92話目
92話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
日が一日進み、昨日の寒さを少し落ち着かせた昼。
今日もまた、昨日から続いて家庭科準備室に行き、三人で昼食を済ませる。
矢波先輩にこれからはここでとその時に言われてしまった以上、先輩達が登校しなくなるその日までは俺の昼食はあそこで三人で食べるのが当たり前になるのだろう。
嫌気はなく、むしろ心休まる場所が見つかったのはありがたいことである。短い期間ではあるが、存分に休ませていただくことにする。
矢波先輩と桜丘先輩は受験対策のテストやなんやを午前中にしたらしく、午後の授業は無いらしい。
高校から解放され、家庭科準備室で俺を満足いくまで会話に付き合わせると、持ってきていた鞄にお弁当を閉まって二人は玄関へと歩いていく。
少々羨ましいような気もしながらも、家路に着く二人が手をふりふりこっち振って校門から消えていくのを玄関から見届け、廊下へと帰る。
昼休み終わりまではまだ時間に余裕はあり、とりあえず教室には戻ろうと階段方向に足を向ける。
すると、目の前をダンボールが二つ。自分自身の視界を遮るようにして、けれど足元を危うくさせることなく持つ一人の男子が不意に現れた。
なんとなく顔を見れば、そっちもこっちに反応して顔をひょいと覗き返してくる。
「あ、先輩じゃないっすか!」
「…あぁ」
ダンボールを抱えていたのは一。
俺だと分かるとよいしょと箱を揺らしてバランスを整え、顔が隠れないよう上手に立ち位置を調整する。
「なにしてんの」
「生徒会でちょっと必要な荷物があるんすよ。冬休みも近いっすから色々備品もチェックしとかないといけないっすし。ちょー大変っすよ」
「詳しいな…」
生徒会の役員ですらない一が生徒会に詳しいのは今までを見ていれば大まかな事情は予想が付く。が、にしてもなんの躊躇いもなしにそれをしているのは中々違和感。
これ、このまま続けていずれ生徒会長とかになりそうでちょっと怖い…。
今の生徒会長にも気に入られているとか聞いた記憶もあるし、余計にそれは想像が付きやすくなってしまう。
…そう言えば、矢波先輩からの誘いを一にはまだ伝えていなかった。話すタイミングとしては申し分ないだろう。
大変と言っていた割にはそんなにダンボールは急ぎの用でもないらしく、俺と暇潰しに雑談でもする気なのか、慌てたり時間を意識するような素振りは一から目立って見えなかった。
「それで、ここでなにしてたんすか?」
「…見送り」
「見送り…すか?」
「いや…まぁ、色々」
「そうっすか?」
正直に先輩達を見送っていたというのを端から端まで話すのは何故かもどかしく、あまり情報を与えない言葉を連ねて濁し、そして話を咳払いで終わらす。
「…それより、クリスマスの少し後って、あー…どんな感じなんだ」
話題をこちらで決めて誘おうとしたが、出した自分の声が変に緊張しているのが分かり、そこで俺が人を誘うことが壊滅的に下手くそな事を思い出す。
このつっかえよう、女子相手ならばまだ分かるが、そこそこ話してきた相手でさえこれで、聞いた一もきょとんと頭にはてなを浮かして首を傾げてしまう。
「年末じゃなきゃ空いてるっすけど…なんでっすか?」
「いや…その、なに矢波先輩の家でちょっとパーッとって話になって…」
「その…誘いっすか?」
「まぁ…そう」
言いたいことを代弁してくれて、ふぅと疲れた吐息が漏れる。
一はうーんとその誘いにどう答えるか考え込んだが、少しするとハッと何かに気付いたのか目を見開く。
「矢波先輩の家ってことはもしかして…桜丘先輩もっすか…!?」
矢波先輩がいるならば桜丘先輩も大抵の場合必ず傍にいるだろうと、俺が言い損ねていた事実を可能性として聞いてくる。それにあぁ、と首を縦に下ろして応えると、ダンボールを危なっかしく揺らしながら、一気に俺との距離を詰めて瞳の内側を星でキラキラ輝かせる。
「絶対!何がなんでも行くっすよそれ!絶対っす!絶対!」
「…あぁ。後、この話山中にも…」
