表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/65

2月7日 バレンタイン・ティーチャー

 2月7日、天候晴れ時々曇り。

 横島楓は積極的なタイプである。

 『押してダメなら、引いてみろ』と言う言葉があるのは皆さんもご存じの事と思うが、それを彼女に当てはめる場合は『押してダメなら、押し続けろ』と言うくらい積極的な女性なのである。



「で、では、これより澤鐘日花里による、バレンタインのラブラブクッキングを開催したいと思います」



「はい!」

「……お、おぅ」



 どれくらい積極的かと言えば、バレンタインのチョコを作る場所に、意中の相手を連れて来るくらい積極的な少女である。



「なんで、私がここに呼ばれているのでしょうか?」



 連れて来られた意中の相手(当人)の意思など、彼女にとっては些細な事だが、当人には困惑しか無かった。



「す、すいません! どうしても彼女が木下先生と一緒じゃないと取材協力しないと言いまして」



「はぁ……。な、なるほど」



 そう言いつつ、自身の腕を掴みながら喜びの笑みを浮かべる横島楓の姿を見て、納得する木下先生。



「さ、最近ですと友達に渡す『友チョコ』や家族に渡す『家族チョコ』とかありますし……。そ、それにこの際男女の役割が逆であっても、問題は……」



「ないですね。私も昔、梅原先生にチョコを渡そうと思った事がありますから」



 渡したりはしなかったけどね、と木下先生は心の中で付け足した。それに対して、物凄い勢いでしょげる横島の機嫌取りに専念したからだ。



「で、では、今日は1週間ほど早く、男女逆のバレンタインと言う事で、甘めのチョコクッキーと言う事で、いかがでしょうか?」



「あっ、自分甘いチョコはかなり甘くても大丈夫ですよ。それに料理も慣れてますから」



 実際、料理だけでなく、クッキーまで焼けるほどの腕なのだが、それはちょっとオトメンかも知れないと思いながら、木下はそう言っていた。



「かなり甘くても、良し。砂糖超多め」



「横島さん……。さ、砂糖入れたら、とりあえず甘くはなりますが、血糖値を心配してあげてください」



「……!」



 横島は澤鐘の言葉に驚きつつも、反省しつつメモを書きなおしている。



「では、スタンダードなチョコレートクッキーを作りましょうか」



「「はい!」」



 そう言って、横島と木下先生は澤鐘の指示の元、チョコクッキーを作り始めた。



「材料は30個分で、薄力粉 100g、チョコチップ 100g 、無塩バター 100g、砂糖 50g、卵 1個、塩 ひとつまみです。

 まず、室温に戻したバターを泡だて器で混ぜ、塩と砂糖を2回に分けて入れて、混ぜ合わせます」



 木下先生は慣れた手つきで混ぜ合わせて行くが、横島は慣れていないようで所々こぼしながらも、一生懸命混ぜ合わせて行く。



「次に卵を溶きほぐし、少しずつ加えよく混ぜます」



「溶き、ほぐす……?」



 料理を知らない横島がキョトンとしながら、首を振る。慌てて木下先生が意味を教えて、料理を手伝う。



「薄力粉の半分をふるい入れ、粉っぽさがなくなるまで泡立て器で混ぜ、ゴムベラに変えて、残りの薄力粉を入れて、切るように混ぜます。この作業にはちょっとコツがありますので、こちらの方でやっておきます」



「あぁ、そうしてくれ……」



 恐らく、多分、薄力粉を被ってしまうだろう横島を見ながら、澤鐘と木下先生は同じ気持ちで横島を見ていた。訳も分からず、横島はキョトンとしていたが。



「出来上がった物に、チョコチップを加え、全体に散らすように混ぜます。さぁ、チョコチップを入れてください」



「ま、待った―――――――――!」



 と、そこで横島が今までに出さなかったような大きな声をあげる。木下先生はちょっぴりビックリし、澤鐘が驚いたように兎のようにびくついていた。



「わ、私のだけちょっとアレンジを加えても良いですか?」



「え、えっと素人のアレンジは危険で……」



 と、澤鐘が止めようとした時、木下先生が前に出る。



「やらせてくれないか、澤鐘さん? 生徒の自主性を高めるのも教師の務めなんだ」



「……分かりました」



 そう言って、どうぞと促す澤鐘。横島は「先生……」と色っぽく呟いた後、鞄の中からある物を取り出した。



「……それは」



「き、きなこ?」



 それはお餅とかで良く見るきなこだった。



「家から使うかもと思って、貰ってきました。使わないかもと思ったんですが、先生、甘い方が好きだって言っていたので」



 そう言って、きなこを慎重そうに、「お、美味しくなーれ。美味しくなーれ」と言って入れて行く横島。それを澤鐘と木下先生はそっと見守っていた。



 その後、オーブンシートを敷いた天板にスプーン1杯ずつ落として行く作業も、彼女の分は彼女自身で頑張っていた。そして180度に予熱したオーブンで焼く事、15分。



「で、出来ました」



 出来上がったチョコクッキーと、きなこクッキー。



「……ど、どど、どうぞ!」



 十分に冷ました自分特製のきなこクッキーを、木下先生に差し出す横島。それを木下先生はゆっくりと手に取って、自分の口に運んだ。



「ど、どうですか?」



 そう言う横島の質問に、



「チョコらしさは無くなったな」



 と答える木下先生。その返答にがっくりと、倒れる横島。



「―――――――けど、美味しいよ。ありがとう、かえで」



 その言葉に、疲れなんかなんのそのと言う感じで復帰して、満面の笑みを浮かべる彼女の姿を、カシャリと澤鐘は撮っていた。

 YLさんより、木下真弓先生をお借りしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