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遙かなるかな空と海 外伝 "ひとひらの刃となりて"  作者: かなみ
第二章 貫く槍の傭兵団(アルシェピース)
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第二節 首脳会談

「思ったより真っ当な扱いしてくれるんですね」

「お前俺たちを何だと思ってるんだ」

レアンサブラン王国軍の幕舎に行き、諸々の挨拶やらを済ませてきた。

傭兵は金で雇っただけの使い捨てみたいな感じかと思ってたんだけど、存外丁寧に相手してくれた。

「正規軍にしてみれば使い捨ての増兵程度の扱いなのかと」

「まあ、それ自体は間違っちゃいねぇけどな。だが逆に考えてみろ。使い捨てに出来る増兵がどれだけ心強いかってな」

言われて確かにと思った。

正規軍にしてみれば、貴重な兵力ではなく、言い方は悪いが民から徴収できる金で雇った傭兵を用いたほうが良いに決まってる。

それをしないって事は、西方同盟は単純に兵力が多いのもそうだろうけど、宗教的な問題なのかな。プライドとか。

宗教家って無駄に自尊心高そうだもんね…信じる神を否定した途端に異端扱いだし。

「よう、生きてたか」

なんて考えつつ団長に付いて行っていたら、どこかの部隊の天幕に入っていった。

「それはこっちの台詞だぜ」

何かこの空気覚えがあるなと思って中を覗いてみると、ここはどうやら正規軍ではなく傭兵団の方だった。

ていうか、目の前で団長と話してる人の時点で、全身から俺傭兵!みたいな匂い漂ってきてる。

「お?何だ、お前女連れ歩くような趣味持ってたのか」

その俺傭兵さんが、不躾に私の全身を眺めてくる。何か目がいやらしい…!

「こんなガキどうにかするほど落ちぶれちゃいねぇよ」

蹴飛ばしてやろうかしら。

ちょっと、かなり頭にきたので仕返ししておこう。

「アディと申します。いつもお父様がお世話になっております」

しずしずと前に出て、スカートの端を掴み優雅に一礼。

それを見て目を白黒させる相手の傭兵さんと、こめかみに手を当てる団長。ふふん。

「え、お、ああ?!」

私と団長を交互に見つつ、一緒に指をさす。

「おい勘弁しろよ…何だか事情があって傭兵になりてぇってから面倒見てやってんだよ」

前者は私に、後者を相手に。

「な、なんだそうか。俺ァてっきり……ぶっ、がっはっは!!!」

落ち着いた途端に大声で笑い出す。

「ひっひっ……アディちゃんとやら、良い根性してるぜ。俺は血風の傭兵団で頭やってる、ブロージ・ジャミンズってもんだ。よろしくな!」

「失礼致しました。まだ団に入りたての若輩ですが、どうかよしなに」

改めて、真面目に挨拶を返す。

「おお、お前ェの所にゃ勿体無いほど礼儀正しいし品があるじゃねぇか。どうだい、ウチにこねぇか」

「は…?」

「勝手に誘ってんじゃねぇよ。そっちに渡したら何されるかわかったもんじゃねぇ。こいつはウチのもんだ」

そう言ってまた頭に手を乗せる。何だか慣れちゃったけど、もしかして団長こういうの好き?

「…で?どうなんだ」

唐突に、一段低い声になる団長。

「まあ悪くはねぇ…もうしばらくは稼いでいられそうだぜ」

それに合わせてブロージさんも少し怖い顔つきになる。

「何だ、南のほうで動きでもあったか」

「これからあるかもしれねぇ」

辺りを見渡し、声を潜める。

「エルヌコンスがな、三月のウサギ号雇ったてぇ話だ」

「ヴァンサン平野で一発ぶちかましたって奴だろ。んなもん皆知ってるぜ」

「いや、その後だ。ランサミュラン=ブリュシモール家が別口で雇ったらしいぜ」

「ほう…大貴族じゃねぇか。何か事情でもあんのか」

「そこまではわからねぇが、あるから雇ったんだろうな。だから今はエルヌコンスの私掠船扱いだ」

それを聴いた瞬間、団長の目がすっと細まった。

「なるほど……そういうことか。確かに、もうしばらくだな」

「だろう?俺らも、ちょっと早ぇがもう一仕事したら南に行こうと思ってる。先にクトリヨンに寄りてぇんでな」

「じゃあたまに肩並べるか。その後は続きやってやるよ」

「なら、ここ使えば良い。一通りは揃ってるぜ」

言われて中を一瞥した後、他にもいくつかある天幕を眺める。

「他にどこが来てるんだ」

「おお、黒天やら隼やら居るぜ」

聴いて舌打ち。

「知った名前ばかりだ。どいつもこいつも抜け目ねぇな」

「同じ穴のなんとやらってな。鼻が良い連中は皆こっちに来てる」

「ま、今日の所はゆっくりさせてもらうぜ。長旅ですっかり酒が抜けちまった」

「何だ、それじゃただの腑抜けじゃねぇか。さっさと浸かってこい」

「そうさせてもらう。じゃあな…行くぞ、アディ」

言うや否や、踵を返してさっさと歩き始める。

「あ、はい。えぇと、失礼致します」

「アディ、って言ったか」

頭を下げて行こうとした所でブロージさんに声をかけられた。

「はい」

「ぶしつけで悪ぃが、お前さん人を斬ったことはあんのかい」

本当にぶしつけ!とか想う前に、どくん、と心臓が高鳴った。

「あ…いえ、まだ……」

「そうか。傭兵になったのは事情があるってぇし何も言わねぇけどな。覚悟だけは持っときな。後は何も考えんな」

んん?何か矛盾してない?

「それは…どういう事ですか?」

「良く、相手を前にして躊躇うと死ぬとか言う奴が居るがな。そもそも、相手斬んのにいちいち理由考えるなって話だ。あんのは生きるか死ぬかだけよ。だから、斬った後に後悔とかしねぇように、覚悟だけ持っとけって事よ」

「それは…」

「女の身で傭兵になったんだ。それだけのもん抱えてんだろ?」

「……はい」

「なら、それだけ忘れねぇようにな。何、お嬢ちゃんみたいな子が戦場で死んだら面白くねぇって話だ」

そう言って、また大声で笑い出す。

傭兵って生き物はよく分からないわ…でも、気持ちだけは、何となく伝わった気がする。

「えと…ありがとう、ございます」

「いい年こいてガキに色目使ってんじゃねぇよ」

いつの間に戻ったのか、団長が割り込んできた。

「これはウチのもんだって言ったろ」

「なんだ、やっぱり囲ってんのか」

先程までの雰囲気はどこへやら、うちの団員が騒いでいるのと同じような空気になった。

「うるせェな。おら、行くぞ」

「はい。では、改めて失礼致します」

慌てて一礼して、後に続く。

「おう、長生きしろよ!今度一杯やろうぜ!」

それはもう笑顔で見送ってくれた。笑うと結構愛嬌あるのね。強面だけど。おっさんだけど。


人を斬る覚悟、か。

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