1月25日、26日 不器用者が出した小さな勇気
1月25日、天候くもり。
1月26日、天候晴れ。
==1月25日 side.赤城正義==
『こ、この前のお礼をさせてください。この前、私に謝ってくれたでしょ? それが心に残ったの。ちゃんとそのお礼がしたいの』
そう黒口先生から連絡があったのは、1月25日の夜の事だった。俺、赤城正義はとても嬉しかった。遂に俺も黒口先生に本当に認められた。そう思うと、本当に嬉しく思う。
メールの内容によると、明日、1月26日に海浜公園に行きたいそうだ。多分、『DoMA』の作品のための資料集めと言った所だろう。その程度の事、自分1人で行けると返信したのだが、どうにも自分で行かないといけないみたいである。まぁ、それならば仕方ないかと思いつつ、明日寝坊しないために俺は就寝したのであった。
==1月26日 side.黒口穂波==
(だ、大丈夫かな? 変な服じゃないよね?)
私はドキドキしつつ、海浜公園の駅前で待っていた。こんなに緊張したのは、描いていた漫画のとある1作がアニメ化が決まって、それに伴って漫画のカバーデザインの一新とサインを200部頼まれた以上に、緊張しているのかもしれない。
なにせ、生まれて早20数年の私なのだが、友達とお出かけするなんて初めての経験だったからだ。しかも、そのお方が事もあろうに、異性であるからだ。
(へ、変じゃないよね? 大丈夫よね、この服で?)
女性キャラの服装を決めるつもりで自分の服装をコーディネートした私だけれども、そう言った経験は初めての上、とっても緊張しているのである。
ドキ。
ドキドキ。
ドキドキドキドキ。
緊張しまくって、胸が破裂してしまいそう。
「だ、大丈夫! 緊張なら沢山してきたんだ! 主に雑誌のインタビューで!」
そう、何も緊張する事なんてない。私はそう思いつつ、一度深呼吸して、気持ちを落ち着かせよう。
「スー……」
空気を大きく吸って、そのまま自分の気持ちをゆっくりと静めて行って、
「あ、あの~……。黒口先生?」
「ムグッ!?」
深呼吸したまま、私は驚いてしまっていた。そう声をかけたのは、事もあろうに待ち合わせをしていた赤城君だった。私はあまりの事に動揺して、呼吸に戸惑っていた。
「ケホッ! ケホッ、ケホケホ!」
「だ、大丈夫ですか? 先生?」
「は、はい。では、行きましょうか」
そう言いつつ、私は赤城さんの手を取って、海浜公園へと向かった。
(い、いきなり失態をしてしまいました。だ、大丈夫だよね? うん、大丈夫ですよね)
……大丈夫。大丈夫……のはずである。これから挽回が出来るはずである。
「よ、よし! まずは海浜公園を一回りして景観の確認を……!」
「く、黒口穂波大先生!」
今からなんとか挽回しようと思っていると、いきなりそんな風に呼び止められる。た、確かに自分の名前ではあるけれども、大先生って一体……。
そう思っていると、いきなりそんな声と共に、1人の少年が私の手を掴んで、
「せ、先生! お、おお、俺、稲荷山孝人と言います! 先生のファンです! よ、良かったらサインをくれませんか!?」
「アハハ……。よ、喜んで」
いきなり気合を入れようと思ったら、こんな風に呼び止められるなんて……。
(今日、上手く行くよね?)
私は若干の不安を覚えるのであった。
寺町朱穂さんより、稲荷山孝人君をお借りしました。