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虚空の【セカイ】と魔女  作者: 白河律
古谷千鶴の事件簿 1 恋獄迷宮
103/160

恋獄迷宮 6


     4


 「古谷先輩、お茶を淹れたのですが、休憩がてらに如何でしょう?」

 遠野さんの告白を聞いた次の日の放課後、生徒会室で仕事をしていると、そんな声が掛かった。

 向き合っていた書類から目を離して、わたしに声を掛けた人物を見る。

 およそ校則通りに着込まれた制服、それよりは僅かに短い女子生徒の中では平均的なスカートの丈、短いとも長いとも言えない肩口辺りのボブ寄りの髪型。

 そこには一年生にして生徒会書記である――境ふたみ(さかいふたみ)さんがいた。

 手の持ったお盆の上には、緑茶が入っているであろう湯気を立てる湯呑みがふたつ置かれている。

 「そうね、一旦休憩にしましょうか。淹れてくれてありがとう!」

 部屋に備え付けられた時計を見て、作業を始めてからそれなりの時間が経っている事に気が付いたわたしは、休憩を取る事にした。



 「今日は皆さん、外でお仕事なんですよね」

 「そうなのよね。まあ、だから今は人がいないんだけどね」

 生会室には、わたしと境さんの二人しかいない。長机を挟んで、彼女と向き合いお茶を飲む。

 小夜や殻木田君(彼は役員じゃないけれど)、他の役員は夏休み前の部活動の視察とか、校内での報告のあった備品の破損個所の確認をしに行っている。

 手が空いていた境さんには、わたしの仕事を手伝って貰っていた。

 「――だから副生徒会長である古谷先輩が残って、書類整理やチェックをしていたんですよね」

 「そうなるかな」

 「古谷先輩、いつもお疲れ様です!」

 境さんが頭を垂れる。

 「先輩がいつも生徒会長の代わりに指揮を取ったり、人よりも多くの仕事をしてくれるから、生徒会は円滑に回っていると私は思います――」

 「――いやいや、それがわたしのお仕事ですから!」

 冗談めかして笑う。

 「それでも、私は凄いと思いますよ」

 「そう?」

 「ええ。自ら立候補した方もいますが、生徒会という学生の中でも一番大きい組織でさえ、なんとなくでなってしまった方や、私みたいに他にやる人がいなかったという消極的な理由。それに虚木先輩みたいに、完全に人気投票というか雰囲気で決まった方もいますし」

 「あ、うん。ソウダネ……」

 そもそも普段の学生生活でさえ傍目から見ても、やる気が感じられない小夜が何故、生徒会長になってしまったのか。その事には、わたしにも非があったりする。

 高校に入って本格化した魔女としての活動。それは大抵、深夜にも及ぶのでこれまで以上に睡眠時間を減少させていった。

 この事にいよいよ堪えたのか、中学までは積極的とは言えなかったが、怠惰とまでは行かなかった小夜の生活を居眠り三昧なものに変えた。あるいは起きていても大抵、ぼんやりと外を見ているだけのものにした。

 だから、小夜は容姿こそ抜群でもひととの係わりは皆無に近かった。


 ――いや、あるいは小夜が自分から離れていったのかもしれない。

 ――〝魔女〟として〝刈り取る〟事の重さに耐えかねて。


 わたしは、そんな彼女に発破を掛けたかったのかもしれない。

 だから彼女をクラスの会議の時に、生徒会の候補に推薦した。

 まあまさかその後、わたしも巻き込まれてふたり共々、生徒会に所属する羽目になるとは思わなかったけど。

 それで一度、体育のテニスの授業でラケットとボールで、ガチバトルしたっけ。一時間殺し(やり)合っても結局、結着は決まらなかったけど。

 アホだわ。

 「私は誰も彼もが、古谷先輩のようには出来ないと思いますよ」

 境さんがわたしを見つめる。

 「そのわたしはね。どういう形であれ、背負った事は――キチンとやらないと駄目だと思っているから」

 お茶を飲みながら答える。

 それが生徒会の事でも、例え〝魔女〟の事でもあっても。


 「――ええ、本当に先輩は凄いですよね。そうした〝意思〟だけで大抵の事が出来るんですから。そう、結果は別にしても〝笑ったまま〟行えてしまうんですよね」


 境さんが細まった目で〝わたし〟を見ていた。

 「――」

 わたしは湯呑みを机に置いて、彼女と見つめ――否、睨み合った。


 「古谷先輩。私には時々、そうしたあなたの姿が他人を程よく近づけさせない為の――〝仮面〟にも見えるんですよ」


 境さんの声が生徒会室に静かに響く。

 わたしはその事を否定しない。

 古谷家の〝魔女〟である為にはそうするべきだと思っているから。

 だからと言って――他人に指摘されるのは、アレだが。

 空気が急速に冷えて、剣呑さを増していく。

 互いに言葉を待つ。

 それは何処か、互いに背中に持った刃を何時、刺し出すかという立ち合いにも似ていた。

 全くこの後輩は何時、どうしてその事に気が付いたのやら。

 思考が尖る、魔女である時のように。

 そして――


 「――先輩、ごめんなさい!」


 最初に言葉を放り出したのは、境さんだった。

 「個人の見解だけで、随分と失礼な事を言ってしまいました。気分を害してしまいましたよね?」

 彼女が頭を下げる。

 「大丈夫よ。これくらい〝何でも無い〟から」

 〝わたし〟は笑う。

 「その……お詫びと言ってはなんですが――」

 それから彼女は頭を上げて、スカートのポケットを漁りながら言った。


 「――ふたみと、タロット占いをしませんか?」


 そうして取り出したのは、細長いカードの束だった。


新キャラ、堺ふたみの登場です。

剣呑な彼女は何者なのか。


少しずつ明かされていきます。

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