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百花恋歌  作者: 妃蝶
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第一話 桜と双子

 はじめまして。文章力ゼロの私ですが、これから宜しくお願いします!

 桜も盛りを迎えた、四月初めの朝。都内の東桜(とうおう)中学校の三年になったばかりの少女・高原瑠南(たかはら・るな)は、あわてて朝の支度をしていた。今日は始業式。遅れる訳にはいかない。

「遅刻する!」」

 急いで朝食を食べる。今は七時二十五分。ギリギリかもしれない。なので、今朝は食パン一枚だ。

「まったく、六時半には起きなさいって言ってたでしょ。」

 母・高原美紀(たかはら・みき)は、コップに豆乳を注いで瑠南に差し出した。「これ、飲んでった方いいよ。」

「ありがと。」

 そして、豆乳を飲み、パンをかじり続けていた瑠南は、あることに気がついた。

「ねえ?」

「何?」

「璃華は?」

 璃華、というのは瑠南の双子の妹・高原璃華(たかはら・りか)のことだ。

 母は、自身のコップにも豆乳を注ぎつつ、言った。

「具合が悪いみたい。あ、いつもみたいな感じだから、心配しないで。咳がひどくてだるいって言ってたから、今日は休ませるよ。」

「またか・・・。」

 無理もない。璃華は瑠南と違い体が弱く、よく体調を悪くしている。何かの病気、ではないが、とにかく体が弱いのだ。一方、瑠南は、健康すぎる程健康だった。


 瑠南と璃華は、双子でありながら相違点が多い。

 背丈も、瑠南は168センチなのに対し、璃華は162センチだった。体重も、二人ともやせてはいるが、璃華は瑠南より5キロ以上も少なかった。食べる量も違うのだ。

 体つきも勿論違っている。瑠南は、健康的で少女らしい美しいスタイル。小さな顔に細めの首。華奢な肩と細く長い手足。胸は大きくはないが、小さくもなく、ふっくらとしていて綺麗な形。ウエストも細く、お尻も小さく丸い。どれもバランスがとれていて、健康的な細さが美しい体だ。

 一方、璃華の『細さ』は、本当に細かった。小さい顔に細い首。肩は瑠南よりもさらに華奢で、長い手足は折れてしまいそうな位に細い。胸もほとんど平らに近い感じのわずかな膨らみしかなかった。ウエストは、もう肋骨が浮き出るのではないか、というほどの細さ。お尻は小さくて、こちらにもほぼ肉がなかった。とにかく華奢で、貧弱な細さなのだ。

 性格も対照的で、瑠南は姉らしく、割と積極的で知らない人にも話し掛けることができた。でも璃華は、しっかり者なのだが、少し消極的で人見知り。

 しかし、やはり双子。色がミルクのように白い美しい肌と、美しい長い黒髪は二人共同じ。そして、顔はまるで鏡に映したかのように瓜二つ。

 二重で子猫のように愛らしい形の目、それを縁取る長い睫、形の良い眉、筋の通った高めの鼻、小さくて少しうえを向いた上唇が可愛らしい赤い唇、桜色の頬。─違うところと言うと、璃華の唇の左下にはほくろがあることと、瑠南の方が少し耳が大きい位だ。

 実際二人は美少女双子として、校内では有名なのだ。

     

(やばい、急がなきゃ!)

 現在七時三十五分。二階の自分の部屋で、急いで制服であるブレザーに着替える。緑のチェックのリボンとスカートがおしゃれな制服だ。背中まであるストレートの黒髪は、耳の下で二つに結わえて整える。顔を覆うほどに長い前髪は、横に流していくつかのアメリカピンでしっかりと留める。これで朝のセットは完了だ。

 バッグを手に取り、部屋を出て、階段をかけ下りる。キッチンで片付けをしている母に「いってきまーす!」

と一言告げて玄関で靴を履く。そして扉をガチャリ、と押し開けて瑠南の一日が始まる。


(うっ・・・、気持ち悪いし、だるいなぁ。今日はせっかくの始業式なのに。)

 自分のベッドの中で、瑠南の双子の妹・高原璃華は、寝返りをうって、弱々しくため息をついた。

 今日も、咳がひどく、吐き気がした。熱はないが風邪になりつつあるようなので、母に「休んだ方がいいと思うよ。」

と言われて、今に至る。

(まったく、ついてないなウチって・・・。)

 桜色のカーテンの隙間から入り込む、暖かくも少しカラリとした日の光に、また少し吐き気を覚える。吐く、と言えども、朝に温かいお茶を一杯以外何も口にしていないので、吐くものは無い。でも、璃華にすればそれがまた辛いのだ。

(もう、寝て忘れてしまおう。)

 璃華は、吐き気を忘れようと、また白い瞼を閉じた。


「おーい!おはよう。」

 瑠南は、校門の辺りを歩いていたポニーテールの親友・小野桜(おの・さくら)に駆け寄った。桜は振り返って、白い八重歯を見せて笑った。

「お、るーちゃん!おはよう。」

 彼女のつぶらなリスみたいな目は、笑うときゅっと細くなる。二人は肩を並べて歩き出した。こうして見ると、桜の方が165センチと瑠南より少し背が低い。でも、わりと高めである。

