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うしろの正面

作者: 空亡
掲載日:2015/04/26

「いったあ…」

後頭部の痛みで目が覚めた。真っ暗な部屋。

どこだっけ?ここ。

外からうっすら光が入ってきてる。昼間、なのかな。

少し目が慣れて、ここがユニットバスであることがわかった。

シャンプーボトルに見覚えがある。

「私が誕生日にあげたやつだ」

ここは、彼氏が下宿しているアパートの一室。

多分ドアは開かないだろうと思いつつ、一応試してみると、やはり外から何かで抑えこまれているようで開かない。

閉じ込められちゃった。




<1時間前>


「お願い!もう限界なの!別れて!」

「何いってんの?とにかく落ち着きなよ、泣いてるじゃん」

「触らないで!私を、開放して!」

「わかったわかった、ちゃんと話聞くから。大声出しちゃ近所迷惑だしとりあえず入りなよ」

「やっ!いや、助け…」

泣きわめく彼女をなだめつつ、彼氏は自分の家へと強引に引き入れた。

「…で?別れるって?どういうつもり?」

ゴスっ。

彼女の右目めがけて、拳。


「お前みたいなやつ、こんなに愛してくれるの俺くらいしかいないよ?それなのに別れるとか」

「お仕置きが必要だね」


彼女は反撃しようとする。

でも、男と女じゃ力の差は歴然。


あ、そこに傘立てが。


固そうな傘立ては、後頭部をモロに直撃した。





そして、目が覚めたら、監禁されてるなんて。

高校生になって下宿を始めて、2年生になった頃には彼氏ができて。

憧れだった生活を満喫出来てると思ってたんだけど。

付き合い始めて3ヶ月もした頃、彼が豹変したのだ。

外では優しくて素敵な彼氏。でも見えないところに、私の体にアザは増え続けた。


ガタン。


部屋に誰かいる。彼だと思う。

「ねえ!いるんでしょ?お願い、出して」

無反応。

ヒタヒタと足音だけが近づいてくる。

開けた瞬間に脱出して、とにかく外に逃げよう。

そんなことを考えていたが、ドアは開けてはもらえなかった。

私が目覚めたことを確認しただけ?のようだ。


ドアをあけてくれないと逃げられない。

「ねえ!お水だけでもいいから!のどが渇いちゃって…」

しばらく無音の後、冷蔵庫が開く音が聞こえた。

とくとくとく。飲み物が注がれる。


カサカサ ピリっ


ポチャン



…?

何の音?


またヒタヒタと足音が近づき、ギイっと静かに、ドアが少し開いた。

今だ!と全体重をドアにぶつけるも、椅子か何かで固定されているようで、それ以上ドアは開かなかった。

「っ!」

コップを持つ彼の手が、少し震えた。

「ご、ごめんなさい!逃げようとしたわけじゃないの、滑っちゃって…」

逃げようとしたことがばれたら、またお仕置きされる。

コップをそっと置いたあと、中の様子を確認しようと覗きこまれた。


背筋が凍るような、充血しきった、赤い目。


髪で少し隠れてはっきりは見えなかったものの、白目の部分が真っ赤だった。

焦点の合わない、朦朧とした視線。


「ハーーッ ハーーーッ」


心なしか、息も上がっている気がする。


そしてドアは閉じられる。

彼…だよね?


冷や汗をかきつつも、もらった飲み物を飲んで、落ち着こうと…


プクプク


下の方になにか沈殿している。

ほとんど溶けてるけど、何か入れられてると考えたほうがいい。

睡眠薬?それとも…もっと危険なもの?


