6月19日 お母さん系女子、花織優華
6月19日、天気晴れ。
うろな駅に到着した電車から、1人の少女が降り立った。
少し大き目に作られている濃い目の深緑色のワンピースの上に白いエプロンのような服を羽織ったような格好、頭の上にはカチューシャのようなヘッドドレスを付けている。身長は女性と言う面を加味しても少し低い。少しくるりと巻いた癖っ毛の髪をいじりながら、物が沢山入ったスーツケースを押しながら駅前に立つ。
「すっごく良い天気ですね。厚めの服も渇くような洗濯日和だし、梅雨もようやく明けて服を干せるようになったわね。お母さん、嬉しいですよ」
と嬉しそうに笑いながらその少女、花織優華はスーツケースを動かしながら駅前へと降り立った。
「そろそろ城おじさんが来る時間だよね。楽しみだなー、久しぶりに城おじさんに会うのは。
お母さん、城おじさんの食生活とか気になるわ。あの子、ちゃんと料理作らないとカロリーとか栄養バランスを考えずに食べちゃうから心配で心配で……」
「何、人のお母さんみたいに言ってんだよ、この姪っ子は」
と、優華の後ろに立った少しぽっちゃりとした(悪く言えば太った)男性である御手洗城は、お母さんのように自分の心配をしてる姪の優華の頭にチョップを入れる。
「あぅ……。痛いわよ、お母さん、そんな子に育てた覚えはないわよ?」
「姪が何を言ってんだか。まぁ、とりあえずはうろな町までお疲れだな、優華。長い電車の旅はどうだった?」
「楽しかったよ。こう、若いお子様と接する機会も多くて、とても嬉しかったわ。冷凍みかんもあげて、嬉しそうにしてたし」
……お前はどこのオカンだよ、と城は心の中でそう思っていた。けれどもその気持ちをおくびに出さずに、そうか、と一言そう答えていた。
「まぁ、とりあえず長ったらしい話は後だ。そこにタクシーを用意したから、そこで話そう」
クイッと、タクシーを指差す城。そしてタクシーの方へと歩いて行く。優華もそれに着いて行く。そしてタクシーの中に入る2人。タクシー運転手に目的地を告げる城、そしてタクシーは走り出した。
「まぁ、優華。とりあえずは軽くおさらいと行くぞ。お前がこのうろな町に来た理由は?」
「飯田夏音さんと言うお子さんをお母さんとしてしっかりと育て上げるため!」
「違う。アイドルとして一緒に頑張るためだ。お前はアイドルになりたいんだろ?」
と城は、昔から歌も踊りも大好きだった姪にそう言う。それを受けて、優華も「そうですねー……」と小さく声を出す。
「アイドルとしては頑張りたいです。せっかく城おじさんがくれたチャンスを、お母さんが潰してしまっては仕方ないですから」
「後お前、一人称は私、な。お母さんは今後しばらくは禁止だ」
「そ、それじゃあ、私のアイデンティティーが!」
うるうると、ちょっと大きめの服の裾の中に手を隠したまま、泣く演技をする優華。それを城は無視して話を進める。
「お前は十分個性的だ。だから気にすんな。後、お母さんと言う一人称だけが母性溢れるアイデンティティーじゃないから、お前の場合」
「そうね。子供の言う事にはしっかりと耳を傾けないと」
うんうんと頷く優華を見て、そう言う所がお母さんっぽいんだよと優華はそう思うのであった。
「とりあえず、お前のこっちでの住居が決まるまでの間は俺の部屋で面倒見てやる」
「私は別に城おじさんと一緒でも構わないよ。お洗濯やお料理と言った家事も出来るし」
「……お前と一緒だと、栄養バランスの考えた食事や色々と小言を言われて1人暮らしじゃなくて、実家に居るようになるから嫌なんだ」
「あら、酷いわ。城おじさん。
私はこんなにも城おじさんの事を心配してるのに……」
うるうるとまた泣き真似を始めようとする優華を放っておいて、
「まずはお前のマネージャーになる人、飯田夏音のマネージャーに顔合わせするぞ、優華」
とそう城は、これからアイドルとして頑張ろうとする優華にそう言うのであった。