6月11日 コーヒー
6月11日、天候くもり。
うろな町の喫茶店にて黒口穂波はコーヒーを飲みながら、とある人物と会っていた。
「あら、ちょっと熱いわね。けれどもここのコーヒーは美味しいから好きよ」
と、黒口穂波の前に立つ猫塚千里はそう言いながら、また熱いコーヒーを飲む。熱いとまた言って、今度はミルクを足していた。
「……あなたは誰、なんですか?」
「あらあら? さっき、私の名前は紹介したはずよ。私の名前は猫塚千里。ちょっと綺麗なお姉さんよ」
ウフフ、と笑う千里を見て穂波は微妙そうな顔で見つめていた。
「……いきなり相席して欲しいと頼まれただけで、そもそも初対面ですし」
「まぁ、確かにそうですね……」
と、納得したようにこちらを見る千里。ウフフと笑いながら、穂波を見つめていた。
「なんでいきなり相席を……」
「助言し甲斐のある人を見つけたから、ほんの少しだけ助言を願いたかっただけですよ。黒口穂波さん。これでも私、お節介焼きで有名な物で」
ウフフ、と何もかも見通したように笑う千里を見て、穂波は若干の恐怖を覚えていた。(この人……一体何なの?)と心の中で思いながら。
「まぁ、ちょっとした事を言いたいだけですよ。このコーヒーを例に挙げてね」
「コーヒー……?」
「コーヒーの味は大人の味と評される事が多いけれども、これはコーヒーの味が苦いからよ。子供って言うのは、甘いお菓子を好む傾向があるからそれも含めてそう思う事が多いのだと思うわ。
けれども、本当にコーヒーの味を知っている人は、コーヒーを決して大人の飲み物だとは言わない。コーヒーとは、違いの分かる人が飲むものと言う事はあっても、コーヒーは決して特別ではないのよ」
「は、はぁ……」
何となく分からないような事ではないと思う穂波。
「そして、あなたはとある人に恋をしている」
「そ、それがどうかしたんですか!? それとコーヒーにどう言った意味が……」
「まぁ、何が言いたいかと言うと――――――コーヒーの苦みが分かる人に恋はあまり似合わないと言う事よ」
その言葉を聞いてますます意味が分からなくなる穂波。そして「か、帰ります!」と言って帰って行った。その後ろ姿を見て、千里はクスクスと笑う。
「あらあら、怒らせちゃったわ。別にそう言う意味で言った訳じゃなかったのに。
コーヒーの苦み……それは恋の苦しみと同じ。だから、コーヒーが好きな人って言うのは……」
これ以上は野暮ね、と千里はそう言う。
「マスター、コーヒー!」
「おい、芦屋。何でそんないっぱいコーヒーを……」
「良いの、稲荷山君! だって今日はコーヒーデーだから!」
「訳が分からん……」
(あらあら、コーヒーは恋の苦さを知ってる大人の飲み物かと想ってたけど、そうじゃないのね、今の御時世だと)
くすくすと、千里はそれだったら余計な事を言ってしまったと思うのであった。
三衣千月様より、猫塚千里。
そして寺町朱穂様より稲荷山孝人君と芦屋梨桜さんをお借りしました。