「二葉なら自分から話しておくっすから!先輩と違って必ず会えますからっ!」
距離を詰められた分、数歩下がって距離を取り戻し、興奮で鼻をむふんと鳴らす一にありがとうとお礼を言っておく。
これで、一応二人には伝えたということになるだろう。
言いたいことも言い終え、細かい詳細は後で連絡することにして教室に帰ろうとすると、一の「うわっ!」という声と共に危なっかしく揺れていた上の方のダンボール箱が傾き、宙に舞ったそれを反射的に床に着きそうになったところでキャッチする。
「危ないんだけど…」
「あはは…ちょっと盛り上がっちゃいまして…ごめんなさいっす…」
一を軽く睨むようにして見て、手に乗った重いダンボールを返そうと差し出す。
僅かに開いた隙間から中を覗けたが、さっきのが原因か元からなのかゴチャッとしているだけで、パッと見、壊れているような物は見つからない。
このダンボール、俺が体育祭の時に持ってきたフラッグだったりのと中身が似ているか、もしかしたら同じ奴なのかもしれない。
運命のような物を感じている間、何故か一はこのダンボールを受けとらずにいて、うっすらの睨みを少し強めて急かす。
「これ」
「いや~…この箱二つ重ねると結構重いんすよね~…。二人いたらだいぶ楽になると思うすけどね~」
「……」
ダンボールを持ち上げ無理矢理上に乗せようと試みるが、流石これまで力仕事をやってきただけはある。軽い身のこなしでそれをステップを踏むようにするっと回避する。
お前…。
酷く嫌そうな視線で訴えるが、そちらも山中で慣れているらしい。その手は効かないと一は得意気に笑う。
「良いじゃないっすか!普段なら入ることのない生徒会室に入れるんすよ?」
「…別に興味ないんだけど」
「案外、生徒会室フェチみたいなのが隠れてるかもしれないっすよ?」
万が一にもあり得ないフェチだが、言い返した所でこれを受けとる気はさらさら無いらしい。
俺か詰め寄ると距離をささっと離し、そんな感じの追いかけ合いが始まって、階段をひたすら追いかけるために上らされていると、生徒会室の置かれた四階まで見事に誘導されてしまっていた。
その辺りに放置して教室に戻る手もあったが、ここまで来てしまうと頭が疲れで満たされ、その思考を実行する気が起きなかった。
食後という事もあり、脇腹が少しジンジン痛む。
「はぁ…」
四階には他に三年生の教室が纏めて並んでいるが、矢波先輩達同様に皆早帰りで、教室で雑談に耽る生徒は数名いるが、廊下の人の数は少なく、漏れたため息は消されること無く奥に消えていった。
「いや~手伝ってもらって悪いっすね~。あははー」
「……」
ダンボールを置いてく気は失せたが、こいつに全力で投げつける気は底から湧き上がってきて、無言でどこに当てようか清々しく笑う一の顔を横目で見る。
翌々見れば、彼の荷物の方が溢れそうなぐらい多く、中身も何処で使うのか分からないダンベルとかでとても重そうに思える。変に文句を言って取り替えられても困る。
この怒りさえ無ければそう辛い手伝いでもないはずだろう。
ダンボールを揺らしてバランスを直し、手伝う覚悟を決めた。
しばらく歩くと一は突き当たりを左に曲がり、またしばらく進むと今度も左に曲がる。
着いた一番奥の部屋のプレートには『生徒会室』と書かれていて、その部屋の扉を一は変に緊張や躊躇いを見せずに、比較的慣れた様子でこんこんと手の背でノックした。
「頼まれた荷物っすけどー!」
大きな声で言うと、扉越しに「入ってくれ」と、夏の体育祭準備の時に聞いたあの生徒会長の声が届き、一はガラッと扉を横に引いた。
勝手なイメージとしては生徒会室は革張りの椅子だったり、漆黒の木の事務机だったり、校長室並かそれ以上に豪華絢爛な部屋だったが、ここは部室とたいして変わらない普通の部屋。
革張りのソファならば入り口近くにテーブルを挟んで二つあったが、来客用なのか使ってはおらず、他の数名の役員は普通の机に置かれたパソコンと文字の詰まった書類に交互に顔を向け、集中して何やらカタカタキーボードを打ち込んでいる。
