51話目
51話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
「それでは山中くん。ご本人に登場して頂きましょう」
「…え?」
山中をいつもの部屋に呼び、よくテレビで見る感じに、カーテン、もとい扉に目線を向けさせる。
事態が理解できないといった様子の山中は、それでもちゃんと扉を見てくれる。
「えー。山中くんのご期待の依頼人。矢波ー芽野さんでーす」
ガラガラと扉をスライドさせて、奥で待ってくれてた矢波先輩の姿を見せる。
「やっほー。山中くーん♪」
そして、その先輩は気さくに山中に手を振る。
「あ…あっ…!えっ?」
山中は一度、矢波先輩を見て驚き、次にやっぱり事態が理解できずにこちらをどういうことかと見てくる。
「何か色々あってこうなった。すまん山中」
「ごめんね~。仁田くんがヘマしちゃって。ぜーんぶ聞いちゃった~♪」
「ぜ…全部ですか…!」
「全部です」
驚愕の山中に向かって、代わりに俺が答えてあげる。
いやそもそも、俺が先輩から一方的に情報を得るとか無理だったんだよ。
世の中には相性と言うものが存在していてそれこそ矢波先輩の名前の『波』には勝てないんだよ。
だって俺の名前灯台の『灯』だし、波がある海に船なんてないんだから俺役立たずだし。
圧倒的海理論を持って、自分の使い道のなさを証明する。
…ついでに言うと体力がないので陸にも弱い。
「先輩…」
「ごめん。でもほら、こっちの方が色々手っ取り早いじゃん」
「そーいうことじゃないっすよ!す、好きな人の親友に知られてるなんて、恥ずかしいことこの上ないじゃないですか!」
「バカだなお前。一番恥ずかしいのは成功する確率がろくにないのに自信ありげに独自の恋愛論を語って実践するやつだ」
脳内で昔してました。
「うわー確かにそれは恥ずかしい…ていうか痛いね…」
良かった…ここでむしろ良いとか言われてたらまたあの時に戻ることになってた…。
女子の一言というのは、女子本人が思っているより男子に効果があるので気を付けて欲しい。
「ま、それはともかくとして、ほれ、矢波先輩に質問」
「それはともかくって…まぁ、先輩からは他人事ですもんね」
皮肉染みた言葉が山中から飛んでくる。
しかし、この言葉に皮肉はあっても嘘はない。
「この三人の中で一番関係ないのは事実だしな」
「さ、そんなことよりほらほら~後輩の後輩くん。質問どーぞ」
先輩が話を戻すと、山中の視線はしっかりと先輩の方向へ向く。
…俺もういらなくね。
「えっと、じゃあ…それでは。…桜丘先輩の好みの人をおしえてください!」
「やだ!」
一言。
「………先輩なんでこの人呼んだんですか」
「別に俺から呼んだ訳じゃないぞ」
…まさかここまでして言わないだなんて。
昨日の電話での騙し合いは一体なんだったんだ。
「山中くん、これは僕なりの優しさなんだよ?」
先輩は言い訳を始めるが、俺と山中は変わらず呆れ混じりの視線を向ける。
そして、どうしてなのかと気になったのか、山中は声を出す。
「どういうことっすか?」
「…ちょっと酷いって思われるかもしれないけど、言わせてもらうね。山中くん。君は春とは絶対付き合えないよ。…絶対」
「なんで先輩今もう一個絶対追加したんですか…」
山中の心をへし折る気だなこの人。
「追加しちゃうぐらいに無理だからってことだよ仁田くん」
追撃を受けた山中は、ぷるぷると身を震わせる。
「ど、どうしてっすか…」
そして、体同様に震えた声で、山中は先輩にそう言葉をかける。
「春はただ、好みの人を見かけたからって気になるようになるほど単純じゃないからね」
だけど、慰めも慈悲もなく、先輩はいつも通りの声音で、
言葉を返した。
「なんでっすか…」
小さくそう、山中は呟いた。
山中がすんなり諦められない気持ちも他人ではあるが少しは分かる。
…だけど、先輩の言う桜丘先輩が単純ではないと言うことも分かってしまう。
桜丘先輩は、嘘を見抜ける。
前に始めてあったときも、新崎の嘘をちゃんと見抜いていた。
そして、不幸にも山中は嘘がヘタ。
というか、誤魔化し方がヘタ。
だからその好みの人に本当に為りきれたとして、交際にまで発展したとしても…いずれバレてしまう。
その時に傷つくのは山中だけではない。
桜丘先輩も、騙されていたことを知れば、少なからず傷つくかもしれない。
矢波先輩はその後の事まで気にかけて山中に無理と言っているのかもしれない。
誰も傷つかないために。
…まぁ、所詮推測でしかないけれど。
このまま二人だけで話しても、何か動くとも思えない。
ここは、自分が頑張るしかない。
役立たずは壁になるぐらいにしか役に立たない。
ならば潔く壁になろう。
「だってさ山中、ま、仕方なしだ。新しい恋を…」
「めないっすから…」
「…」
あ、これは…。
「俺、絶対に諦めないっすからぁ~!」
そう叫んで、山中は部屋を駆け出していった。
うっすらとではあるが、その瞳には涙が見えたような…。
ていうか何この青春の一幕。
こっからあいつの青い春の物語が始まるの?
