エクストラ その5・1
彼と彼女の距離
1
「――という事があったのよ」
「そんな事があったんですね……」
先輩が手にしている紅茶のカップを含んで、一息を吐く。
上代啓二の事から数日後、一学期の終業式を終えた日の夜、俺は先輩の家にお邪魔していた。そうして先輩が上代啓二に攫われていた時の事を、お互いに話し合っていた。本当はもっと早く話し合いたかったのだが、今回の事は世間一般に限らず魔女の世界でも大事だったらしく、その時間を取ることが出来ずにいた。
――街を管理している魔女の怠慢。ミスの隠蔽。相手が能力者であり、その能力に掛かっていたとはいえ、同じ魔女に対する裏切り。
その当時者の一人でもある先輩のみならず、俺もまた古谷先輩から色々と聴取を(ついでに勝手に上代邸に突入した事に対するおしかりも)受けていた。尤も古谷先輩も隣街の今後の事で色々あるらしく、頭を抱えていたんだけどね。
「……それで上代啓二は、どうなるんですか?」
「そうね、表向きは警察に逮捕された事になっているけど、実際は魔女達がその身柄を握っているわ。まあ……どういう形であったにしても魔女に手を出したのだから、マトモな死に方は出来ないでしょうけどね」
「うああ……」
これまで上代啓二のしてきた事を考えれば同情はしないが、どういう目の合わされるかと考えると、想像する事すらそら恐ろしく背筋が震えた。
それにしても――上代啓二か。
自分の知っている事や先輩から聞いた話も含めると、その生い立ちはあまり幸福ではないと思う。
だからチカラを手にして、こんな惨劇を起こした。そう括ってしまうのは簡単だけど、本当にそれだけでいいのだろうか?
だからといって、チカラを使って何の関係もない多数の女性を惨殺していい筈はないのだが。
そもそも上代啓二は先輩に何を求めて攫ったんたんだろう?
俯いたままぼんやりとカップの中を見ている先輩を、見ながら考えてみる。
上代啓二は先輩に――依存するものは醜い、と言っていた。上代啓二にとっては自分を虐待し、身体を売る事でお金を手にした母親が醜いとも。だとするのなら、もしかしたら何者にも依存しないものこそが上代啓二の理想という事なのだろうか?
孤高、孤立、孤独……確かに先輩にそれは当て嵌まっているのかもしれない。魔女であり、家族もなく、学校では殆ど関わる人のいない先輩には。
でも俺は知っている、先輩がそんなひとではないという事も。
そもそも先輩が魔女になったのは、亡くなったお母さんの事を想っての事だ。ひとりぼっちになってしまった先輩が、それでも生きていく為に選んだ事だ。
それは愛情であり、同時に依存なのかもしれない。
家族を亡くして、誰を助ける事を決めた俺と同じように。
何かに強く依存するからこそ――それは孤高にも、孤立にも、孤独にも見えるのかもしれない。
そうだとしたら先輩は、最初から上代啓二の理想に沿う存在なんかじゃなかったんだと思う。
それに俺から言わせてもらえれば、先輩は人との繋がりを絶てるひとじゃない。むしろ――
――カップの中を見ていた先輩が、ふと顔を上げてお互いの視線が合った。
「……」
「…えっと」
お互いに言葉はない。考え事をしていた俺は急に言葉が出なかった。
「……」
「……先輩?」
先輩が一度、俺を見て何かを言おうとして、けれど何も言わずに視線を反らした。すると今度は顔を赤くして何かを呟いたかと思うと、いきなり青くなる。
一体、どうした事やら。
取り合えず様子を見守りつつ、俺も落ち着く為に紅茶を口に含んだ所で、先輩はこう言った。
「……殻木田くんも、したいと思うの……その私と。男女のする事を……」
男女のする事ね。ああ。アレね。アレですか?もしかして?
その考えに至り、俺は飲みかけの紅茶を盛大に吹きそうになった!
ブッホォフ!
前回、一話だけ……と言ったんですが、やはり無理でした!




