RPGらしいが俺は作業ゲームしてた
どうにか1週間以内を達成できました。
低すぎる目標ですが、何分初めてのオリジナル作品なもので。
他と被らない、オリジナルな物語を目指しています。その上で面白かったら最高ですよね。
未熟なのでまだまだだと思うばかりですが。
いつもの夢を見ている。
この光景を見るだけで冷静にそう判断できるようになった自分を、成長したと評すべきだろうか。それとも、退化したと断じるべきだろうか。今の俺には判断がつかない。
ごく普通の食卓、たまの休日に家族と過ごす当たり前の日常。掛け替えの無い日々。温かく朗らかで、手放し難いそれは、思いの形。もう手に入るわけもないのに、下らない妄想だ。違う形ならまだ在り得たかも知れないが、これだけは、完全なる再生だけは、絶対に無理だ。だから、自分は行動した。
あの扉、開けてはならないあの扉に杖を向けて。
「ショック」
もっとも自分が慣れ親しんだそれを。
目が覚めた。
「……はぁ……はぁ……はぁ……まあ、夢だよなぁ」
荒く乱れた息、全身に纏わりつくじっとりとした汗、これで勢い良く身体を起こしたり、更には大声を上げたりしたら完璧だろな。なんてテンプレな目覚め方してんだろう、俺。
まだ意識のはっきりしないなかで考えながら、この十日間ですっかり見慣れてしまった天井をぼんやりと見つめる。
………………久しぶりに見たな、あの夢。
とりあえず、全身のじっとりとした汗を流すべく、ベットから降りる。大して物も無いこじんまりとした部屋を出て廊下を右に進む。そこの角部屋。茶色のなかなか上等な扉を開けると、そこは浴室だった。本当に普通の浴室だ。シャワーがあって、バスタブがあって、シャンプーやリンスと書かれたプラスチック容器が並ぶ、ごくごく一般家庭の、現代の浴室だ。世界観は中世なのに。
なんか魔法で全部賄っているそうだ。最初見た時は驚いたが、毎朝の事なので既に完全に慣れた。
色々ぶっ壊れているかも知れないが、便利だから良し、の一言で割り切っている。
シャワーシーンはカットで良いだろう?
水滴をフェイスタオルで拭い、脱いだ衣類を再度、装備する。不衛生じゃないぞ。この世界の衣類はよっぽど特殊なものでもない限り、一度脱いである程度放置すれば、勝手にクリーニング後みたいになっている。まあ、やっぱり最初は多少の心理的抵抗はあったが、それでも俺の服装は連日、初日に買った革の装備シリーズだ。便利は正義だ。だから地球は汚れるんだ。
「先生、先生!」
おっと。
馬鹿なことを考えているうちに、もう出番の時間になってしまったみたいだ。
まあそこまで焦る必要もないのだけれど、なんとなく足早に玄関へと向かう。毎度真っ白い無地の暖簾を潜ると、いつもの光景。
「われこらさっさと立ち退かんかい、こんボケが!」
「先祖代々受け継いできたこの土地を、あんたたちなんかに譲るわけないでしょ!」
「お前んとこは二週間前に越してきたばかりやろがい!?権利書寄越せやッ!」
アロハシャツに色つきのサングラスを掛けた如何にもなチンピラが、例の看板娘に絡んでいた。でも看板娘も全然負けてないな。え、ていうか、そうなの? 二週間前なの!? 俺達とあまり変わりなくねッ!?
「あ、先生!キャー、助けてください!」
衝撃的事実に混乱する俺がそばにいるのに気付き、怯えた表情で助けを求める看板娘。今のいままで、般若面みたいな顔をしてチンピラに逆に食ってかかる勢いだったはずなんだが。
…………あれ?
