表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/65

11月19日 黒口穂波(2)

 11月19日、天候晴れ。

 トントン、と階段を上がり、表札を確認する。そこには『黒口』と言う二文字が刻まれていた。



「ここか……」



 ここが俺の担当している作家先生、『黒口穂波』先生の家である。本来であれば、作家先生と言う物は本名を避けるのが鉄則と言うか、大抵の作家先生は本名とペンネームを分けているのが普通なんだけれども、この作家先生様はそう言う事をしないらしい。まぁ、珍しいな。



「ともかく、まずは作家先生と顔合わせと会議だ」



 俺はそう言いつつ、チャイムを鳴らす。



「すいません、編集の赤城正義です。編集会議に来ました」



『空いてるわ。入って頂戴』



 透き通るような、綺麗な声に誘われるようにして、俺はドアノブを回す。ドアノブは本当に鍵がかかっていなかったみたいで、簡単に開ける事が出来た。中に入るとそこにはとても綺麗な部屋が広がっていた。普通、多忙な漫画家さんと言うのは、ほとんどの場合、部屋が汚い場合があるんですが……。



「……来てくれてありがたいわ」



 そんな事を考えていると、中から先程聞こえて来た綺麗な声が聞こえて来る。そしてそこに居る人物を見て、絶句した。



「……早速で悪いけれども、編集者のチェックをやって貰える?」



 流れるような綺麗な黒髪。緑色の質素なジャージを着ているのにも関わらず、相手を魅了するボディライン。透き通るような瞳に、全身が神によってデザインされたかのような、そう、アイドルとしてもモデルとしても活躍出来そうな女性。



 そんな女性が、顔や手に黒い墨を付けたまま、こちらに向けて出来たてほやほやの漫画を突きだしていた。

 一瞬惚けていた俺だが、すぐに自分の役割を思い出し、その漫画を読ませて貰った。その漫画を読んだ感想は言いたくない。完璧だった。



 騎士とアイドルと言う2つの噛み合わない要素を合わせる事も去る事ながら、それをちゃんと活かす設定。それに試練と言うのもちゃんと出来ているし、それぞれのキャラと言うのも良い味を出している。

 お金を払っても読みたいレベルの漫画。そんな漫画だった。



「す、凄いです……。こ、これが読み切りだなんて……」



「そう、読みきりよ」



 俺の言葉に彼女、『黒口穂波』先生はそう返す。



「その続きは存在しないわ。どこにも、ね」



 そう。ただ1つ残念な所があるとしたら、これに連載性が無い。読み切りとしては完璧だけれども、これには連載性は一切ない。続きが作られると言う要素がほとんど無く、もしこれが人気が出たとしても、続きがない。そして本人である『黒口穂波』先生もそう言っている。



 自己完結。

 自己解決。

 独自性。

 


 本人だけで話が終わっており、本人だけで作品が完成してしまっている。これが部長の言っていた、『黒口穂波』先生の問題と言う物か。



「……何か、意見がありますか? 編集者の赤城正義さん?」



 しかし、あまりの完成度の高さ故に俺は何も言えずに、



「……い、良いと思いますよ?」



 と、俺はただそう言うしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