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ログアウト不能らしいが俺は自宅警備員してた  作者: 並立裏子
プロローグないしはエピローグ
3/6

ボス戦らしいが俺は用心棒してた

こんにちは。

珍しく昼時投稿です。

とりあえず、きりが良いところまで投稿します。

あとはしばらく、構想を練ってからにしたいと思います。

お気に入り登録を意外と多くしてもらい、嬉しくてついやっちゃいました。

 フィールドボスというのは、大抵の場合だがフィールド範囲内じゃ一番強いモンスターの事を言う。他のゲームとかでもそうだろうけど、同レベル帯でのソロプレイはまず不可能だ。複数人のパーティーで、更に綿密な打ち合わせの元に戦うべきだろう。理想形としてはね。


 まあ、あれだ。理想は理想だ所詮。現実は現実。急なエンカウントだってあるわけだし。しかもこのゲームは仕様上ボスとのエンカウント時は逃亡用のアイテムかそれに類するスキルの使用、または死亡して最寄りの町に復活する所謂死に戻りルートの三つ以外に逃れる術がない。だから状況によってはどう考えたって自殺特攻としか思えない戦闘をシステムに強要させられることもいずれはあるだろう。


「でもさ、今とは思わなかったよ」

「うるさい、集中しないと死ぬぞ」


 俺の前方に立ち、油断無く正眼に構える剣士。緊迫感に満ちた声。さすがのミズキも驚きと状況の理不尽さに苛立ちを感じるのだろう。

 ミズキから二メートルほど更に前方に唐突に表れた二つ名持ちのボス。三メートルほどの大柄な背丈。体格は通常種の倍ある。がっしりとした腕、太く鍛えられた脚、かなりのパワーとスピードが予想できる。しかも二つ名持ちだ。


 絶叫のブルーコボルト。


 しかも、俺たちは逃亡用アイテムを持たないし、当然ながらその手のスキルも無い。

「……どうする?」

「どうするも何も、やるしかないだろう」

 死にたくなければな。

 ミズキは暗にそう言うけど、普通に死亡確定の状況なんだよね、今って。逃げられないし、レベルも向こうが上だ。頭上に掲げられた名前、HPバーの隣にレベルなんてのも、書いてある。これはモンスター自身のレベルじゃなくて、プレイヤーが戦う場合の大体の目安になる。前述みたいにボスとかなら、同じぐらいで、四、五人のパーティーを組み戦うのが普通。でもブルーコボルトはレベル10、俺たちの倍以上だ。


「…………でも、諦めるのは早いよな。さて、二人ともあれの前じゃ多分紙装甲だから、攻撃優先で行こう」

「はらまず私が切り込んで、初撃のダメージボーナスを狙って急所を突く」

「喉元か、ボスだろうと種族共通の急所は消えないからな」

「仰け反るようなら連撃を叩き込む、構わず反撃してきたら何とか避けて一旦引くからスキルで援護してもらい、引いた後は追ってきたところをスキルで迎え討ってくれ。それで怯んだら同じ事を繰り返す」

「再使用までのタイムラグがネックだが………まあ、実際二人だけしかいないんじゃそれぐらいしか出来ないか。でも気をつけろよ。なんたってあいつは」

「分かってる」

 ともに注意を払うべきは頭上のネームの横につく“絶叫”の二文字。二つ名である。

 二つ名とは、数いるボスの中でも特異な能力を持つモンスターに与えられる。その分何らかのステータスが弱体化してたり、通常のモンスターより劣化してたりもするが、大多数はそれでもなお十分な脅威と考えていいぐらいに恐ろしい能力を持っている。

 幸い、相手は様子見の最中なのか離れた場所から見てくるばかりで、おかげでこんな風に話すことも出来る。


「行くぞ」

 小さく呟き、猛然と発進。スプリンター並の急加速。ゾォンッと音が聞こえてきそうなほどだ。あっという間に距離を潰し、迎え撃つ大砲のような右の拳を身を屈めて躱して、懐に飛び込む。

 俺の眼で視認できたのはそこまでで、ブルーコボルトの伸びきった腕にミズキの姿が隠れる。次の瞬間には喉元を抉り込む一撃、それによって発生した激しいエフェクトの輝き。犬頭が大きく仰け反り、HPバーが四割は減る。よし、仰け反った。アイツは防御力が通常個体より劣るみたいだし、ここままなら押し込める。

「ハアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ガインッ!ガインッ!

 立て続けに二度、奇声が上がりダメージエフェクトの光の粒子が舞う。強烈な閃光。合計でHPバーは更に五割吹き飛びされど剣は止まらず、三度目を叩きつけようと繰り出した所へ。

 パキンッ!

 甲高い破砕音を立てて、なにかがブーメランのように勢い良く宙を舞い、地面に突き刺さる。銀色の何か。いや…………何かじゃねーよ、剣身じゃねーか!?

 見れば喉元に一撃食らわしてやらんとする途中の姿勢で固まるミズキの姿。その手にはやはり半ば以上で折れ砕けた一本の剣。あまりのことに、しばし呆然としてしまう。けど後から考えれば当然なんだ。どんだけ高いステータスを持とうが、本来その武器のセンスを取得してないやつが、あんな無茶苦茶な使い方をしてたら、湯水の如く耐久値が減っていくのは当然の道理だろう。

 思考の隙は一僅か拍ほど、けれどそれは致命的と言って十分すぎるものだった。気が付けば大きく息を吸い、吐き出すまさに直前といった具合のブルーコボルト。あれは、何らかの能力行使の前兆か!? 咄嗟に杖を向けるがまだ頭が混乱しているのか、上手くイメージがまとまらない。懐のミズキはまだ呆然としている。

「何かくるぞ!?避けろ!」

 なにがくるのか分からないくせに避けろなんて、我ながら無茶な言葉だと分かってはいる。けれど俺もそれ以上何かを言うことは出来なかった。

 大きく開かれた口、鋭い犬歯を覗かせながら。


「ギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 咆哮が轟いた。

 暴音に思わず耳を抑えるが、儚い抵抗に過ぎなかった。世界が揺れる。思考がかき乱され、強制的な酩酊感に脳内が埋め尽くされる。視界が歪み、足元が覚束ない。電気信号がストを起こしたみたいに全身を思い通りに動せない感覚。もどかしい苛立ちと不安が頭に浮かぶ。何かの状態異常か?


