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虚空の【セカイ】と魔女  作者: 白河律
古谷千鶴の事件簿 1 恋獄迷宮
102/160

恋獄迷宮 5


     ◇


 ――世界が見る者によって、姿を変える。


 それは、そう珍しい事では無い。

 例えば、机の上に一枚の紙を置くとする。そこに黒いインクを垂らす。

 すると、黒いインクは紙の上に影のような不規則な形を描く事だろう。

 それが、何に見えるだろうか?

 わたしには揺らめく炎にも、血に見えるかもしれない。

 小夜には音符に見えるかもしれない。

 他の誰かには、また別のものに見えるかもしれない。


 ――それは世界とは違い、曖昧で不規則なものを見ているからに過ぎないって?


 ではわたし達は日々、生活する中で同じ事柄に対して、全く別の想いを抱く事はないだろうか?

 気分がいい時は朝の占いの結果が、より気分を盛り上げてくれるかもしれない。逆に気分が最悪の時には、ただの皮肉に聞こえるかもしれない。

 他にもふたりの人間が同じ本を読んでも、全く別の感想を抱く事もあるだろう。

 どうして、そんな事が起きるのだろう。

 それはきっとわたし達に、人間に――こころがあるから。

 生い立ちや環境、体験により造られる〝記憶〟がそうした〝人格〟とも言うべきものを形成するから。

 だから同じモノですら、同じようには見えないし感じない。

 同じ人間ですら、その日によって同じ物事に対して抱く思いすら変わる。


 ――そう、人間なんて元から酷く曖昧なものでしかない。


 多感で移り気で、不完全なものだ。

 だからこそ、直ぐに変わってしまう。

 遠野さんのように、小夜のように、たったひとつの想いを抱いただけでも変わっていく。


 ――この【セカイ】はそんな人間の想いだけで、造られている世界だ。


 だから時として人が抱く強い想いは、まるで魔法のように世界の理を塗り替えてしまう。

 その願いが叶うものなら問題は無い。その願いの良し悪しは別としても。

 問題は叶わない願いだ。叶わない願いはこころに秘められる。それがそのまま諦らめ切れないもの、忘れられるもので無い時、この【セカイ】は別の形でその願いを現実に現してしまう。

 それこそが〝怪異〟であり、空に見える〝疵〟だ。

 叶わない、叶う事の無い願いの発露の形。あるいは〝日常〟の中で生まれる悲しみや怒り、不満の形の表出。

 わたし達〝魔女〟はそうした〝怪異〟を〝刈り取る〟事を生業としている。

 何処かで生まれた〝怪異〟が他の人間の〝日常〟を犯さない為である。

 そうする事で【セカイ】を守っているのだ。

 わたしは魔女である母様からそうずっと聞かされてきたし、その事を同じ魔女として経験をして実感もしている。


――母様の話や、わたしの経験や実感こそが偽りだって?


 ああ、案外そうなのかもしれない。

 母様の話も嘘で、わたしの実感やこれまでの経験なんて、知らない内に気が狂ったわたしが見ている妄想、あるいは夢なのかもしれない。

 この世界に存在する多くの人間は空に〝疵〟なんて見えないのだから。


 ――それが、なんだって言うのだ。

 ――わたしは、わたしの〝日常〟を〝現実〟だけを信じる。


 そもそも大多数の見ているものが、真実であるという保証がどこにあると言うのだろう。むしろ真実とは、多くの人間には知らされないモノでは無いのだろうか。

 何故、明かされないのか?

 真実を知る事には責任や覚悟や力が伴うからだと、わたしは思う。

 それを長い間、魔女であるわたしの母様のように大勢の人間が持ち合わせているものなのだろうか?

 わたし達〝魔女″の持つ〝杖〟あれだって、思うだけで現実の理を捻じ曲げる事の出来るものだ。それを扱えるだろうか?

 だからこそわたし達、魔女は〝怪異〟を〝刈り取る〟と共に事態の中心になった人間の想いを司る記憶を、それに巻き揉まれた人間の記憶も消す。

 記憶を消すという事が、その人間の〝人格〟の崩壊に他ならないとしても。

 それがこの【セカイ】を守る事だというなら、わたしは躊躇わない。

 自分で決めた事なのだから、躊躇ってはいけないと思う。


 それでもわたしはただ、ただ多感で移り気で、不完全なこの【セカイ】を壊す人々を煩雑に思う。


想うだけ、世界に干渉する魔女たち。

彼女達の能力とバトルは外伝「魔法少女サヨ☆りん」にて細かく、エロく明かされてます(笑)

ご興味があればそちらもお願いします。

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