恋獄迷宮 12
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日曜日――この週の週末が訪れました。
そう、この日はお姉ちゃんが小林先生と会う日でもありました。
お姉ちゃんは私の事も誘ってくれました。
でも私は置手紙をして、朝早くに家を出ました。
――友達と遊ぶ約束があるので、ふたりで楽しんで来てください。
それは、嘘でした。
ただ私がふたりと一緒にいてはいけない、一緒にいられないと思ったのからです。
こうして私は私服のワンピース姿で時間を潰す為に、アテも無く街をさ迷う事になったのです。
夏の真っただ中にあり、快晴でもあるこの日は、朝から強い日差しが降り注ぎ、熱気に包まれていました。
はっきり言って暑いです。私はこんな中を放浪するのか思うと早くも、うだりそうになりました。
家を出てから数時間後、私は学校へとやって来ました。
特に目的があって来た訳ではありません。街で本屋や百貨店で時間を潰していたのですが、そうして回る事にも飽きて、なんとなく学校へと来てみたのです。
休日の学校には殆ど生徒はいません。部活動の為や、委員会の為に登校している生徒くらいです。
まあ、休日にわざわざ学校にすき好んで来たがる生徒なんて、稀じゃないかなと思います。
私も学校が別にキライでは無いですが、特別好きという事もありません。
社会人になったお姉ちゃんは、学生はいいぞ~!今の内にしたい事は、出来る範疇ならドンドンしとけ~!としきりに言っています。
まだ学生の身分である私にはまだピンとはこない言葉です。
それにやりたい事といっても……直ぐには出てきません。
そういう意味では、こうして休日にさえ学校に来て、何かに打ち込んでいる生徒は私には何だか眩しくも見えるのです。
私はグランドの木陰にあるベンチの下で、グランドでサッカー部や野球部の練習風景をぼんやりと眺めていました。
そこにあるのは――日常。
取り留めも無く流れる時間。
でもそれは本当にいつでも、いつまでも同じものという訳では無くて。
当たり前と思っていたものが、唐突に終わりを告げる事もあるのです。
その事を私は、恋をして初めて知りました。
その事で私の日常は大きく変わってしまいました。
何時だって、小林先生の事が頭から離れません。
けれど、小林先生はお姉ちゃんと――
こんな風に私が過ごしている時にも、お姉ちゃんは小林先生と会ってきっとデートをしているんだと思います。
もしかしたら恋人として、触れ合って結ばれているかもしれません。
「……」
そんな事を思い浮かべると、胸が痛いくらいに締め付けられます。
苦しい、苦しくて仕方ない。
この気持ちがどこに行くのか、どこに辿り着くのか、まだこの時の私は知らずに――いえ決められずにいたのです。
そんな風にいつしか、考え込んでいた時です。
こんな声が聞こえたのは――
「――おやおや、何かお悩みのご様子ですね。こんな時こそ、ふたみの出番というものではないでしょうか?」
声のした方を見れば、そこには私の学校の制服を着たひとりの女子学生がいました。リボンの色からすると、ひとつ学年が下の一年生でしょうか?
「あなたは――?」
見知らぬ女子生徒に、そう問うと彼女は唇を歪めて笑いながら答えました。
「これは失礼しました。私は境ふたみと申します。〝短い間〟ですが、是非お見知り置きを――〝遠野早苗〟先輩!」
名乗ってもいないのに、私の名を告げた彼女が頭を下げます。
何故でしょうか?
夏の日差しの下で屈託無く笑う彼女の笑顔が、不意に先日の夜に出会った古谷さんと、どこか同じモノのように見えたのは。
◇
夏の日差しの当たらない木陰のベンチに、私と隣り合って座る――境ふたみさんがカードを切ります。
セミの声が近くに聞こえる中で。
今、私は彼女にタロット占いをして貰っている最中でした。
「遠野先輩。唐突ではあるんですがもし、悩み事があるようでしたらふたみと――タロット占いをしてみませんか?」
スカートのポケットからタロットカードを取り出し彼女は、そう言いました。
その事で、私は思い出しました。
今年、入った新入生で女子の中で話題になる子がいた事を。
その子の占いはよく当たるけれど、気まぐれでしかしてくれないという話でした。
どうやらそれはこの子のようです。
外見は肩口程のボブで、制服の着こなしも普通。
余り目立った特徴が無いように見える彼女ですが、カードを切る手捌きは鮮やかで、不器用な私にはマネ出来そうにもありません。
そんな彼女に私は問います。
「あの……境さんに幾つか、聞きたい事があるんですが」
「はいはい、何でしょうか?ふたみは大抵の事ならお答えしますよ~」
カードを切りながら、彼女が答えます。
その事で私は彼女に対して、抱いた疑問について聞いてみようと思いました。
「まず、どうして私の事を知っているのかな?その……これまで面識は無かったと思うんだけど」
「その事ですか。そうですね~確かにこうしてお会いするのは初めてなんですが――なんというか、あるひとのツテで知ったというか、言うなればそのひとと会っている所を〝視て〟しまったというか。まあ、そんな所です」
あるひと……それは誰だろう。
咄嗟には思い付きませんでした。
いや、でももしかしたら――私の頭には、先日の夜に会った彼女の事が頭を過りました。
とりあえず、その事は置いておく事にして、次の質問を彼女にする事にしました。
「次に聞きたい事なんだけど……どうして、境さんは私を占ってくれようと思ったのかな?噂だと、占いをするのは気まぐれだって聞いたんだけど……」
「ああ、そうですね――」
一度、カードを切る手を止めてから彼女は答えました。
「――面白そうだったんですよ。先輩に纏わる〝これから〟の事が」
平凡そのものにも見える彼女が嗤います。
夏にふと、影差す陰影のように。
「え……」
呆気に取られる私に境さんは言いました。
「――さあ、先輩。占いの準備は出来ました、始めましょうか?」
境ふたみ、登場!
迷う彼女は何を告げるのか、その言葉は未来への道しるべか、あるいは……




