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バイト先で

「ありがとうございましたー」


笑顔で客を見送る。


俺のバイト先、クオリア。昼間は通常のレストラン、夜にはお酒も出す店である。


俺は主に休日の昼間のシフトでバイトに入っている。


時間は昼飯時。客はひっきりなしにやって来る。


秋野あきの。今日は忙しいな」


バイト仲間の津田が話しかけてくる。


「昼飯時だから仕方ないだろ」


そう言うと、カランカランと入店者を告げる鐘が鳴る。


「俺が行くよ」


「頼む」


「いらっしゃいませー何名様ですか?」


俺は営業スマイルを浮かべて問う。


秋野あきの。お前バイトか?」


「あら~ゆう君」


御影みかげ先輩とゆづ姉だった。


「見ての通りバイトです。2名様ですね。こちらへどうぞ」


ゆづ姉達をテーブル席に案内する。


そしてお冷を2つ用意して差し出す。


「ご注文は後程伺いに参ります」


俺はテーブル席から離れる。


秋野あきのー。レジ入ってくれ」


「はーい。お待たせしました。1700円になります」


俺は営業スマイルを浮かべながら、客からお金を受け取っていると、何かの視線を感じた。


俺は視線の方を向くと、ゆづ姉がこちらを見ていた。


ゆづ姉と目が合うとゆづ姉はそそくさと視線を外す。


「ちょっと、早くしてくれない?」


「あ、失礼致しました。2千円お預かりします。300円のお返しになります。ありがとうございました」


客は釣り銭を受け取ると店から出て行った。


俺はテーブル席を片付けに向かう。


テーブルの上にある空の皿を片付けているとまた視線を感じた。


俺は振り返ると、ゆづ姉がこちらを見ていた。


俺が視線を合わせると、またゆづ姉は視線を外す。


――何だろう?


俺は首を傾げながら作業を続ける。


皿を片付け、テーブルを拭いていると、来店を告げる鐘がカランカランと鳴る。


「いらっしゃいませー。何名様ですか?」


「1名だけど」


「ではカウンターへどうぞ」


客をカウンターへと案内し、お冷を出す。


「ご注文は後程覗います」


客から離れると再び視線を感じる。


視線の方向を見ると、またゆづ姉がこちらを見ていた。


俺はゆづ姉の方を見ると、ゆづ姉は視線を外す。


――またか。一体何なんだ?


「すいませーん」


ゆづ姉たちの座っているテーブルから声がする。


そこに来店者を告げる鐘が鳴る。


秋野あきの。オーダー取って。俺は来客の対応するから」


「OK」


俺はゆづ姉達のいるテーブルに行く。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「アイスコーヒーとアイスティー」


