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5月10日 原☆稿☆感☆性

 5月10日、天候くもり時々晴れ。

 恋愛坂胡桃先生は恋愛作品を苦手としている。なんでも恋愛作品特有の愛らしい雰囲気とかが苦手みたいである。けれども、恋愛坂胡桃先生はそんな人間だと理解した上で恋愛作品を描き続けるのである。

 今もこうして俺、赤城正義の前でその作業を続けている。


「――――――あぁん♡ ここを、こう♡ いい感じ♡」


「…………」


 彼女は漫画を1ページ1ページ清書している際にいちいち変な奇声をあげている。しかも無駄に色っぽい、艶っぽい感じがして聞いているこっちが始まりみたいである。こちらから見ている分には、ただの痴女にしか見えないけれども、それでも……


(……やっぱり凄い)


 俺は彼女の奇声を聞き流しながらも、それでも普通に彼女の漫画の描く姿に関心を持っていた。何故ならば、本当に凄かったからである。奇声をあげていながらも、鉛筆やボールペンなどを使いながらさらさらと描き続けている。


「ああぁぁぁん♡ で、き、た♡」


 そう言って、恋愛坂胡桃先生は「快感♡」と口々に言いながら恋愛漫画を描きあげていた。


「どうぞー。読んで感想を聞かせてください」


 恋愛坂胡桃先生はそう言って、俺に描きあげた原稿を渡して来る。私はその渡された原稿を渡して来る。その渡された原稿を俺はさらりと確認する。


 内容は学園恋愛物。彼女が得意としていて、俺が集めていた資料にあった作品で、かなりエロ成分と言うか肌色成分が多めの作品である。内容に関して言えば……


(何、これ……)


 俺は驚いていた。


 中身がない。

 ストーリー性がない。

 飽きられても仕方ないと思えるような、そんな感じ。


 これが恋愛坂胡桃先生の描いた新作? 今まで描いた作品を読んできたが、ちゃんとあれにはストーリーも、そしてきちんとした設定もあった。こんな可愛いだけで、肌色成分多めの、エロ漫画と言うくくりだけでは無い、ちゃんとした恋愛作品としての完成していたはずなのに。


 けど、ダメ出しをしていいのか? 相手はこの月刊うろNOWで働いて貰えるのが光栄と思うほどの大スターの漫画家なのである。ここで嫌な印象を持ってしまうと、今後の仕事に差し支えが……。


 いや、違う。そうじゃない。編集者として、そして担当としてやる事は、相手の顔色を窺うような事では無く、きちんと(・・・・)意見を(・・・)出す事(・・・)なのだ。


「これは……ダメです。残念ですが、これにはストーリー性はあまりなく、読者ウケもあんまりしなさそうなので……。時間が差し迫っていますが、これは没でお願いします」


 怒られても仕方がない事を言ったと思う。けれども間違った事をしたくはなかった。


 それに対しての、恋愛坂胡桃先生の反応はと言うと、


「……うん! うん! そうだよね! やっぱりそう思うよね!」


 と、まさかの笑顔だった。


 どうやら話としてまとまっていないと感じたのは彼女自身もそうだったようで、どうするか迷っていたらしい。何せ、いくら描くのが速いと言ってももうすぐ締め切りが迫っているのだから。


「だから、お願い。担当さん。

 話の流れを作るの、手伝ってくれますか?」


「えぇ……勿論です」


 俺はそう返すのであった。

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