その集まりの一人に、一と親しいあの眼鏡も、生徒会委員でも無いはずなのにさも当たり前かのようにちゃっかり席に混じっていた。
「ん、君は」
「…どうも」
背表紙付きのファイルが並ぶ棚を背にして書類に囲まれていた生徒会長が、一の隣にいた俺に気付く。そして、会釈した俺が持つダンボールを見て色々察してくれる。
「一…お前変に手伝わせたりしてないだろうな」
「そ、そんなことないっすよー?先輩自ら率先して…」
「仁田…だったよな、本当はどうなんだ?」
一のとぼけたような言い方を不審と判断したらしく、視線と話を俺に指す。
「…手伝わされました」
ここで嘘を付いてあいつを守る必要は無い。
言うと、生徒会長ははぁと深くため息を吐き、額に手を当てて「悪かった」と責任も無いのに謝ってくれる。
そして、席からすっと立ち上がると俺からダンボールを受け取り、ソファへとそのまま言葉で案内する。
「そこで少し待っててくれ。紅茶と菓子を用意してくる」
「あ、それ自分も良いっすか!」
ダンボールを隅に置いた一が手を上げて同じのを要求するが、それに生徒会長は冷たい声音で言葉を返した。
「…元々、今から渡す菓子はお前のために用意してた物だ。だが、無理矢理手伝わせた以上それは没収になるな」
「そ、そんな…!それじゃ自分タダ働きっすか…!」
「お前に菓子を渡したら彼がタダ働きだろう。取ってあるのは丁度一人分だしな」
生徒会長がダンボールを自分の席の脇にとんと置いて、コードを伸ばす電気ポットの下の棚からカップを一つ手に取る。
それにお湯を注ぎパックの紅茶を浸して、「余り物になるが悪いな」と、紅茶とは生まれの違う、お皿に乗せられた普通のより一回り小さい饅頭が二つ、出来上がった紅茶とセットで出てきた。
それにどうもとお礼を言って頭を下げる。
饅頭をほうばる俺の目の前に一が肩と腰を落として、上半身を横に倒すとソファの腕置きを枕にして頭を乗せた。
「はぁ…」
「…まぁ、自業自得だな。…美味い」
「それ、二つあるのって本当は生徒会長が自分のために残してくれた優しさなんじゃないかって思うんすよね…」
席に戻り業務を再開した生徒会長に、ギリギリ聞こえないぐらいの声量で俺にそっと問いかけてくる。
だが、それはあくまで一のそうだったら良いなという希望的観測でしかなく、だから一つを一気に飲み込んで、口の乾きを感じながらももう一つをすぐに口の中にほうばった。
追って、湯気を蛍光灯に伸ばす紅茶も飲めば、一に渡る物は何処にもない。
「…本当に美味い」
「あぁ…食べたかったのに…!」
ガバッと身体を起こし、お皿に悲しげに一の手が伸びたが、何も掴むこと無くそれはテーブルの下にだらんと垂れていった。
ご飯を奪われた犬のような、しょんぼりとした顔をされてしまうと、せめて紅茶ぐらいは良いんじゃないかと思ってしまい、生徒会長の方を見て駄目ですかと声を出した。
「…その、紅茶ぐらいなら良いですか」
名前も含めずに誰に対して言ったのか分からない状態で話してしまったが、向いている声の方向が自分と分かると生徒会長は「ん?」と書類から顔を出して、ソファで半分泣きかけの一を視線に捉えると腕を組んで悩み始める。
「…まぁ、それぐらいなら仕方ない」
俺と同じ心境になったのか渋々生徒会長は頷き、椅子から立ち上がって手際よくお湯を注いだカップに紅茶のパックを浸し、僅かに紅茶に波を起こしながらテーブルにかちゃっと置いた。
それに一がううっと悲しげな顔をそのままに手を伸ばし飲むと、「熱っ!」と身体を跳ねさせた。
「むっちゃこれ熱いじゃないっすか!」
「一、猫舌なんだな。知らなかったぞ」
「…ですね」
カップを慌てて一が戻し、ふーふー息を掛けて必死に冷まそうとしていると、生徒会室の扉がこんこんと優しく誰かにノックされる。
仕事に没頭している眼鏡以外が自然とその音に視線を引っ張られる。
生徒会長が「どうぞ」と言うとほんわかふわふわ軽い足取りで、見知った顔が入ってきた。
「きーくん、お仕事、どう?終わったかな~?」
「雅…」
生徒会室に家庭科部の部長である佐登先輩が入ってきて、生徒会長を文化祭の時に言っていた可愛らしい渾名で呼ぶと、彼の固かった顔が苦み走ったものに変わる。
