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千太郎との出会い

皆でカラオケに行った次の日。


「千太郎といつ知り合ったかって?」


放課後の家庭科室。俺と千太郎はいつもの様に料理部の活動(味見)に参加していた。


「はい。お二人凄く仲が良いので……どんな出会いだったのかな、と」


千恵ちえちゃんはそう言って俺と千太郎を交互に見る。


「あー……。あまり聞かない方がいいと思うよ」


「そうだ千恵ちえちゃん。これは聞くも涙、語るも涙の話だ」


「そ、そうなんですか?」


千恵ちえちゃんは困ったように目を白黒させる。


「そんな大した話じゃないよ。そう、あれは……」


――1年前。


悠雲ゆう。ほら、急ぐ!」


「そんなに急がなくてもクラス分けの表は逃げていかないよ」


「あ、もう人だかりが出来てる! ほら、悠雲ゆう、早く!」


「はいはい……」


掲示板の前には多数の生徒たち――これから同級生として過ごしていく生徒だ。に囲まれていた。


「えーと、あたしの名前は……あ、あった!」


姫詩ひなたはB組の掲示を指差す。


悠雲ゆうは?」


「えーと……。あ、あった。B組だ」


「やった。これで10年間同じクラスね!」


姫詩ひなたが抱きついていくる。


「ちょ、姫詩ひなた。恥ずかしいよ」


「え? あ、ごめんなさい。あたし、興奮しちゃって……」


姫詩ひなたは照れ笑いを浮かべながら離れる。


ジロリ……。


――ん? 何か視線を感じる。


俺は周囲を見渡すが、こちらを見ている者はいない。


「ん? どうしたの? 悠雲ゆう


「誰かが見ていた気がして……」


「え? ホント?」


姫詩ひなたも周囲を見渡す。


「別に誰も見てないわよ」


「そうだよね。あ、教室行こうか」


「ええ」


俺達は校舎に入り、教室に向かった。


ジロリ……。


――また視線を感じる。


周囲を見渡してみるが、視線の主はわからない。


悠雲ゆう? キョロキョロしてどうしたの?」


「やっぱり誰かが見ている気がして……」


「自意識過剰ねえ」


姫詩ひなたはそう言って笑う。


「そんなんじゃないよ。確かに誰かが見ていた」


悠雲ゆう。何したの?」


「何もしてないよ。……とにかく、教室に行こうか」


「ええ」


2人で教室に入る。同じ中学だった奴は4、5人。あとは別の中学の出身者で固められていた。


予鈴が鳴り、生徒たちが続々と席について行く。


ジロリ……。


――まただ。誰だ?


視線の主を探す。


ふと、後ろの席に座っている三白眼の男子と目があった。


「……」


男子はふいと目を背ける。


――あいつか?


短髪に三白眼。少し高い鼻と薄い唇。整った顔立ちの男子だ。


中学時代に会ったことは無い。別の中学の出身者だろう。


「はい、HR始めますよ」


本鈴が鳴り、担任と思しき教師が入ってくる。


「担任の権田です。教科は現代文です。1年間よろしくお願いします」


権田先生はそう言って深々と礼をする。


それに合わせて生徒たちも礼をする。


「それでは、入学式に行きます。廊下に出席番号順に並んでください」


権田先生の指示に従い、生徒達が廊下に出て並ぶ。


俺は先頭だった。


ジロリ……。


――またか。


俺は列の後ろに立っている三白眼の男子を見る。


「……」


目が合うと、慌てて視線を逸らす。


――どういうつもりだ?


「さあ、移動しますよ」


権田先生の後に続いて歩いて行く。行き先は体育館だ。


体育館に入ると、上級生と新入生の保護者達の拍手に迎えられる。


俺達の代の入学式が始まった。


………


入学式を終え、教室に戻る。


「はい、では出席番号順に自己紹介をしていきましょう。秋野あきの君」


「はい」


俺は立ち上がると、教卓の後ろに立つ。


秋野あきの 悠雲ゆうです。中学時代は特に部活に入ってません。高校でも特に部活に入る事は考えていません。よろしくお願いします」


俺が礼をすると、拍手が起こる。


多少の気恥ずかしさを覚えながら席に戻る。


俺が席に戻ると後ろの席に座っていた生徒が立ち上がり、教卓の所へと向かう。


……


次々と自己紹介は進み、三白眼の男子の番になる。


竜堂りんどう千太郎せんたろうです。中学時代はバスケットをしていました。高校ではバスケットを続けるつもりはないです。そして、俺はこの高校3年間で必ず『リア充』になってみせます!」


