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4月30日 うろなのアイドル事情

 4月30日、天候晴れ。

 うろな町にある出版会社の『株式会社・兎山』。この『株式会社・兎山』は出版業だけで無く、職業斡旋(あっせん)や経理代行、そしてアイドル業務など色々と行っているのである。


「私はそんな『株式会社・兎山』のアイドル業務担当の忘路光世(わすれじこうせい)と申します」


 黒い眼鏡をかけ、その眼鏡の上に赤い眼鏡をかけた赤いジャンパーを着た彼、忘路光世は目の前に居る人物に対してそう聞いて来た。


「え、えっと、恐縮過ぎて萎縮(いしゅく)してしまいます」


 と、アイドルにしては地味めの少女、飯田夏音がそう言う。


 今日はアイドル、飯田夏音を『株式会社・兎山』で売り出そうと言う話をするための日である。とは言っても、実際に飯田夏音と言うまだ地味めのアイドルを『株式会社・兎山』でプロデュースする訳では無く、あくまでもスポンサーと言う立場で飯田夏音を売り出そうとしているのだ。


「ところで、飯田さん。あなたはまだアイドルとして何の活動もしていないそうですね? 歌も発表していませんし、アイドルとして何かの仕事をしたと言う訳でも無い」


「そ、それは……」


「はっきり言って、私どもの会社にて発足した『うろな町の未来ある若者を応援しようプロジェクト』の第1段階に選ぶ人間としましては、正直言って私は見込みはないと考えています」


 『うろな町の未来ある若者を応援しようプロジェクト』。これは上層部の一部が提案して可決させたプロジェクトであり、うろな町からビックスターを出そうと言う企画だ。未来ある若者に対して、出来る限りの支援と応援を元にビックスター、いや独り立ち出来るまでをサポートするプロジェクト。

 その第1段階、最初のサポートメンバーとして選ばれたのが、トップアイドル目指して頑張ろうとしている飯田夏音さんなのである。


「ご、ごめんなさい。この度はマネージャーさんが来る予定だったんですが……」


 と飯田夏音が弁明の言葉を述べると、「ご心配なく」と光世が答えた。


「そもそもこの場に呼んだのは、プロジェクトメンバーの飯田夏音さん本人であり、マネージャーは別口で話が回っているかと」


「は、はぁ……」


 気のない返事しか出せない夏音。


「まぁ、マネージャーさんから話は聞いています。なんでも『素質だけはピカ一』、『磨けば輝く宝石』、『将来のトップスター』とかなんとか」


 その言葉に対して、「あ、あのマネージャー! 1人でハードルだけ上げてー!」と拳を強く握りしめながら小さな声で呟く夏音を、眼鏡の奥からじっと光世は見つめていた。


「最も、それは筋違いだったようですね」


「えっ……」


「あなたには磨けば輝く宝石のような物があるのかも知れない。将来のトップスターと呼ばれるだけの素質も持っているのかも知れない。しかし、私どもの会社も決して道楽なんかであなたを選んだりはしていません。

 あなたには、それを証明する義務があります」


「義務……」


「そう、将来トップスターになるだけの素質があると言う事を証明する義務が」


 そう強く言う彼に対して、「で、でもそんなのどうやって証明すれば……」と小さな声で言う夏音。


「簡単な話ですよ。あなたが素質があると、その証拠を提出してくれれば良い」


「素質の証拠……」


「……そうですね、今は4月30日。今から3か月後の7月30日までに、歌、踊り、トーク力、オーラと言ったアイドルとして必要となって来る要素を問われる大会で入賞してきてください。

 歌ならば歌のコンテスト。踊りならば踊りのコンテスト。身内勝負では無い、公式の大会で入賞する実績があれば、私どもとしましてもあなたのスポンサーになるのはやぶさかではありません」


「そ、そんなぁ……」


「今はそうですね、お試し期間と言った所でしょうか。実績を見せて貰えれば、私どもも正式に飯田夏音さんのスポンサーをお受けしましょう。

 では、御武運を心からお祈りしておきますよ」


 「フフフ……! アハハハハ……!」と嫌味な笑いを浮かべながら、光世は会社の中へと入って行った。


「な、何よ! あの、ダブル眼鏡!」


 夏音は悔しそうに、駄々をこねており、それを裏でこっそりと澤鐘日花里が記録していた。

 寺町朱穂さんより、飯田夏音さんをお借りしました。

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