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虚空の【セカイ】と魔女  作者: 白河律
美醜の庭
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美醜の庭 10


 「ああ、でもその前に殻木田君には、もうひとつ聞いておきたい事があるかな――」


 「何ですか……?」

 嗤ったまま古谷先輩は言葉を続けた。尤もらしく言葉を一度、止めてから。

 他に、俺に何が聞きたいというのか。

 「――あなた〝魔女〟と組みしていいの?小夜を探す為とはいえどもね。あなたは、今はもうある程度〝魔女〟というものがどういうモノかは知っている筈。それでも私達に関わる、助力をするというのなら、それは誰かの破滅に関与する事に繋がるかもしれないから。それにあなたが耐えられるかと思ってね、普段から〝人助け〟を志している殻木田君にね」

 その言葉は、一見すれば俺を気遣っているようにも聞こえる。

 しかし、魔女は嗤っている。

 俺は問われているのかもしれない――覚悟を。

 六月の季節外れの怪異を通して詳しく知った事だが、虚木先輩も含めて魔女はこの【セカイ】を護る為に存在している。その為に怪異の原因となるひとの想い、記憶を刈り取っている。その人間の善悪を問わず。

 記憶を刈り取られた人間は記憶を失くす――ココロを殺されるに等しい。

 そんな〝魔女〟に深く関わるという事は、これからの自分の行動が、誰かの破滅にも繋がるという事だ。


 「構いませんよ……」


 俺は震え出した手を、強く握り締めながら答えた。

 「あら、意外ね。わたしとしては、もう少し躊躇うかと思ったのに」

 古谷先輩はさも意外そうに、口に指を当てる。

 「それは、小夜の為だから?」

 その問いに、俺は頷く。


 「愚かね――」


 俺を見る彼女の目は、酷く冷たかった。



 「――さて、幾つか質問を挟んだけれど、そろそろわたしの知っている事を話しましょうか。まずは、あなたにも分かる現実的な所から」

 そうして、古谷先輩は話を始める。

 「まず、わたしが小夜の失踪に気が付いたのは今朝の早朝。それは互いの存在の安否を確認する為に、朝夜と行う魔女としての習慣から。あなたも知っている通り、わたしと小夜は〝魔女〟としてコンビを組んでる。互いが円滑に魔女としての責務を果たせるように、幾つか決まり事をしているけれど、これもそのひとつ」

 「その事で、古谷先輩は虚木先輩の失踪に気が付いた訳ですね」

 古谷先輩は頷く。

 「そう。確認の仕方は魔女としての力に依るものだから、後で説明する。兎も角、小夜の存在が感じられない事に気が付いたわたしは、携帯にも掛けてみたけれど、これも反応が無い。この時点で何かがあった可能性は非常に高かった。次に繋がりのある近隣の警察や、病院に連絡を取ってみたけれど、こちらでも音沙汰は無かった。逆に言えば、今の時点では死亡や重症を負ったという事も確認は出来ていない」

 「それは喜んでいいのかは分かりませんが……今の所は存在が確認出来ず、警察などにも情報が無い。確かに行方不明みたいですが、もしかしたら虚木先輩が何か理由があって自ら、行方を眩ませた可能性は無いんですか?」

 そう言うと、古谷先輩はすぐさま首を振った。

 「その可能性は低いと思うわ。あなたの聞いた最近の様子からもそうは思えない。それに小夜は……普段はアレだけど、魔女としては概ね従順だから。少なくとも突然、何事もなく全てを放り出すとは思えない」

 「信頼、しているんですね」

 「まあ、一応は。そうでなきゃコンビとしてはやってられないからね」

 肩を竦めて答える古谷先輩。

 虚木先輩からは前に、古谷先輩とは幼馴染みたいなものだとは聞いていた。やはり普段はどれだけ悪態を吐き合っていても、ふたりはどこかで深く繋がっているのだとは思った。

 「それから、最後にわたしは確認の為にもあなた――殻木田君にも連絡を取った。結果は分かり切っていたけれど」

 成程。そういう過程があって俺の所にまで、確認の連絡があり、最近の虚木先輩の様子を聞くに至った訳か。


 ここまでの話を頭の中で整理してみる。

 虚木先輩が行方不明になったのは、昨日深夜から今朝の間。

 魔女の力で、という事らしいが、先輩の存在が最期に確認出来たのは昨日の深夜の隣街との境にある公園が最期。今もなお携帯での連絡は取れていない。

 今の所、警察や病院でも所在は知れず、死亡や重症を負ったかも分からない。


 これらの事から、ふと思い付く事があり、古谷先輩に尋ねてみる事にした。

 「普段の魔女の習慣や、昨日の深夜の事でもそうですが――その力で、今の先輩の行方って分からないんですか?」

 そう、この事だ。先輩達が普段から不可思議な力を行使しているのなら、今でもその力で解決を試みる事は出来る筈なのだ。

 「――イイ所を突いてくるわね。そう、その通り。実はわたしの魔女としての力を使えば、小夜を見つけられる可能性は、大きく上がるわ。わたしも万能じゃないから、確実ではないけれど」

 それから、古谷先輩は頭を搔きながら、如何にも面倒くさそうに溜息を吐いた。

 「ところが、そうはいかない。これは、わたしの能力の問題じゃないの。恥ずかしい話でもあるけれど〝魔女〟という組織、構図、身内の問題でそうする事は出来ないの」

 〝魔女〟の組織の問題か。

 それは確かに、今の俺では想像すらも出来なかった部分である。

 俺は先輩達以外の魔女を知らないし、それが具体的にどのような形で成り立っているのか聞いた事も(多分、先輩達に聞いても部外者である俺には、教えてはくれなかったとも思うが)無かった。


 「ここまでは、あなたにも理解できる現実的なお話だった。これからは本当にあなたが、これまで知り得もしなかった〝魔女〟の話になるから――」

 そう言うと、もう一息付くと古谷先輩は話を続けた。


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