「……」


教室が沈黙に包まれる。


「あ……『リア充』というのはですね、現実が充実しているという意味でして、俺にとっての『リア充』は『可愛い彼女とラブラブする』事です!」


「……」


教室は相変わらず沈黙に包まれる。


「と、とにかく、そんなわけでよろしくお願いします!」


竜堂りんどう君が頭を下げて、自分の席に戻って行くと、忘れていたかのように拍手が起こった。


――竜堂りんどう君、ね。どうやら変わり者のようだ。


……


自己紹介が終わり、HRに入る前に休憩時間が設けられた。


俺は早速接触してみることにした。


竜堂りんどう君」


「ん? おお、秋野あきの君。何か用?」


「君、朝から何回も俺の方を見ていたよね?」


「い、いや……気のせいじゃないかな―?」


竜堂りんどう君は明らかに動揺した様子で視線を泳がせる。


「……気のせいなら、何でそんなに動揺してるの?」


「ど、動揺? い、いやだなー。動揺なんてしてないよー?」


「してるじゃないか。一体俺に何の用だったの?」


「……くれ」


「ん?」


秋野あきの君! 頼む! 彼女を紹介してくれ!」


竜堂りんどう君はそう言って土下座する。


「彼女って、姫詩ひなたの事?」


「そう! 栗生くりゅう姫詩ひなたちゃんの事!」


「……いいけど。おーい、姫詩ひなたー」


「なーに? 悠雲ゆう


姫詩ひなたがこちらにやって来る。


「彼、竜堂りんどう君がお近付きになりたいってさ」


「え?」


「は、はわわ、く、栗生くりゅうさん!」


「は、はい」


「ぼ、ぼぼ僕は竜堂りんどう千太郎せんたろうって言います。どうぞよろしくお願いします」


竜堂りんどう君はそう言ってまた土下座する。


「はあ……。栗生くりゅう姫詩ひなたです。こちらこそよろしくお願いします」


姫詩ひなたはそう言って深々と頭を下げる。


栗生くりゅうさん」


竜堂りんどう君はいつの間にか姫詩ひなたの前に立ち上がる。


「はい?」


「そ、その……付き合ってる人とかいるんですか?」


「え? えーと……」


姫詩ひなたがこちらを見てパチパチとウインクをする。


――仕方ないな。


竜堂りんどう君。実は姫詩ひなたは俺と付き合ってるんだ」


「へ?」


「そ、そうなの。だから、ごめんなさい」


「……しろ」


「ん?」


「リア充爆発しろ! うわああああん!」


竜堂りんどう君はよくわからない捨て台詞を吐いて教室を出て行ってしまった。


悠雲ゆう。何なの? 彼」


「俺にもわからない。何か姫詩ひなたに惚れていたのかも」


悠雲ゆう。トンデモナイ人紹介しないでよ」


「悪かったよ。それにしても、俺と姫詩ひなたが付き合っているなんて嘘ついて悪かったかな?」


「じゃあ本当にする?」


姫詩ひなたがにじり寄る。


「勘弁してくれよ」


「何よその言い草!」


姫詩ひなたにポカポカと叩かれ、俺は苦笑する。


「痛いって。俺と姫詩ひなたじゃ、仲の良い姉弟みたいなもんだろ? 付き合うなんて上手くいかないよ」


「むー……。そんな事ないと思うけどな」


「まあとにかく、後で誤解は解いておくよ」


「そのまま誤解させておいてもいいんじゃない?」


姫詩の言葉に再び苦笑する。


「そうはいかないよ。俺が刺されるかもしれない」


「まあそうね。彼、尋常じゃないくらいにショックを受けていたみたいだから。じゃあ、悠雲ゆう、あとは任せた!」


「引き受けた」


休憩時間が終わると竜堂りんどう君は席に戻ってきた。


HRに入り担任の権田先生から様々な説明が行われた。


俺は話半分に聞いて過ごした。


HRが終わり帰る時間になって俺は竜堂りんどう君の所へ行く。


竜堂りんどう君」


俺の声に竜堂りんどう君は凄い目で睨んでくる。


「何か用か? 秋野あきの君」


「一緒に帰らない?」


「俺と?」


「そう、君と」


「……いいだろう。行こう」


竜堂りんどう君は鞄を手に立ち上がる。


「じゃあ行こうか」


「おう」


俺は竜堂りんどう君と並んで教室を出る。


竜堂りんどう君、時間有る?」


俺は玄関を出て竜堂りんどう君に問う。


「ん? あるが、何かあるのか?」


「ちょっと喫茶店でも寄って行こう」


「ああ。いいぞ」