その横、さっきまで悲痛な表情をしていた一が、紅茶冷ましながらも、カップの上ではきーくんを繰り返し呟きながらにやにや満面で笑っていた。
辺りを見れば仕事に熱心していた役員や眼鏡の肩が、普段表に現れない部分を見たからかプルプル上下していて、俺もそれに釣られて、生徒会長には背中しか見えていないが表では静かに笑みが漏れてしまう。
「きーくん…きーくんっ…!ぷふっ…!」
「一、お前っ…!…み、雅、前も言ったがもう少し控えてくれた方がこっちとしては…」
「えー…私はきーくんが良いな…。きーくんは昔みたいに私のこと、みやちゃんって呼んでくれないの?」
「いや…ちょっと待ってくれ……こ、こっち」
生徒会室の戸を開け、逃げるように生徒会長は部屋から足早に出て、外で佐登先輩を必死さを感じる声音で招く。
このまま行くと生徒会長としての威厳どころかただの一人の男子として、色々プライドとかが傷つけられてしまう。
だが、そこら辺特に佐登先輩本人は全くと言って良いほど気にしてないらしく、どうして?と首を不思議そうにこてんとかしげながら、冷気を吐く廊下に制服をはためかせてとたとた追いかけていく。
扉が生徒会長の手で勢い強く閉められ、一枚挟んだ先から「お願いだから…」「えーでも…」とお互い譲る気のない会話の切れ端が抜けてくる。
桜丘先輩は佐登先輩に生徒会長は弱そうと言っていたが、これはもう天敵とかそういう部類。だからか、生徒会長の届く声は壁越しでも分かるぐらいに弱々しかった。
一方佐登先輩は、ただただえーとかやだとか子供みたいな返ししかなく、それが一層生徒会長を苦しめているのであろう。
少しするとお互いの話に決着が付いたのか、扉が横にずれ、疲れた面持ちの生徒会長と何故か頬をぷっくり膨らませた佐登先輩が帰ってくる。
頬を膨らませてると言っても怒っている感じではなく、ただ空気を頬張って喋り辛くしているだけ。
眼鏡以外の視線が集まる渦中の生徒会長が、ごくっと何かを躊躇うように息を飲んで震えた声を発した。
「…そ、それで、み、みや…ちゃん…んんっ。前から頼んでいた風紀委員の方の資料だが一応、完成したから目を通してみてくれ」
一度、みやちゃん呼びが恥ずかしかったらしく取り消すように咳払いをすると、至って真面目な顔で生徒会長は自分の席に戻る。
それに空気の詰まった顔で佐登先輩がこくんと頷き、彼の後ろを付いていく。
「何話したんすかね…」
テーブルの真上まで顔を俺に寄せ、一がこそりと生徒会長を見ながら小さく聞いてくる。
それにこっちも分からないと首を俺が横に振り返すと、何なんすかね…と呟きながら顔を引っ込めた。
みやちゃん呼びをしているということは生徒会長は話し合いで押し負けてしまったのだろうか。
にしては、佐登先輩に喜ぶような表情はなく、というか頬を膨らませているせいでいまいち表情が読みにくい。
その頬のまま先輩はパソコンに生徒会長が表示したであろう、その風紀委員の資料らしきものを見るとこくこく満足したように頷く。
「…なぁ、み、みやちゃ…ん。別に喋るなとは言っていないだが…」
すると、ぷしゅーと風船の空気が溢れるように先輩の頬が萎んでいく。
「そ、そうだったんだ~…はぁ…ちょっと疲れちゃった」
「…それで、資料の方だが」
「え?あ、うん、してくれてありがとね~きー…は、だ、駄目なんだよね…。だから…えっと…せ、生徒会長さんっ!」
「…あぁ」
予測でしかないが、先のやり取りで行われた取引は多分、佐登先輩がきーくん呼びを止める代わりに、生徒会長がみやちゃん呼びをするということなのではないだろうか。
あんまり状況としては変わっていない気もするが、言われるより言う方が生徒会長にとっては心が楽なのかもしれない。
二人とも譲歩した結果、いまいち上手く回らない会話が続いていたが、そこに一がきょとんとした表情で割り込んでくる。
「きーくん…じ、じゃないんすよね…生徒会長がどうして佐登先輩の委員の作ってるんすか?そういうのって普通は委員長なんすし、自分でとかじゃないんすか?」
