--- はじまり ---
「えーいっ!」
青空の下、少女の声が高らかに響いた。
「一本!それまで」
審判が赤い旗を揚げ、少女の勝利が決定した。
少女の対戦相手だった茶髪の若い男性は信じられないといった様子で呆然となり、観客も予想だにしなかった結果にその場が一瞬静まり返った。
が、次の瞬間には観客席からどよめきと歓声が上がり、その中央でたった今優勝を勝ち取った黒髪の少女は嬉しそうに笑った。
大きく利発そうな眼には紫水晶が嵌め込まれている。バランスの取れた鼻と桃色の唇とを合わせると誰もが認める美少女の顔になった。年は15を過ぎたくらいだろうか、ポニーテールの黒髪をさらりと風に靡かせて、たった今試合を終えた少女は観客席の最前列に向かってブイサインを送った。
「勝ったわよ、マルコ!」
「すごいや、ミーナ!」
その先にいたのは同じ年頃の黒髪の少年だ。こちらも金の瞳がはっと目を惹く、切れ長の眼の美しい少年だった。象牙色の肌に興奮のためかうっすら紅が差している。
舗装もしていない大通りの真ん中に作られた、円形の木の柵で囲んだだけの簡易闘技場の中央で観客の歓声に応える少女に必死で手を振っていた。
「優勝はミーナ=フォーレス!」
剣術大会を主催した市長が高らかに宣言し激励の言葉と共に記念のトロフィーを少女に手渡した。
少女は嬉しそうにそれらを受け取ると、天高く掲げた。
周囲の観客から惜しみない拍手が漏れる。
もちろん先ほど少女に賛辞を送った金の瞳の少年も手が腫れるほどに拍手を送っていた。