………………うん、相変わらず突っ込みどころが満載な状況だが、いまはこれが食い扶持なわけだから仕事はしっかりしないといけないよな。てことで。
「よーし、たたかっちゃうぞー」
「真剣身に欠け過ぎてんぞゴラァッ!?」
「え、やらないの?じゃあ帰れば?」
「上から目線過ぎんだろ!?」
「帰れ!帰れ!帰れ!」
「お前も悪乗りしてくんじゃねーよ!?面倒くせーなーもーッ!?」
「で、結局やるの?帰るの?」
「帰らねーよ!?やるよ、やりゃいいんだろ!」
そう言ってまたしても如何にもな、ちゃちなナイフを懐から取り出す。余談だけど律儀にボケを全部拾ってしまう彼はきっと良い子だと思う。そしてなんだかんだでちゃんと構える彼はやっぱり良い子だと思う。
俺もまだ買い換えていない初心者の杖を彼に向ける。
ピリリーン
{バトルスタート}
カーン
初日からずっと、計十一回目も聞いたアナウンス。ご丁寧にゴング音まで響いてくる。NPCと何らかのイベントで戦う時は、必ずこのアナウンスが流れるみたいだ。彼以外と戦ったことがないから分からないが。
「行くぞオラー!」
何はともあれ戦闘開始。
何はともあれ、負ける気が全くしないな。
なんせ、この戦闘中は何故かスキルを使用してもMPが消費しないからな。
多分だが不具合だと思われる。
初めて受領したときに気付いてから、自分なりに考察してみた。
もともと本来、このゲーム内では街中でのスキル使用は制限されている。更にはMPは基本的にはスキルを使用しないと減らないようになっている。もしかする以上のことから街中ではMPが減らないように設定されているんじゃないだろうか。しかし、この戦闘は曲りなりにも街中で起こっている。この矛盾を解決するために、このような仕様になっているのではないか。まあ、現状では確かめるすべはないわけだが。
そんなことも知らず、腰だめにドスみたいにして突っ込んで来るチンピラ。遅い、遅いぞ。でもワザと引き付けてから…………今だ!
「ステップ」
ギリギリのタイミング。一言発しながら横へ一歩。瞬間、システムのアシストが全身に働き、運動不足の大学生とは思えない速度で真横へ素早く移動する。一瞬後に俺がいた位置に突っ込みつんのめるチンピラ。
シングルスキル《ステップ》の恩恵だ。
シングルスキルとは、センスを得るだけでは獲得できず、それぞれ固有の条件を満たして初めて獲得できるスキルの事を言う。その獲得方法は多岐に渡り、一例を上げれば、戦闘中の状況下で特定の行動をとったり、または特定のクエストをクリアしたりなどだ。
そして《ステップ》とは、まさに前者の場合に当てはまる。どうやら、戦闘中に横跳び、または後ろに跳んで、何度か攻撃を回避すると獲得できるようだ。初めて戦闘したときに、思わず避ける際に走ってしまい、それを何度か繰り返すうちにシンプルスキル《ダッシュ》を獲得したことから、色々と試してみた結果だ。
「クソッ!なんで当たらねーんだ!?」
「遅い遅い!ふはははははははは!!!」
笑いながらさっきと同じように引き付けて回避、引き付けて回避を繰り返す。
「ほらステップ!ステップ!ステップ!」
熟練度が3のためか、こうやって連続使用も3回まで可能だ。
「そこだ!」
「どわっ!?」
ただ《ステップ》は、今の状況下だとMPこそ消費しないが、発動後の次スキル発動までのインターバルがかなり長いので、全てをそれで躱しきることは出来ず、こんな風に転げるように避けることもしばしば。おちゃらけた口調ほど余裕がないのは確かだ。
「このこのこの!」
毎朝の事に学習してきたのか、ナイフを連続で繰り出すチンピラ。実に素人臭いが、本来なら同じく素人の俺には避けるすべもない。だがしかし甘い。その程度では俺は捕まえられない。何せ見えているんだからな。
自動スキル、《見切り》発動。何度か攻撃を紙一重で避けると習得出来た。因みにもともとMP消費は0だったりする。