目覚めた時、どうしてあんなに冷静だったのだろう。

いつの間にか、冷や汗が止まらなくなっていた。


危機管理能力がなさすぎる。

お仕置きされるとか、そんなレベルじゃない。

もっと最悪な事態を想定して、逃げなくてはいけない。


彼がいると思われる部屋は相変わらず静まり返って、たまに物音がする程度だった。


しばらくして、またなにかゴソゴソと物音がしたと思ったら…




『ねえ、聞いてる?いつも辛く当たってごめん。


でも、僕は本当に君のことが好きなんだ。


全部を愛してるんだ、…独占したい。


だから…他の男と…話してるだけで 狂いそうになるし


わけが わからない うちに 手を上 げ 


は   はなし たく ない』



ガタン!なにか落とした音。


なに…いまの。私に言ってる?


バン!ドン!



何かを落としたような、叩きつけるような音。



このまま ここに いたら


わたし…




恐怖で頭を抱えているその時、

ダダダダとものすごい足音と、バタン!と勢い良くアパートのドアの開閉の音。

外へ、出てった?


今しかない、とにかく、逃げないと。



コップが通る程度しか開かないドアから、椅子が挟まれているのが見えた。

シャワーのヘッドを使って、なんとか、ずらして ずらして


早く、いつ帰ってくるかわからない、早く早く。


震える手を抑えて、なんとかドアをこじ開け、部屋に飛び出る。

彼はいない。警察に、電話しないと…あれ?携帯…どこだっけ?

奪われたのか、持っていない。

部屋を見渡すと、彼の携帯が目につく。置き忘れだろうか、でもこれでいいや。


彼の携帯を握りしめたとき、部屋のドアがガチャガチャと鳴る。

帰ってきた。


とっさに、机の上に置いてあったハサミを手に、ベランダへと逃げた。

こんなもの、武器にも何もならないだろうけど。

彼が部屋へと入ってくる。

風呂から逃げたことはすぐにバレるだろう。


今手にしたハサミの横には、睡眠薬の空袋があった。

コップに入ってたのは睡眠薬だったんだ。

あの時は眠らせる程度だったかもしれないけど、いま逃げたことがわかったらもう。


『独占したい』『独占したい』


あの呪いのような言葉が頭からはなれない。


私は 殺される んじゃないだろうか。



2階のベランダから、危険を承知で…塀に飛び降り、道へと降りる。

足の指を少し擦りむいた。

危険な事だとわかってはいるけど、命には変えられない。


裸足のまま、私は走って…




すぐに後ろから追いかけてくるのを感じる。


捕まったら、本当に殺される。

私は必死にに走ったけれど…


カン カン カン




ああ…ツイてない。

目の前を、遮断機が降りた。


私はハサミで抵抗する覚悟を決めて、振り向こうと…


ふと隣の店の窓ガラスに映る人影。



私の姿。



淡い茶色に染めた髪に、パーカーとジーンズ姿の私。




ブブブ…ブブブ…握りしめた彼の携帯が鳴る。


着信中の携帯。



待ち受けには、カップルの写真が。

一人は今、ガラスに映っていた私。

そして隣には、黒髪で色白の美しい…女の子。




携帯を取り、振り返ると、そこには待ち受けにいた黒髪の少女。

私は着信を取り、携帯へ話しかけた。



『私…いや、僕を追いかけてきてくれたの?ありがとう』



その、右目。痛そうだね。充血してるじゃん。

そうだ、僕が殴った。

傘立てで、頭を殴られたのは、僕だったね。混乱してた。


独占したい、呪いのようなメッセージは、僕が君の留守電に入れたものだ。

再生した時、怖かったんだろ?僕もバスルームで聞いて怖かったからわかるよ。


そして閉じ込めたはずの彼が逃げ出して、ハサミも失くなっていて。





殺されると、おもったでしょ?





はは。



それでも、それでも。



『すきだよ、あいしてる』



カンカンカン!


遮断機の警報音で、彼女に届いたかわからないけど、言わずに入られなかった。


彼女は、それまで無表情だったが、突然微笑んだ。

そして僕に近づいてきた。

何も言ってはくれなかったけど。


そして彼女は僕に抱きつ…





ドン!





僕の身体は、踏切内に舞った。

練習中、2作目です。

拙い文章で読みづらかったと思いますが、お読み頂きありがとうございました。

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