何あいつ主人公にクラスチェンジするの?
隣でニコニコ笑う先輩をよそに、今度はあいつを呆れて見る。
「先輩もしかして無理って言うためだけにここに来たんですか…鬼ですね…」
だが、問いかけに答えることはなく、先輩は山中を見つめてまま。
「…ねぇ…にーにゃん」
「なんでそっちに戻すんですか」
「恋ってさ…大変だよね」
「まぁ…」
俺も恋したせいで大変ですからね。
最近じゃあスマホのメモリがそれで圧迫されてもうね、幸せ。
あれを一枚見るだけでハピネスチャージ出来るから恋ってすごいよ。
「あんな風に、無理だって言われても、頑張って頑張って、もしかしたら…なんて可能性もあるかもしれない」
「ですね」
俺ももしかしたらがあるかもしれませんよ…!
ふふふふふ……!
「陽斗くん達みたいにさ…あんな単純にいくもんじゃないと思うんだ」
「…………」
確かに、プロポーズされた人間や、ずっと傍で思ってくれる人間がいる環境で日常を過ごすなんて普通じゃ出来ない。
…でも、あいつはそもそも普通じゃない。
「本当に…陽斗くん達って凄いよね」
「…ですよね」
「…よし!じゃあ僕もそろそろ帰ろうかな。玄関で春も待たせてるし」
先輩は近くの机に置いておいた鞄を取った。
「…部活、行かないんですか?」
「いやー、部員ちゃん達に気を使われちゃってね~。勉強に集中してください!って追い出されちゃうから」
「そーですか」
「うん、そーなの。じゃあね~」
こちらに手を振って、先輩も部屋から出ていく。
そして直ぐに廊下を曲がって、先輩は見えなくなる。
「部活…行くかー」
「うん、行ってらっしゃい」
「うおっ、ちょっと」
扉から突然にょきっと先輩の頭が現れる。
まだ階段降りてなかったのか…。
うっかり鼻唄を歌ってたら前みたく酷いことになっていた。
「じゃ、今度こそじゃあね~♪」
「どーも…」
先輩の頭が扉の後ろへとひょこっと消えた。
…山中…どうなるんだろうな。
駆け出していった山中をふと気にかける。
…急いで部屋から出ていって、そこまで思い詰めてしまったなんて。
鞄も忘れてってるし、ほんとどうなるんだろうなあいつ。
「先輩…自分…どうしたらいいんすか…」
これからゆっくりと布団と温もりをわけあいながら寝ようと思ったら、山中から電話が来てそんなことを言われた。
まぁ…あのときはきっと感情に身を任せた結果走り出してしまって、策も何も無いままでああ叫んでしまったのだろう。
その反動なのか、山中の声はいささか小さい。
不安も混じった、疲れていそうな声である。
「知らん」
だからといって優しくするほど俺は優しくない。
てっきりお仲間だろうと親しくしていたのに、上手くいけば『絶対に無理と言われたヒロインを努力の末ついに落とす系主人公』になってしまう可能性があるやつだったなんて。
早くも裏切られてしまって、珍しくほんの少し傷を負ってしまった。
「そ、そんなぁ…」
「やめろその本当に悲しげな声」
「…頼れるの先輩しかいないんすよ~…」
「そうは言ってもなぁ…」
少しばかり手伝ってやりたい気持ちも湧いてはくるが、今の山中に対して元気つける情報があるわけでもない。
こちらも行き当たりばったりということは、山中もきっと知ってはいるのであろう。
しかし、それでも話しかけてきたということは、彼も本当に迷走しているんだろうか。