その効果によって、これから繰り出される攻撃の軌跡が視界の中で薄ぼんやりとだが赤く光っている。見える、見えるぞ!一撃目、二撃目を不格好ながらなんとか躱し、下腹への三撃目を。
「とりゃ!」
気合一発。その場で《ジャンプ》して避け、更にそのまま空を踏みしめて《ジャンプ》。チンピラの頭上を跳び越えて背後に着地。勿論、これもシンプルスキル《ジャンプ》の恩恵である。因みに《ジャンプ》も《見切り》と同じく、自動的に発動するので、スキル名を発音する必要はないし、もともとMP消費も無い。
「死ねぇ!」
「なんの!ステップ!」
着地後も殆どインターバルが無いので、かなり使い勝手の良いスキルだ。そんな感じで十分ほど躱し続けていると、だんだんチンピラの息が荒くなっていく。これ以上、こちらの熟練度上げに付き合ってくれる体力は無いようだ。しかたない、そろそろ決めるか。
「はぁ、はぁ、クソが!」
もう完全に肩で息をしながら繰り出す、破れかぶれの大振りをさっさと躱し、頭には正確なイメージを思い浮かべながら、懐に踏み込み人中へ杖を突き付ける。瞬間、魔方陣が展開。
「マジックミサイルッ!」
零距離発射。
魔方陣から薄らと黄色に色付く五本の円柱状の衝撃波が顔全体にぶち当たり、チンピラのHPバーがグリーンからロケットスタートを決めてあっさりとイエローゾーンを通り過ぎ、レッドゾーンに到達し、そのまま真っ白になった。
膝から崩れ落ちるチンピラ。その頭上には本当にチンピラ(下っ端)と表示されている。最初に見た時は思わず噴いた。そして、その横には空っぽのHPバーとレベルが表示されている。
レベル1024。
俺のレベルは相変わらず4だけどチートじゃない!断じてチートではないんだッ!
ただこのチンピラ君は物凄い努力家で、でも同時に凄い残念な子過ぎるだけなんだ。
一度負けたら次の日にはレベルを倍にして挑んで来るのに、最初(レベル1)に戦った時とステータス的に何ら違いが見えないだけなんだ!唯一、HPバーの上限の上昇だけは成長を止めないけれど。多分不具合だと思う。能力値の変更をしてなかったんだろう。一応、後でジェイ君のとMP消費のと一緒にメッセージカードに書いて広場の中央で送ってきた。別に中央でなくてもよかったのだが、なんとなく前の手紙の横に並べて送った。まあ、中空に浮かんだまま静止する手紙が消えるのは三百年後なわけだが。
熟練度を上げるには、ステータスが高い相手と戦うより、レベルが高い相手と戦った方が経験値的には効率がいい、本社にゲームクリエイターとして勤めている叔母の受け売りだが。
例えばあるスキルの熟練度を1上げるのに100の経験値が必要だとして、同レベルのモンスターを、個人で、熟練度を上げたいスキルのみで、倒したとすると大体得られるのは1とする。その場合で自分より高レベルのモンスターを同様に倒したら、経験値は差のレベル分×10%を上乗せという形になる。低い場合も同様に差のレベル分×10%を引かれるわけだ。こんなざっくりした計算で本当にいいのかって話だが、叔母曰く本当なんだからしょうがない。ただし、NPCとの戦闘ではレベルは上がらないから、俺は4レベルのままだ。
叔母は俺にこのゲームのテスターのバイトを紹介した張本人であり、このゲームの企画、作成、運営の責任者でもある。「大任だけど、なんの問題も無く遂行してみせるZEッ!」なんて意気込んでいたが、こんな事態になってしまった以上、間違いなく責任は取らされるだろう。退社か、最悪罪に問われるかもしれない。
ともかく、ある種すべての元凶みたいな、しかしゲームでは一切嘘の吐いたことがない、他でも無い叔母の証言なのだから、信じるしかないだろう。
で、この男を倒した場合の計算だが、元の俺のレベル4を引いたチンピラのレベル1020×10%=10200%、これに基本の1を足してと。つまり一気に経験値103を獲得したということになる。その証拠に《マジックミサイル》の熟練度が7から8に上がった。勿論、全部が全部均一というわけじゃなくて、スキルごとにちゃんと差はある。因みに、《ステップ》や《ジャンプ》、《ダッシュ》などは通常時に発動して0.1%、同レベルとの戦闘中に発動して10%、相手のレベルが上の場合はその差×1%上乗せ、下の場合はその差×1%を引く。《ダッシュ》の場合はどうやって一回とみなしているかは不明だ。なんとなく一度立ち止まってから、とかではないように思えるが。
