4月4日 作家の面影
4月4日、天候雨。
「こんな感じでどうだろうか?」
と俺、赤城正義は輝き閃光先生が渡して来た原稿に、個人的な手直しを加えて輝き閃光先生に返した。これは本来であれば、月刊うろNOWの4月号に投稿するはずだった、『夜空の高き一番星』の原稿である。今日、俺はそんな原稿を見させていただいているのである。
「ふむ……。この辺りが変だと思ったか……。まぁ、直した方がいい感じになりそうだから、今回はそちらで直させて貰いましょう」
渡された原稿をその場でちょいちょいと直し始める輝き閃光先生。これは5月号用の原稿であり、今から直さなくても大丈夫なくらいなのだが、
(これが漫画家と言う職業、なのかもしれないな)
と、俺は輝き閃光先生が原稿を書き上げているのを後ろからじっと見つめていた。そしてこのような光景を、どこかで見ていたような気がしていた。
(……あぁ、そう言えば確か、黒口穂波先生もそうだった)
月刊うろNOWにて連載中の黒口穂波先生。赤城正義の前に担当していた、どの雑誌でも人気抜群の作家先生。彼女はいつも、俺と話している時以外はこうやって後ろを向いて作家活動を……
(あれ……? そう言えば、した事が無いような……)
黒口穂波先生が描いているシーンなど、俺の頭の中にはほとんどない。それだけ彼女が有能であり、1人でやり終えて俺に原稿を渡しているイメージが強かった。いや、確かにアイデア出しをやったり、連載会議をした覚えはあるが、こうやって漫画を描いている姿を見ていた訳では無かった。
(けれども……俺は前に、こう言う誰かが漫画を描いているシーンを見ている)
そう、俺の頭の中にはっきりとした形で残っている誰か。
その人物は俺に背中を向けて、一生懸命な様子で漫画を描いている。集中線を入れる時も慎重に、そして台詞の大きさやキャラの位置を気にしながら、1つ1つ丁寧に漫画を描いている彼女。
『約束だよ♪ まさ君♪』
「はっ――――――!?」
「どうしたんだい、正義君?」
ふと気づくと、俺は輝き閃光先生に心配されていた。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。けれども……。
(さっきのは、一体……)
俺は先生に謝りつつ、さっき見た光景の中の漫画を描いていた誰かについて、想いを馳せていた。