「ところでさ、桜、」

「ん?どうした?」

「ウチら、クラスバラバラかな・・・?」

 瑠南は、不安になって、思わず桜にたずねた。

「んー・・・」

 桜の形の良い、髪の毛と同色の焦茶色の眉と、薄く小さいさくらんぼ色の唇が、少し歪む。そして、少し考えた後に口を開いた。

「大丈夫だって!だって、私達、二年間ずっと同クラだったじゃん。」

「そっか、そうだね。」

 桜は、妹と弟が合わせて三人もいるからなのか、しっかり者のお姉さんタイプで、一緒にいると安心する。

 ちなみに桜は頭も良く、成績は常に学年トップクラス。いつも一位から五位辺りにいて、学年二百五十五人中、百位前後の成績の瑠南とは比べ物にならない。桜は、塾には通っていないので、なおさら天才的な頭脳の持ち主だ。

 その時、後ろから、

「おはよー!瑠南ー!桜ー!」

という、高音ボイスが二人の背中に響いた。二人が同時に振り返ると、小柄でボブヘアーの美少女で二人の親友・後藤田茅祐(ごとうだ・ちひろ)が、こちらに向けて物凄い速さで駆けてきていた。その、か細い短い足がとてつもなく速いため、すぐに二人に追いつく。

「おはよっ!」

 愛嬌たっぷりの笑顔。口元にある二つのえくぼは、茅祐のチャームポイントだ。

「おはよう、茅祐。」

「おはよう、ちーちゃん。」

 瑠南と桜は、茅祐の乱れた髪を直してあげた。質が良い黒髪はすぐに元に戻り、太陽に艶やかに輝く。

 茅祐は、身長が148センチしかない上、華奢で童顔なため、未だに小学生と間違えられることが多い。声も高いし、テンションも高いので、それもあると思われる。

 でも、茅祐はかなりの美少女。まるでその姿は、黒髪に小麦色の肌のフランス人形のように愛らしい。大きな円い目に高い鼻、小さくてぷっくりとしたピンクの唇に薔薇色の頬、どれをとっても可愛らしく、美しかった。

 そんな彼女は、『音楽の女王』と校内では有名なほど、音楽の腕はプロ級。父が高校の音楽教師であるからなのか、五歳からフルートとピアノ、バイオリンを習い、小三から今まで六年間ずっと吹奏楽部だ。フルートを始め、コントラバス、オーボエ、ピッコロ、トランペットなど、様々な楽器をこなして来た。ちなみに今はフルートであり、ソロコンテストでは、ほぼ毎年出場し必ず賞を取ってきている。

 瑠南は、楽しそうに桜と話す茅祐の横顔をちらりと見た。茅祐は、幼稚園の頃からの親友だが、初めて出会った日から今まで、性格が全く変化していない。テンションが常に高くて、どんな時もポジティブで、秘密は絶対に守る、瑠南の自慢の親友。

(ウチって、幸せ者だね。)

 瑠南はそう思って少し笑うと、となりの二人の話に加わった。


「私、ちーちゃんとるーちゃんと違う一組になっちゃったぁ・・・。」

 学校の廊下を歩きながら、クラスが一人だけ離れた桜が、さくらんぼ色の唇を少し突き出して、ため息をついた。そんな彼女の右肩を茅祐の左手が、ポンポンと優しくたたく。

「大丈夫!離れてもウチら、親友であることに変わりなし!だよ。それに、桜が落ち込んでるなんて、桜らしくないぞ!」

 瑠南も、うなずいた。

「そうそう。それにウチ達、二組でクラス隣じゃん!だから、休み時間とかそっち行くよ。あと、教科書忘れた時は借ります!」

 桜は、まだ少し寂しそうだが、安心したように笑った。

「わかった、るーちゃん。貸したげるよ。あ、あと二人共、なんか、ありがとう。」

 桜は少し照れ屋なところもある。瑠南と茅祐は、首を横に振って笑った。

「気にすんなって。当たり前だよ、親友なんだし。」

「瑠南の言う通りだよ、桜。さ、教室行こ。」


 桜と手を振って別れた二人は、彼女達の教室である二組に足を踏み入れた。もうすでにたくさんの生徒がいて、ガヤガヤとうるさかった。

「うるさいねぇ・・・。」

 瑠南が少し顔をしかめると、茅祐も「うんうん。」と激しく同意した。

 そんな中に二人が見つけたのは、窓側の一番後ろの席で小説を読んでいる、セミロングの黒髪と、それとは対照的に透き通りそうな位綺麗な白い肌、赤縁の眼鏡が特徴的な少女・児玉亜海(こだま・あみ)。一年の時に二人プラス桜と同じクラスで、仲の良かった女子である。少し恥ずかしがり家だが、仲良くなると、一緒にいてとても楽しいと思う位、トークが上手で優しい子だ。

