら?

 激しい苦しみを生むものだとしたら。


 ヒトは憎しみを抱く。


 問題はその矛先をどこに向けるか、だ。

 自分に向けるか――それとも世界に向けるか。

 自分を殺すか――世界を殺すか。

 あるいは、時間による忘却を祈るか?

 憎しみという苦しみから逃れるには、そんな方法しかないと私は思う。


 もし、世界を殺すことを決めたのならばその人は〝常識〟を侵してしまうだろう。

なぜならば〝常識〟は必ずしも人を救わないし、時に苦しめることもあるからだ。


 私達は〝常識〟を〝現実〟を侵してしまう者を怪物と呼ぶ。


 ――ただ、強く願うのであれば。

 その憎しみはヒトを確実に本当の怪物にしてしまう。


 それがこの【セカイ】の魔法。


 そして、不幸から生まれた怪物はその憎しみを果たすまでは止まることはないだろう。それまでにどれほどの人を傷付けるのだろうか。

 その傷はきっとまた怪物を生むに違いない。

 不幸な魔法は、不幸な奇跡を繰り返す。


 やがて憎しみは世界を呑み込んでいき――世界を壊す。


 そんな怪物を、私は殺す。

 私は――魔女なのだから。


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