「よし、じゃあ行こう」


俺は竜堂りんどう君にこっちこっちと指し示しながら、駅前の喫茶店クオリアに行った。


それぞれ、アイスティーとアイスコーヒーを注文して、席に向かい合って座る。


「それで、何の用だ? 秋野あきの君」


竜堂りんどう君は睨んでくる。


「誤解を解こうと思ってね」


「誤解?」


「ああ、俺と姫詩ひなたが付き合っているという話、あれは嘘だよ」


「な、何? 本当か、それは!」


竜堂りんどう君は立ち上がり、テーブルをバンと叩く。


「本当だよ。竜堂りんどう君がすごい剣幕で迫るから、やむを得ず、ね」


「と、いうことは姫詩ひなたちゃんはフリー?」


「そうだよ」


竜堂りんどう君はその言葉にガッツポーズをする。


秋野あきの君。貴重な情報をありがとう。……ん? ということは2人は何故あんなに親しい?」


「ああ、姫詩ひなたとは保育園の時からの腐れ縁なんだよ」


「な、何、だと……」


竜堂りんどう君は俺の言葉にがっくりと項垂れる。


竜堂りんどう君。どうしたの?」


「最強のライバルがいるとは……」


「ああ、竜堂りんどう君。大丈夫だよ。俺、姫詩ひなたに気はないから」


竜堂りんどう君の表情がパッと明るくなる。


「何? 本当か?」


「本当だよ」


「そ、そうか。ふふふ……。俺のリア充プランに支障は無いということだな。秋野あきの君。貴重な情報をありがとう」


「あ、ああ」


――教えない方が良かったかなー。


俺は心のなかで多少の後悔をした。


そこに注文の品が来る。


竜堂りんどう君はブラックのままアイスコーヒーを飲む。


「ブラック、好きなの?」


「ああ。スッキリするだろ? それがいいんだよ。そういう秋野あきの君も無糖で飲むのか?」


「うん。お茶に砂糖入れるのはどうも、ね」


「そうか。俺も紅茶に砂糖を入れるのは嫌いだ」


「そうなんだ」


俺はアイスティーを一口飲む。


「ところで秋野あきの君」


悠雲ゆうでいいよ。その代わり、俺も君のことを千太郎と呼ぶよ」


「わかった。悠雲ゆう姫詩ひなたちゃんの事なんだが……」


それから、千太郎の姫詩ひなたに関する質問は1時間以上続いた。


一頻り話したあと、俺達はクオリアを出る。


外はまだ日が高い。


「じゃあ悠雲ゆう。ここでな」


「ああ、また明日。千太郎」


俺は千太郎と別れて帰路についた。


――


「と、言うわけで、気が付くと千太郎と友人になってたわけ」


「そうなんですね。それにしても竜堂りんどう先輩。入学式から飛ばしていたんですね」


そう言って千恵ちえちゃんは笑う。


「と、飛ばしてなんかいないやい。ただ、姫詩ひなたちゃんに一目惚れしただけだやい」


「それでも土下座するか?」


「う、うるさいやい!」


俺と千太郎のやり取りを見て千恵ちえちゃんは笑う。


「お2人は本当に仲良しなんですね。何か羨ましいです」


千恵ちえちゃんだって姫詩ひなたとは姉妹のように仲が良いじゃないか」


「え? そうですか?」


「そうだよ。2人とも通じ合っている感じがなんとも」


俺の言葉に千恵ちえちゃんは恐縮しながら頭を下げる。


「あ、ありがとうございます」


千恵ちえー。お喋りは終わった―? 調理に入ってー」


調理台の方から姫詩ひなたの声が響く。


「あ、はーい。じゃあ先輩方、ありがとうございました」


千恵ちえちゃんはペコリと頭を下げて調理台の方へと行ってしまった。


「はあ、千恵ちえちゃんも良いよなあ。小動物系で可愛らしくて」


「俺はお前のこともっと一途なタイプだと思ったんだが、違ったようだな」


「俺はお前とは違うんだ。思い出に生きるより未来を見るんだ」


「はいはい、そうですか」


俺は千太郎の言葉に苦笑する。


――思い出に生きるか。ゆづ姉との関係がそうだって言いたいのかな?


「おい、悠雲ゆう。何ボーっとしてるんだ?」


「……別に。何でもないよ」


「今日も姫詩ひなたちゃんの料理楽しみだなー♪」


「そうだな」


――こいつは、しょうもない奴だが、それでも俺の友人だ。幸せな未来を掴んで欲しいと思う。


そんな事を考えながら、料理の完成を待っていた。


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