--- おわり ---
オレは、非常に困惑していた。
何しろ目の前には20歳以上年下の少女、それも大恩人の娘。
その子がオレに向かって、ある意味での告白をしたのだから。
「えーと、ミーナ?」
「返事は? リッド、『はい』か『いいえ』で答えなさい!」
いつもの調子ではっきりした返事を求める彼女を誤魔化す術なんてないだろう。
何より、オレはこの顔に弱い。オレがまだ十代だった頃、本気で恋をした女性とおんなじ顔をしたこの娘に逆らえるはずもないのだ。
「もう一度言うわよ?」
ああ、この紫水晶はオレが大好きだった大恩人の店長と同じ色なんだ。
もうやめてくれ――その目で真っ直ぐにオレを見るのは!
「これからもずっと、あたしの傍にいて欲しいの。父さんや母さんは助けたけど……またこれからもきっと、いいえ、これまで以上に危険な場所に行くでしょうね」
かといってオレがこの娘に抱くのは保護者のような感情だった。
「だから、あの約束を継続してくれる?」
あの約束。
そう、オレがミーナを守るって言った、あの約束。
本気なのかな? その言葉の意味、分かって言ってるのかな?
オレは大きなため息をついた。仕方ない、きっと時間がたてばこの子だってちゃんとした相手を見つけるだろう。それまでは、オレがその代わりをしてもいい。
「……分かったよ、ミーナ」
その途端、少女はひどく嬉しそうに笑った。
図らずもその笑顔にどきりとした自分が信じられない。
「ありがとう、リッド!」
今ではもう呼ぶ者も少なくなってしまった本名を無邪気に呼ぶ彼女を突っぱねていられるのはいったい何時までだろうか。
そのうちに抑えきれなくなってしまう自分を予感しながら、オレは艶やかな黒髪に手を置いた。
さあ、クラウドさんにはなんて言おうか。
いや、きっと彼の事だから全部お見通しなんだろう。大事に育てた娘の動向も、オレの感情の変化にだって。
重い気持ちを抱えて見上げた空は、この上ないくらいに青く澄んでいて眩しかった。
向こうから駆けてくる彼女の双子の片割れに手を振りながら、オレは自分の年齢をバラしたら今のうちにミーナにあきらめてもらえるんじゃないだろうかと本気で考え始めていた。
――手遅れに、なる前に。