「おーい、亜海ちゃーん!」

「亜海ちゃん、おはよー!」

 二人は、亜海の元へ駆け出した。気がついた亜海は、読んでいた小説を閉じ、二人に微笑んで両手を振ってくれた。

「ルナっち!ちーちゃん!おはよう。」

「おはよう、亜海ちゃん。」

「おはよっ!」

 二人は亜海の机の前に立った。亜海も立ち上がる。

「二人共、本当に久しぶりだね。」

 亜海の一言には、再会の喜びと安心が含まれていた。茅祐は、いきなり亜海に抱きついた。

「去年はあんまり一緒に遊んだり出来なくて寂しかったよ~!」

「ひぇっ?」

 亜海はびっくりしたのか、すっとんきょうな声と共に、大きなアーモンド形の目をより大きく見開いた。未だに離れない茅祐。瑠南は苦笑いして、茅祐の肩を軽くはたいた。

「もう、茅祐ったら!亜海ちゃん困ってるって。ごめんね、亜海ちゃん。」

「あはは、全然大丈夫。でも、ちーちゃん、一旦離れよっか。」

 茅祐を優しく元の位置に戻す茅祐。茅祐は、おとなしく元に戻った。・・・と思いきや突然、腹を抱えて笑いだした。瑠南と亜海は、びっくりして茅祐を凝視した。

「ど、どうしたの!?」

 瑠南は慌てて茅祐の肩を二度ほど叩いた。茅祐は、やっと笑いを抑えてこう言った。

「だって、アレ、・・・山口純也(やまぐち・じゅんや)じゃね?」

 瑠南と亜海は、茅祐が指さした方を見た。

「本当だ。」彼女達は、思わず声を揃えた。

 そこにいたのは、中三にして身長160センチと低身長男子で、瑠南と茅祐とは、一・二年共にクラスが同じであり、小学校は違うが幼稚園は同じの山口純也だった。友人とくだらない話で盛り上がっている様子だ。

 純也は、本当にチビで痩せていて、そのくせ声が大きく高かった。無邪気で活発な、元気すぎる男子である。成績は悪いが、これでも一応、所属しているバレー部では、頼りにされている部員・・・らしい。

「純也はいるけど、ルイス君いないのかな?」

 茅祐が首をかしげる。ルイス君、とは、純也の小学校からの親友でバレー部部長・高市(たかいち)ルイスのことだ。母親がイギリス人、父親が日本人のハーフの彼は、亜麻色の髪に同色の瞳で色白、おまけに181センチと高身長で東桜中ナンバーワンのイケメン。そのためか、女子に大人気。しかし、彼にとっては、今は恋愛よりも部活と高校受験の方が大事なのだそうだ。彼は五組になった。

「ルイス君って真面目だよねぇ。ま、そこがルイス君の良いとこなんだけどね。もちろん、イケメンなとこもだけど。」

 にやけながら、うっとりとこう呟いた茅祐も、ルイスファンの一人である。

「じゃ、告白すれば?」

 瑠南が少しからかうと、茅祐は首を横にブンブン振って真っ赤になって否定した。

「ウチは別にそんなんじゃないから!ただ、ファンなだけだし!本当に!」

「本当に?」

 亜海の短い問い掛けにも、

「本当だってばぁ!」

と、全力で否定した。でも、三人共、だんだんと可笑しくなってきて、思わず声を上げて笑った。馬鹿馬鹿しくて、でもすごく楽しくて、涙が出るくらい笑った。

 そんな和やかなやり取りは、新しい担任が教室に入って来るまで続いた。校庭では、青空の下、たくさんの桜が咲き誇っていた。


「ただいまー!」

 高原家の玄関に、瑠南の声が響いた。今日は、始業式と入学式のため、中学校は午前で終わりだ。

「お帰りー。」

 キッチンから母の声。続けて、

「着替えて来て。今、チャーハン作ってるからー!」

という声もした。

 着替えて下に降りて、良い匂いのするキッチンに入ると、母がテーブルにできたてのチャーハンを置いた。

「お待たせ。」

 母特製のチャーハンだ。ご飯に、卵やネギなどの適当な野菜、ハムや椎茸を細かく切って入れて炒め、コショウや塩、しょうゆなどで味をつけて更に炒めたいつものチャーハン。こんなのだが、意外と美味しくて、瑠南の好物の一つでもある。

「いただきます。」

 レンゲで一口。いつも通りの味と口当たり。パラパラとしていて、でもしっかりとお腹に溜まる、具材と栄養たっぷりのチャーハンを、瑠南はレンゲで次々と口に運んだ。

「落ち着きなよ。」

 苦笑する母。彼女も向かい側で、自分用のチャーハンを食べ始めた。

「ところでさ、瑠南?」

 母が食べる手を止めて、瑠南を見た。

「ん?」

「今日、バレエでしょう?」

「・・・あっ!そうだ。」

 瑠南は、今日バレエがあったことをうっかり忘れかけていた。彼女は、慌ててチャーハンを食べ終えると、二階へと駆け上がっていった。

 いかがでしたでしょうか?

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