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虚空の【セカイ】と魔女  作者: 白河律
美醜の庭
139/160

エクストラ その5・2

 「ゲフンゲフン……!せ、せんぱい、いきなり……どうしたんですか?」

 咳き込みつつも、辛うじて噴き出す事を回避しながら聞き返す。

 「あの……ごめんなさい!急に変な事を聞いてしまって……それは自分でも分かってはいるんだけど。そのね……そういう事ではなくて、今回の事で思ったの。男の人も女の人も相手を想う事が無くたって、そういう事が出来てしまうんだって。だから殻木田くんは、そういう事に対して、どう思うのか聞いてみたくなったというか……」

 あたふたとしながら答える先輩に、いつもの物憂げな雰囲気はない。


 それでも――それでも眼差しは、どこか縋るようにして俺を見ていた。


 その目を見て俺は、カップを置くと真剣に考える。

 多分、これはキチンとした答えを返さなくてはいけない事だと思ったからだ。

 今回の事で藤原文香というひとりの女性は死に至り、先輩も犯されかけたからだ。

 先輩は強いひとだから、これまで一言も恐かったとも零さなかったけれど、そんな先輩だってひとりの女の子なのだから。


 「……全く考えない、と言えば嘘になると思います。でもだからといって、相手の気持ちを無視して、傷付けてまで強引にしたいとは思いません。その……月並みですが、好きな相手には優しくしたい、とは思いますから……」


 出来るだけ真剣に考えて答えてみたけれど、最後の方は気恥ずかしくなって言葉尻が小さくなってしまう。

 そうだよ、気恥ずかしいんだよ!先輩の事は時々そういう夢も見るし、それをこういう形で告白するのは気恥ずかしいんだって!

 けれど恥ずかしさに震える俺と逆に、先輩は穏やかに微笑んだ。


 「やっぱり、殻木田くんはそうなのね……」


 「えっと、俺は気恥ずかしかったんですが……」

 「でも、その言葉が聞けて良かったと私は思うの。あの男は言っていたから、私が幾ら憎むと言っても〝そういうモノしか信じられない〟と。きっと、今回の事の始まりって、そういう所から始まった事だと思うから」

 その言葉で上代啓二の事も、先輩の事もストンと胸に落ちる。

 そうだ、きっと今回の事はそういう事だったのだろう。


 上代啓二は、誰も何も信じようとはしなかった。する事を止めてしまった。

 誰かと繋がる事も。

 その代わりに自分の中の【セカイ】への憎しみだけを信じた。

 そういうモノしか信じられなくなった。

 ああ、やっぱり先輩は上代啓二の望むモノじゃない。

 俺の目の前で微笑んでいる彼女とは違う。


 そして彼女は、カップを置いて指をいじましく絡ませながら言った。

 「今回の事で私、やっぱり思うの。殻木田くんには、いつも私の傍にいて笑っていて欲しいって。でもその為には、これからは私もできるだけ大事に至るような事は避けるようにしないとね。その事でまた殻木田くんを悲しませたり、もう誰かを殺すような事はして欲しくないから――」


 その笑顔が俺には、手を伸ばし難い程に眩しかった。



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