5月25日 城と未来
5月25日、天候晴れ。
「何、人の事を分かりやすく死人のように扱ってくれちゃっているんですか? これじゃあ、二人羽織先生の元に紹介なんてされないじゃないですか。相も変わらずに、ジョウは最高にCOOLですね。しかも何気にボクのSEXを間違えてやがりますし」
と、目の前でそいつ、俺、御手洗城の中で死んだ事にしているはずのそいつが不満げな顔で、俺に対して話しかけて来た。
「確かにお前の性別を間違えたのは悪いと思うが、それに対して謝罪も弁明もするつもりはない。二人羽織先生にはお前の事を男だと紹介した覚えもない。死んだと言った覚えもない。ただ、俺の中でお前の事を死んだと言う事にしただけの話」
と、俺はそいつ、中学生の頃クラスメイトで同時に親友でもあった少女、一井未来に視線を戻しつつそう言った。
正直、男性と思っていても仕方がない。こいつ、零音と親友だったのは、中学生時代と言う僅か3年間。人生にしてみればほんの短い些細な期間内の友達であり、1人でロボットを作れるほどの天才であると同時に、男女の仲を感じさせないくらい友好的(奴は何故か"FRIENDLY"と言うように強制して来る。どうやら英語で言った方がカッコいいと思っているらしい)に接して来たし。
それが今や、と俺はそう言いながら彼女の顔から少しだけ視線を逸らした。
ボンッ!
……これで大抵の人はどう言った変化が訪れたのかは理解して貰えたと思う。分かりやすい言葉で申すとすれば、下世話な話、彼女の男達と混ざっても違和感ないほどの大きさしか無かった胸が今では世の女性共の羨望と嫉妬の両方を担う程巨大な物になっていると言う訳だ。
……G? それかH?
「ブブー。外れだよ、ジョウ。これでもLサイズなのさ。勿論、カップでもだけど」
どうだと言わんばかりに胸を張る未来。それによって彼女の大きな自称Lカップの爆乳さんはたゆんと揺れた。相変わらず大きいな。
こいつ、一井未来を再び出逢ったのは中学卒業後の6年後。俺が21の時だった。その当時の俺は新米の編集担当としてとある某作家と一緒に、プライベートで社会人ロボット大会を見学していた。まぁ、その某作家の描いていた漫画はホラー物だったから完全に趣味だったんだろうが。そして俺はそこで優勝チームのメカニックをしていた一井未来と出会ったのだ。
俺は驚いたさ。別れた時には男か女かも区別できなかったような奴が、でっかい2つの乳房袋を携えていたんだからな。一瞬、本当に誰だか分からなかったくらいだ。
「全く……ジョウは相変わらず失礼だよ。ボクの顔を見るなり整形したのかってさ。久しぶりに会った同級生の会話じゃないよ、それは」
「悪かった。本当に驚いたのさ。いきなり美形になっているんだから」
まぁ、中学時代もモテていたがな。性別をあまり気にしない彼女の性格と同じく、男女両方に。ちなみに言えば、こいつ以外の他の5人には出会っていないし会う気もない。
風の噂で聞く程度だが、どうやら他の5人はそれぞれ生きてはいるらしい。ストーカー気質の少年だったユウはその思い込みの激しさを俳優として活かしており、ヒーロー気取りの少女だった美樹は今では子供達に夢を与えるゲームクリエーター。中学校1のバカと噂していたホノカはおバカタレント、ゲーマー男性の涼気はゲーム世界の王、そして魔女と呼ばれた少女の創は魔法世界の女王となったとか、なっていないとか。正直、最後の2人に関しては何をしているのかさっぱりだが、まぁ、とりあえず全員が全員、生きて未来に生きているらしい。
(まぁ、それは俺も未来もだがな)
世間では世界に絶望したと言うニュースが流れる事が多いが、俺に言わせればそいつらはただの逃げを選んだだけの奴らだ。本当に凄い奴と言うのは、困難だと分かっていようがいまいが、未来を切り開く奴らの事だ。『リア充爆発しろ!』と言っている暇があるのなら、化学記号の1つでも覚えて置け。
「まぁ、未来。今日はこの辺にしておこう」
「えぇー、まだ話が……」
「俺には仕事がある。お前もロボット作りがあるんだろう?」
「そうだけど……でも……」
今回、未来に会っていたのは本来予定に無かった事だ。彼女がどうしてもと言うから、ちょっと会話していただけに過ぎない。正直、こっちも編集会議で忙しいからな。
「じゃあな、未来。お互い、夢と将来のために頑張ろうぜ。じゃあな」
俺はそう言って手を振りながらそこを後にした。後ろから聞こえる未来の声を聞こえないふりして。