12月6日 大先生との初打ち合わせ
12月6日、天候晴れ。しかし、寒い。
2013年12月6日。12月の第1金曜日。その午前10時。
俺、赤城正義はうろな料理店の『ビストロ』にて黒口穂波先生と向き合っていた。話す内容は勿論、次号からの話の内容についてである。黒口穂波先生から貰った作品、『ナイト・アイドル』。それは絵の質やストーリーからしても完成度が非常に高い作品であり、続編を作ろうとするならば作れなくない作品である。けれども、黒口穂波先生からしたら、これは読み切りで終わらせて欲しいらしい。編集者として作家先生の意思を第一に考えるとするならば、続編を作らずに……新しい作品を作るようにするのが良いのだろう。一個人としては、非常に残念であり、止めたくもある。しかし、ここでこの大先生のご機嫌取りに失敗してしまって、この雑誌から手を引かれるよりかはマシだと言えよう。
本日の黒口穂波先生はと言うと、相も変わらず漫画家と編集者との編集会議とは思えないほどの、気合の入った格好である。
艶やかで綺麗な黒髪をリボンでポニーテールにしており、神めいたボディラインを強調したような少し薄みがかかった水色のワンピースを着ている。首に金色のネックレスをかけており、顔には黒いサングラス、そして頭の上におしゃれな帽子を被っている。
(どう見てもアイドルが変装中としか見えないんだけれども……)
まぁ……。このうろな町にもアイドルと言う人間は居るには居るんだけれども、あっちはあっちでだけれどもアイドルとは思えないような事をしているらしいし、と言うかストーカーにしか見えないそうだし。
それに比べたら、こっちの黒口穂波先生のどんなにアイドルらしい事か。まぁ、アイドルでは無くて漫画家なんだけれども。
「1月号の編集会議……と言う事で良いんですよね?」
と、黒口穂波先生はそう言う。それに対して俺はその通りだと言って置く。
「1月号の会議です。と言うか、出来る事ならば今度は読み切りでは無く、きちんとした漫画が良いと思うのですが」
「確かにそうですね……。今回はその会議ですよね。と言う訳ですので、とりあえず考えてみました」
と言いつつ、黒口穂波先生は俺に原稿を渡して来る。原稿と言うよりかはどちらかと言うと、案のような物だったが。とりあえず編集者として確認させて貰う。簡潔にこの内容を示すとするならば、『ナイト・アイドル』よりかは大目に落ちると言っても過言ではない。
まぁ、これを連載化しようと考えた場合、後々に考えられる人気度を考えるとそうではないけれども。
「騎士とアイドルの次は、こう来ましたか。人形ものですか」
良く、『人形であるはずの物に何故か魂が宿り、話し出す』と言う物語は漫画としてそこまで特異な作品ではないと言える。けれども、それも黒口穂波先生の奴だと、どこか新しい風を吹き込んでくれるだろう。
「まぁ……。流石にこのままだと固定層が付く前に、呆れられてしまう可能性がありますね。まずは黒口先生の原稿が上がった後、問題点をこちらでも吟味して行きます」
「そ、そう? ……き、期待しておくわ」
ほっ……。どうやら悪い印象は無いみたいだ。
「と、ところで、先生はどうしてこのうろな町にて作家活動をしようと思ったんでしょうか? 先生のような大先生ですと、引くて数多だったのでは?」
「……私はうろな町が好きなのよ。元々、この辺りの出身ですし、ここには私の恩師が居ましたから。既に別の場所に勤務しているようですが」
へぇ……。黒口先生はここのうろな町出身だったのか。全く知らなかった……。
「じゃ、じゃあ、言われました通り、出来る限り早い時期にプロットとなる作品を送らせていただきます」
「え、えっと……大丈夫ですよ。
大先生の腕ならば、多少遅れても大丈夫でしょう。それに先生の腕も、信頼してますし」
そう俺が先生の機嫌を取るように言うと、途端に今までご機嫌だった先生の顔が曇る。ど、どうしたのだろう、急に。
「え、えっと……黒口先生?」
「……いえ、何でもありません。では、失礼します」
そう言って、黒口先生は足早にそこを去って行った。
どうしたんだろう、急に? そんなに変な事を言ったかな、俺?
漫画につきましては、絵の才能が無いこちらが漫画のようにしても無駄だと思いますので、小説化してお届けしたいと思いますので、ご了承ください。