12月2日 二人羽織と御手洗城
12月2日、天候晴れ。
うろな町北小学校の近くにあるとある一軒家。
その一室。
「ど、どうすっか! 出来の方は!」
と、俺、御手洗城の前に出て来た女。彼女の名前は『二人羽織』。勿論、本名ではない。P.N.……つまりペンネームという奴だ。こいつは漫画家で、俺の担当作家である。
いつも何考えてるか分からないようなぐるぐる眼鏡と、常に赤いジャージ姿。そして何故かいつも髪の毛だけはストレートで綺麗という、どこか謎めいた女であるが、一応俺はこいつの担当者。担当者として的確なアドバイスをするのが、担当者の義務である。
「……まぁまぁだな。これならば、読者も付くだろう的な感じだ」
「よっしゃー! 御手洗さんからのお墨付きが来たっすー! いやー、嬉しいな! 嬉しいなったら、嬉しいなー!」
そう言いつつ、わーい! わーい! と、部屋の中を駆け回る二人羽織。
そんなに俺の『お墨付き』とやらが欲しかったんだろうか、こいつは。俺としては最初の頃から褒めても良いと思っていたがな。まぁ、粗削りだから、もう少し磨けと思ったけど。
「そんなに、嬉しい物か、二人羽織先生」
と、俺は彼女をそう呼ぶ。こいつの名前は未だに分かっていないのだ。一応、ここは一軒家であるために苗字を確認すれば、苗字を呼ぶ事も出来るだろうが、面倒なのといつか話すのを待っているから俺は聞いていない。だから、俺はいつもP.N.の方で先生の名前を呼んでいるのだ。
そんな事を聞くと、彼女は二ヒヒと言う効果音が似合いそうな、ちょっと女にしては嫌な笑みでこっちを見ていた。
「嬉しいっすよ、そりゃあ! だって、御手洗さんったら、いつもアドバイスをした後は、わたしっちの漫画を描く風景を尻目に食事三昧じゃないっすか! わたしっちのごみ箱を見てくださいっす! ポテトチップスの嵐っす!」
と、ほらほらー! とごみ箱を突き出す二人羽織先生。そこには確かに大量の空になったポテトチップスになった袋があった。そしてこれを捨てたのは、全部俺だった。
「ちょっとは、わたしっちの漫画を描く姿も見て欲しいっすよ! 御手洗さん!」
「あぁー、悪いな。俺は完成品はアドバイスは出来ても、描く最中にアドバイスは出来んからな。だから、見てても仕方ないからポテトチップスを食べてた」
まぁ、最も出来る担当者は描いている最中でもアドバイスが出来るんだろうけれども。
「と・に・か・く! これで今月分は納入可能っすよね! 執筆、終わりっすよね!」
「まぁ、後は俺の方で雑誌編集部の方に出しておくさ。じゃあ、お疲れー……」
ガシッと、完成した漫画を持って出て行こうとする俺の腕を掴む二人羽織先生。その顔は先程と同じく……いや、先程以上ににやけた顔でこっちを見ていた。
「完成した後は2人で騒ぐっす! 宴会っす、パーティーっす!」
「いや、流石にそこまでは担当の仕事じゃねえような……」
「問答無用っす! 今から料理を作ってるので、編集者によってからまた来るっすよー!」
と、そう言われて二人羽織先生は台所で調理を始めてしまった。それを見て、俺も「はぁー……」と言いつつ、仕方ないかと思いつつ、部屋を後にして外に出る。
外は既に日が落ちかけていて、肌寒い。
「うぅ……寒っ。編集社に行って戻って来る頃には、日が沈んでるだろうな。まぁ、折角作家先生の方から誘ってくださっているんだし、帰って来るか」
と思いつつ、俺は重い身体を動かしつつ、駅へと向かう。その最中に、窓を開けて二人羽織先生が
「早く帰ってくるっすよー!」
とこちらに大声で呼びかけて来るのを、はいはいと受け流しつつ。
二人羽織……御手洗城の担当作家。いつも何考えてるか分からないようなぐるぐる眼鏡と、常に赤いジャージ姿。そして何故かいつも髪の毛だけはストレートで綺麗という、どこか謎めいた女。