…ぐぬぬ、…自分で山中の分析をしてより手伝ってやりたいなったじゃないか…。
くそう、なんでこいつが可愛らしい後輩の女の子じゃないんだ。
これで例え好きな人が新崎であったとしても、女の子にこんなことを言われたら死力を尽くしていたというのに…。
「はぁ…無理…無理っすかぁ…」
「絶対にな」
「変にプラスしないでください…」
落ち込んだ声は変わらず、そのせいか電話の奥から他の親か何かの声が聞こえてくる。
「お前、この事母親とかに聞かれないのか?」
控えめな声とはいえ、絶対に届かないという訳はなかろう。
母親のその耳にうっかりしっかり届いているかもしれない。
男子高校生徒は基本、親から話しかけられるだけで嫌な気持ちになるというが、恋愛事なんて聞かれたらどうなることか。
山中の母親のため、そして山中のために聞いてみる。
「あーこれ自分の妹っすね」
「お前も妹いんの?」
「いますよ~双子のですけどね」
「双子…これまたキャラクターっぽい…」
「キャラクター…?」
「気にすんな」
主人公の周り、もしくは主人公本人含め、当たり前ながらキャラクターが被ることなんてない。
双子が三組以上いたりするラブコメなんてもしあったら紛らわしいことこの上ないし。
ここに来て、新しい属性が追加されてしまった。
「ていうか、先輩『も』ってなんすか?」
そりゃもうノポン族の言葉ですも。
最新のノポン族、初期よりもかなり人間らしくなりましたね…。
「うちにも一人妹がいてな。双子じゃなくて兄弟だが」
「へー、そうだったんすね!」
「…全然可愛げ無いけどな」
「ははっ、うちのも変に真面目で、もう色々大変なんすよぉ」
楽しげな声が山中から聞こえ始める。
「大変だな」
「えぇ、それはもう毎日毎日あれこれ言われしつこいというか…か…」
「ん?」
かーかーかーかーと繰り返しの言葉が聞こえ、少しすると静かになった。
…どうしたんだ山中。
言葉が返ってこず、こちらも無言になってしまう。
…すると、電話から、その妹だろうか。
何処か怒りを含んだ声が聞こえ出した。
「悪かったわね。変に真面目でしつこい妹で」
「あ、いや…」
「…………」
「……………」
無言が続いた後、扉がバタンと閉まる音がした。
「妹…?」
「はい…むっちゃ怒ってました…」
「早めに謝っておけよ。妹には自分から謝らないと基本そのままがいつまでも続くからな」
「はい…ご指導…ありがとございます…」
山中の上がった声音がまた下がってしまう。
ま、自業自得なんだけど。
「大丈夫。適当に何か甘いものでも買えば妹は許してくれるって」
それを戻すためにも大丈夫を少し強めにして、山中にはっきりと伝える。
すると、効果はあったのかまた声音は戻り、元気のある後輩へと戻っていく。
「そうっすよね!本当にありがとうっす!それじゃあ、今日はこれで!」
「おう、じゃあな」
プツッと音がして、山中との通話を終える。
電話を置いて、今度こそ寝ようと顔を上げる。
「…………」
「…………」
妹が
扉の前で
こちら見る。
川柳風に今の状況を伝えてみた。
「甘いもの…買ってきます」
「よろしい」
一言言って、妹はついでと言わんばかりにゲームをいくつか持って部屋から出ていった。
…こっちも自業自得だね。