「覚えてやがれーッ!また来っかんなーッ!」
ウィンドウを開き、色々と思考していると何時の間にやら復活していたチンピラが、お決まりの捨て台詞を吐きながら走り去っていった。確かにHPバーを削りきったのに、イベント進行の都合上によりシステム的に不死とされる彼は、ある種で育たないステータスの対価を十分に受けているんじゃないか、と時々思う。
「流石ですね~。あんなに簡単にあしらっちゃうなんて」
「ホントウニスゴイデスヨ」
背後から二つの声がかかる。前者は何時の間にやら退避していたちゃっかりしてる看板娘で、後者が輝かんばかりの見事な金髪をした大柄の濃ゆいおっさんだ。目は青。それ以外は外見的に全く似ていない。ただ、毎回あの騒ぎになるのにいつも終わってから登場するあたり、この親にしてこの娘という感じだが。そして何故か話す日本語が片言なのだ。この世界ではかつて異世界から召喚された日本人の勇者が魔王を倒し、一大帝国を建国したという世界観から、その影響で日本語が普及している、という設定になっている。なのにもかかわらず、何故かこのおっさんだけは、日本語が片言なのだ。他の言語を使用する土地から来たとかいう設定なんだろうか、それとも不具合なんだろうか、謎だ。
前に一度だけ戯れに
「なんか好きな日本語喋ってみてよ」
と聞いたら
「ブッタマゲル」
一瞬、発音がおかし過ぎてゲル状の何かかと思った。続けて
「じゃあ、ぶったまげるってやってみてくれないか?」
なんて調子に乗って聞いてみたら
「イイヨ!」
意外とあっさり了承してもらった。どんな演技をするのかな~なんて見てたら。
「ヨッコイショット!!」
ショットと言った割には何にも出てこなかったが、代わりにカウンターの下からおもむろに金色の彫像を取り出す。人型のそれの端、頭の部分と足の部分をしっかりと両手で持つ。おい、ちょっと待て!まさかそれって!?
「ブッタマゲル!!!」
おっさんの両腕の筋肉が盛り上がり、グニュン、と手の中の物体を折り曲げる。まあ、金って柔らかいよね。ははははは。
現実逃避し始める俺におっさんは何故かドヤ顔で、にやりと笑い一言。
「ブッタマゲル」
ぶちッ!!
「ブッタ曲げてんじゃねえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
なんて喜劇みたいな奇妙な状況に陥ってしまった。それ以来、絶対に掘り下げないようにしようと心に誓った。面倒臭すぎる。
「まあね、それじゃあ、今回のミッションは完遂ってことでいい?」
「はい、ありがとうございました」
看板娘がぺこりと頭を下げる。
ピリリーン
{サイドストーリー・サブミッション『用心棒』を達成しました}
それを合図にアナウンスが響き、システムより自動で成功報酬が支払われる。
チンピラのレベルが1の時に100マクス、レベル10の時に1000マクスだったので、恐らく100000マクス支払われているだろう。この計算もだいぶ大雑把だと思う。
報酬の計算もそこそこに、もう一度看板娘に話しかける。
「さっきのやつもまた来るって言ってたし、出来ればもう一拍したいんだけど、いいかな?」
NPCのAIも馬鹿じゃない。連続で受領する場合はわざわざキーワードを言う必要は無い。
「はい、喜んで」
微笑み頷く看板娘。
ピリリーン
{サイドストーリー・サブミッション『用心棒』を受領しました}
よし、と。
これを何度も繰り返すだけ。
こんな簡単な作業ゲームみたいなものが今の俺の日常である。
あ、本返しに行かなきゃな。
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