きーくん呼びを一睨みされ、生徒会長に変えてから、一はそう質問する。
言われてみれば、まぁ確かにその通りである。
ただでさえ忙しいと聞いていたのに自ら仕事を増やしている訳で、ならば何かしらの事情が隠れているのかもしれない。
そして、隠されているとそっとしておこう…で済まさずに知ってしまいたくなるのが人間の性で、一はそういうのは躊躇い無く聞くタイプである。
「それはだな…み、みやちゃん…ちょっと、パソコンで自分の名前を打ってみてくれ」
「え、良いけどー…どうして?」
困惑している佐登先輩をよそに、生徒会長は自分の席を譲って座らせる。
一も聞いた張本人として生徒会長の机まで紅茶を急いで飲み終えて向かう。
俺も気になってその後ろを付いていき、パソコンを覗かせてもらった。
「一の言う通り、本当なら…み、やちゃんにやってもらいたい…というか、各委員長がやらなきゃいけない物なんだがな…」
ふと気配がして後ろを見れば、他の役員も佐登先輩のパソコンさばきが気になるのか、仕事を止め俺達の背後に立っていた。
変に見にくくしないよう、立ち位置をあまり目立たないぐらいの所に調整している間、佐登先輩はふんと鼻息を荒くして、真っ白のキーボードに気合い十分な様子で手を乗せる。
けれど、指の場所は的確に自分の名前のアルファベットから外れ、何故か後は名前をキーボードで打つだけなのに片手にはマウスをギュッと力強く握っていた。
「…それじゃあ、やってみてくれ」
まぁ、個人で操作の違いはある。そう思い、生徒会長が言うのに合わせパソコンに視線を貼り付けた。
「んーっと…えーっと……え?」
声に合わせ身体をメトロノームみたく左右に振っていたが、唸った後一言言うと、彫像のように動きがびたっと固まる。
見ていたパソコンの画面には文字は一つとして入力されていない。
まさかもしやと全員揃ったであろう疑問が含まれた視線が生徒会長に集まると、見ての通りだと生徒会長は深く頷いた。
「基本的にパソコンと…みやちゃんを向かい合わせるとどちらかが必ず壊れる。今のところ2勝4敗だったが、これで2勝5敗になるな」
「なんでそんな戦わせたんすか…」
「いや…いつの間にか勝手に俺のを使ってるんだ…」
「…あの、治るんですかこれ」
佐登先輩を指して俺が言うと、タイミング悪く昼休みの終わりのチャイムが答えよりも先に鳴ってしまう。
スピーカに向けた視線を時計に運べば結構な時間ここに居座ってしまっていたらしく、長針がかなり進んでいた。
「まぁ、時間が経てば勝手に再起動する。それより、そろそろ授業だ。生徒会長のせいで授業に遅れたなどと卒業前に言われてしまうとこっちも困るからな。解散してくれ」
それに俺の真後ろにいた役員が「残ったのはどうします?」と山を作る仕事に視線を向けると、その内の一枚の書類を生徒会長は手に取り、ざっと流すように見て細かく指示を出していく。
「二つ、計算間違いがあるな…そこはこっちで直しておこう。昼休みに付き合わせてしまったんだ、放課後は来なくても良いぞ」
「え、放課後帰っても良いんすか!」
「お前は来い」
「ちょなんでっすか!?」
普段は放課後までなのか、一がおおーと嬉しそうに食い付いたが、生徒会長が書類を見たままそう言うとぐわーと怒ってそれに食い下がる。
喧嘩のように言い合い出した二人を横目に捉えながら、一と自分が使ったカップを拾い、部屋の隅に最低限備えられていた小さなキッチンを借りる。
ここは家庭科準備室と違い、冷水しか出ないため手が瞬で冷えていく。
それでも何とかひゃーひゃー言いながら洗い終えて近くに置かれていた手拭きで水滴を拭い、幽霊みたく両手を前に出してだらんとさせ、後は自然乾燥にお任せする。
その頃には他の役員や仕事に満足したような横顔の眼鏡が丁度生徒会室から出ていくところで、俺もその集団に駆け足で混じる。
放課後の仕事の有無について言い争い、結果負けた一をラストに生徒会室の扉は二人と仕事を残してガタンと閉められた。
今日の昼休みは少し、変わった昼休みだった。




