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序
その日は雨が降っていたような気がした。
気がした、というのは実際に雨は降ってなく、比喩的表現として捉えてほしい。
心に、雨が降っている。
痛々しい傷と苦い思い出が自分を襲う。空はそれなりに晴れているというのに心は鉛色の曇天が架かったようにどんよりしている。
「今度は、どうなるのかなあ」
自分以外誰もいない、緑が沢山ある丘でガラにもなくポツリと呟いてみた。誰もいないせいか虚しさだけが残り、なんだかその虚しさが可笑しくなり、クスリと笑ってしまった。
「そろそろ髪、切らないとなぁ」
ボサボサになった髪をわしゃわしゃとさわり、その場から立ち上がる。
さて今度はどんな人に会えるのかな。