御影みかげ先輩がぶっきらぼうに言う。


「アイスコーヒーとアイスティーですね。少々お待ちください」


俺はオーダーを取ってカウンター奥の厨房に声をかける。


「アイスコーヒーとアイスティー1つずつ」


「オーケー」


また来店者を告げる鐘が鳴る。


「いらっしゃいませー。何名様ですか?」


「3名です」


「こちらにどうぞ」


また視線を感じる。客の案内をしながら視線の方を見ると、やはりゆづ姉がこちらを見ていた。


ゆづ姉は目が合うと慌てて視線を外す。


――後で、聞いてみるか


客をテーブル席に案内し、お冷を3つ取りに行き、


「ご注文は後程伺ったほうがよろしいでしょうか?」


「はい」


「かしこまりました。後程覗います。ごゆっくり」


俺はテーブル席を離れる。


「すみませーん、お勘定」


「あ、はーい」


今度はレジに入る。


「800円になります」


またまた視線を感じるが、今度は無視する。


「はい1000円から」


「1000円お預かりします。200円のお返しです」


「ごちそうさま」


客が店を出て行く。


「ありがとうございましたー」


その背中に礼をする。


秋野あきの。アイスコーヒーとアイスティー」


「あ、はーい」


俺はアイスコーヒーとアイスティーの載ったトレイを持ち、ゆづ姉達の席に向かう。


「お待たせしました。アイスコーヒーとアイスティーになります」


「うむ」


「ありがとうゆう君」


俺は2人に営業スマイルで答える。


「ごゆっくり」


礼をすると席を離れた。


人の流れが一段落した所で、津田が俺に声をかけてくる。


「おい、あの娘。お前をずっと見てるけど、彼女か?」


津田はそう言ってゆづ姉を指さす。


「違うよ。まだただの幼馴染」


「『まだ』って事は、狙ってるのか?」


「そんなところ」


「へえ。お前って結構面食いだったんだな」


津田はゆづ姉をチラリと見ながら言う。


「言ってろ」


「うらやましいな。あんな綺麗な幼馴染がいて」


「そうでもないさ」


「お? 何か事情がありそうだな」


「幼馴染だから中々上手くいかない事もあるんだ」


「へえ。どうやら苦労しているみたいだな」


「ああ」


「でもいいなあ。あーあ、俺も欲しかったぜ。あんな幼馴染」


そこに新しい客が入って来た。


「お。お喋りはここまでみたいだな」


津田はいち早く客の所へ行く。


「いらっしゃいませー。何名様ですか?」


津田の声が店に響く。


俺はフロアの隅で待機している。


そこでまた視線を感じる。


俺はため息をつきながらゆづ姉を見る。


「……」


今度は視線を逸らさない。


――何だろう? 聞きに行くか。


俺はゆづ姉達のいるテーブルに行く。


「ゆづ姉」


「ゆう君。どうしたの~?」


「さっきからずっと俺を見ているよね?」


「え、えーと……うん」


ゆづ姉は恥ずかしそうに目を背ける。


「集中できないんだけど。やめてくれないかな?」


「……っこいいから」


ゆづ姉はポツリと何かを呟く。


「ん?」


「ゆう君の働いているところ、いつもと違って格好いいから。つい見ちゃった」


ゆづ姉は頬を染めながら言う。


「……え?」


「で、でも仕事に支障がでちゃ大変よね。ごめんなさい」


「い、いや……いいよ」


俺は怒るに怒れなくなる。


微妙な空気が俺とゆづ姉の間に流れる。


「はーい。見つめ合わない」


そんな空気を壊すように御影みかげ先輩が言う。


秋野あきの珠季ゆづきが見つめている程度で集中を乱すとは、仕事に対する気構えがなっていないぞ。真剣にやれ」


「は、はい。す、すみません」


珠季ゆづきも。あまり秋野あきのの邪魔をしないようにな」


「え、ええ。ごめんね。ゆう君」


「い、いや。俺が気にしすぎてた」


秋野あきのー。レジ入ってくれー」


津田の声がする。


「あ、はーい。じゃあゆづ姉」


「ええ、頑張ってね~」


俺はレジに入った。


そして時間が来て、バックヤードに引き上げる。


「ふう……」


一息つきながら、服を着替える。


――ゆづ姉。格好いい、か。


服を着替え終え、裏口へと向かう。


「お疲れ様でしたー」


「お疲れー」


店の面々に挨拶をして店を出た。


外は西日のさす時間帯となっていた。


――さて、帰るか。


俺は家路につく。


「ゆう君?」


「え?」


俺は声のした方を向くと、そこにはゆづ姉がいた。


「ゆづ姉。どうしたの?」


「帰るところよ~。ゆう君もそうなの?」


「うん。今バイト終わって帰るところ」


「じゃあ、一緒に帰りましょう」


「いいよ。行こうか」


家への道をゆづ姉と並んで歩く。


「今日は驚いたよ。ゆづ姉が客として来るとは思わなかったから」


「うふふ……そう? 私は狙って行ったのよ」


「え?」


「ゆう君がバイトしている所、見てみたかったから」


ゆづ姉はそう言って微笑む。


「俺がバイトしてる所を?」


「ええ。予想通り、いつもと違って格好よかったわ~」


ゆづ姉は満足そうに頷く。


「そんなにいつもと違った?」


「ええ。何と言っても真剣さが違ったわ~」


「そう、かな? これでもいつも真剣なつもりなんだけど」


「そう?」


「そうだよ。ゆづ姉の事だって……」


「ゆう君……」


ゆづ姉は悲しげな表情を浮かべる。


「ゆづ姉。おれはゆづ姉のこと……」


俺が言いかけた瞬間、ゆづ姉は俺の言葉を遮るように言う。


「ゆう君。ゆう君はひなちゃんの事を考えてあげて」


「またそれか……。ゆづ姉、俺は、ゆづ姉のことしか考えられないよ」


「それでも、ひなちゃんの事を第一に考えてあげなきゃダメよ」


「どうしてさ?」


「ゆう君?」


「どうして、俺は姫詩ひなたの事を考えなきゃならないんだ? 俺は姫詩ひなたの事は単なる幼馴染としか思ってないよ」


「ゆう君……」


「ゆづ姉。俺はゆづ姉の事が好きなんだよ」


「ごめんなさい。その気持ちには応えられないわ」


ゆづ姉は悲しそうな表情で言う。


「……何でそんなに悲しそうな表情で言うんだよ。それだと……」


「ゆう君。私は貴方のこと、弟のように思っているわ。だから、恋人にはなれないわ」


「……わかったよ。でもゆづ姉、俺は諦めない」


「ゆう君……」


気が付くと、ゆづ姉の家の前まで来ていた。


「じゃあゆづ姉。またね」


「ええ。ゆう君、またね」


俺はゆづ姉と別れ、家路についた。

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