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エージェント山田君シリーズ

エージェント山田君

作者: 柚科葉槻

 我が二年二組にはエージェントがいます。山田君です。

 別に秘密組織の諜報員(エージェント)ではありません。ただの代理人(エージェント)です。

 例えば用事があってすぐに帰れなくてはならない人に代わって掃除をしたり委員会に出たり、お昼休みに購買で限定発売されるオリジナルパンを代わりに買ってきたり、いわばただのパシリです。

 しかも山田君は嬉々とそのような仕事を請け負っています。いじめられっこ感などは皆無です。

 そんな山田君をよく利用しているのは、同じくクラスに在籍している学校一の不良田中君です。山田君の昼休みは田中君のためにあるみたいなものです。

 ほら今日もいつものように山田君にオリジナルパンを

「頼む! あいつらをどうにかしてくれ!」

 田中君は窓の外を指しながら、真剣な様子で山田君に何か頼んでいます。見てみると校門のところには大勢の893がいました。

「昨日ケンカ売られたから買ってやったんだよ。そしたらそいつ○×組の若頭とかゆーじゃねぇか。知らずに病院送りにしちまったら、今度はオレが地獄送りにされちまうんだよ」

 自業自得ですが、山田君が断るはずありません。山田君は「いいよ~」と気楽に言うと、窓から飛び降りました。

 猫のように華麗に着地すると、そのままゆったりとした足取りで893の元へ向かいます。

「何だぁお前? 早くあのガキを出せ!」

「へぇ、いいナイフ持ってんじゃん。よく切れそー」

 893が山田君を脅すために突き出した大型ナイフは、いつの間にか山田君が持っています。持ち主の893は「アレ?」とした表情をしました。

「でも俺、こっちの方が好きだなぁ。威力も高いし、使い慣れてるし」

 山田君、今度は拳銃を持っています。もう一人の893が「アレ?」としました。

 後ろにいた893が慌てて銃の引金を引きます。それをヒョイっと避けて、山田君は撃ってきた893に向け発砲しました。893は銃を落としてうずくまります。どうやら手を打ち抜いたようです。

 さらに慌てた左の893が柄のない刀、ドスで斬りかかってきました。ドスは軽く手で払われ、がら空きの鳩尾に山田君の一撃。さらに前のめりになった893の頭にもう一撃お見舞いし、893はノックダウンです。

 ほかの皆さんも一斉に山田君に襲いかかってきます。彼らにも昼間の学校にまで来たプライドがありますから。

 ですが残念なことに汚名だらけです。その攻撃はどれも山田君には当たらず、代わりに893の皆さんが地に伏せていきます。

「さーて……まだやる?」

 一人残った古典的な組長に山田君は問いました。組長の顔は真っ青で、生まれたての小鹿の方が立派なくらい震えています。

「答えられない? じゃあ、死ぬのと生きるの、どっちがいい?」

 山田君は安全装置を外した拳銃の銃口を組長の口に突っ込み、再度聞きました。組長は答えたくなくても答えられません。

「あ、ごめん。これだと答えるのは無理だね。死にたくなかったら、とっとと消えろ」

 組長は首が外れるではないかというくらい激しく首を振り、走って逃げて行きました。高級外車も部下も口の中の拳銃もそのままです。

「君たちもね。それから二度とここに来ないように。“boss”にも言っといてね」

 無駄に発音の良い“boss”を使いながら山田君は893たちに言いました。なんとか動ける893たちはそろって首を縦に振り、仲間を連れて帰っていきました。

 そのあとすぐ警察の方々が来て山田君を連れて行きました。学校内で拳銃を使ったわけですし。

 だけど一時間後の英語の授業には山田君は出席しました。無罪放免らしいです。

 理由を知りたいですが、全くと言っていいほど情報がありません。結構派手な騒ぎだったのにTVどころか地方紙の片隅にも載ってません。

 それにクラスメイトや先生方にも聞いて見ましたが、皆何も知らないというのです。

「んーまあ派手にやっちゃったし、操作しないと上がうるさいからね。佐藤さんは貧血で倒れて眠ってたから何も知らないって言っといたよ。だから記憶、あるでしょ?」

 聞き込みをしてたら山田君に見つかり、こう言われました。若干危ない匂いもしますが、微笑みで流しました。それにしても眠ってたから別にいいって、案外テキトーですね。後日色々嗅ぎ回っているのにお咎めなしですか。

 それにしても私の記憶だけを残したのは何故でしょうか?

「やっぱ男としては好きな女の子にカッコイイところ見せたいじゃん。だから残してみた」

 爽やかな笑顔で言われました。私情で機密情報は流していいのでしょうか。それ、組織に追われるフラグですよ。

 プラス、カッコイイとは限りません。怖がられるとか引かれるとか考えなかったのでしょうか、山田君は。

 その後山田君はいつものように田中君とかに(もちろんあの記憶はありません)パシられてます。

 無邪気な様子ですが記憶の残っている私にはわかります。山田君がただのパシリという名の手先(エージェント)ではないことを。

テスト中に書いたものです。実際の団体、個人とは全く関係ありません。

もともと我がクラスに山田君はいません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章のリズム、文体、それも高い質だと思いました。鋭いユーモアセンスも多々感じます。 [気になる点] 粗探しのようになってしまいますが(それぐらい、悪いところが見当たらなかったのです)、一つ…
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