 頭の隅で何とか思考を纏めようと試みるも、やはりうまくいかない。歪んだ視界の中で、ミズキがブルーコボルトに数度殴られたのが見える。抵抗しない、出来ないところを見るとミズキも状態異常になってるようだ。いや俺と違い、至近距離で咆哮を食らったわけだから、より重いものなのかも知れない。

「ぐあああああああ!?!?!?!?」

 色気の欠片もない悲鳴、激しいダメージエフェクトが舞い、地面にワンバウンドして錐もみ回転しながら吹き飛んだ。そのまま消失時の白いエフェクトを撒き散らしながら宙に消えるミズキ。死に戻りだ、一定時間でパイシスの広場に復活するらしい。女としてあんまり過ぎる最後に、恐怖よりも何故か笑いがこみ上げてしまう。まあ痛いだろうがまだレベルも5程度で、復活もするんだし大丈夫だろう。


ピリリーン

{ミズキ 様が戦闘を離脱なされました}


 スキル効果が切れたのか意識が段々と明瞭になっていく。大分余裕が出てきた。恐らくそんなに長い時間、影響を及ぼす類のものじゃないのだろう。

「グルルルルル!」

 復調した聴覚が捉えたのは、獰猛な唸り声と大地を駆ける気配。正面を向けば、視界が捉えるのは、二、三歩の距離まで踏み込む青い巨影。伸ばされた剛腕がうねりをあげ、猛然とこちらへと迫るブルーコボルト。俺にはミズキみたく、あの一撃を躱してカウンターなんて曲芸は勿論のことながら出来ない。けれどせめて俺は最後の抵抗を試みる。素早く杖を構え、出来得る限り最速で魔方陣を展開。その時にはブルーコボルトの拳が眼前に迫り、けれど動じず鼻先目掛け。

「ショック!」

 早口で一言。

 瞬間、飛び出す衝撃波。見事捉えた一撃が叩き込まれる。コボルトの動きに急停止がかかり、拳は寸前、まさに間一髪で固まる。まるで電池が切れたみたいに崩れ落ち、残り一割だったブルーコボルトのHPバーは完全に空になった。

「キイイィィ……ィィ…………」

 弱々しく鳴いて倒れ伏し、エフェクトが舞い散り、消えてゆくブルーコボルト。



 えっとあれ?、あ、そういや、一割しか残ってなかったっけ。


ピリリーン

{レベル圏内以下の状態で単独撃破、一撃撃破、ノーダメージの三条件を同時に満たしました。特典を獲得します}


ピリリーン

{称号【絶叫】を獲得しました}


 拍子抜けな展開に唖然とする中、システムウィンドウが視界の端に流れ、ミズキがスルーされていることに気が付く。どうやら途中退場した場合、完全に戦闘記録から抹消されるみたいだ。ん、でも一撃撃破ってちょっとおかしいよな。どういうことだ?

 しばしその場で黙考して。

 ………………つまりこういうことか。戦闘システム的には死亡したプレイヤーの与えたダメージは他プレイヤーの功績になる、けれど俺は一度しか攻撃していないからあのダメージ量をどうやって与えたのか、という矛盾が残る。その矛盾をシステムが解決するために、一撃でHPバー全部を削りきったということにした。


 一応の理屈の面として納得は出来るが、心理的には忌避感が強い。そりゃ倒したのは俺だけど他人の功績までぶんどるのは何か違う気がする。けれどウィンドウはまだ止まらず。


ピリリーン

{ドロップ・ブルーコボルトの毛皮を獲得しました}


ピリリーン

{ドロップ・ブルーコバルトインゴットを獲得しました}


ピリリーン

{ドロップ・5000マクスを獲得しました}


ピリリーン

{レアドロップ・牙剣ラインドリスを獲得しました}


ピリリーン

{経験値を得る以上の貴重な経験をしたので、経験値を獲得できませんでした}


 ボスドロップか。しかし最後のはなんだ?

 さっきの称号とかってのが関係してんのか?さり気無くレアまでゲットしちゃったし、どうすっかな~。このまま猫糞して独り占めっていうのは……………出来なくもないかな~。



 でも結局、ボスドロップは半々にした。パイシスに戻り、広場の方で顔色が悪そうなミズキを見つけて話をつけた。見つけた時はミズキが大泣きしたり、色々と大変なゴタゴタがあったが、ここでは割愛しておく。

 だって生身のプレイヤー同士がこれから長い間、暮らしていく中で初っ端から周囲との軋轢を生むような行為をしたくないし。要注意人物とかになったらマジ生き辛いと思う。何よりそれを行った場合どこか今までの自分と違ってしまうんじゃないかという拒否感があった。

 分配については滞りなく進んだ。まず俺は超特殊で恐らく獲得難易度が断トツに高いだろう称号を貰った。というかこれは他者に譲渡出来ないものだから仕方がない。とりあえずブルーコバルトインゴットと牙剣ラインドリスを渡し獲得額も折半して、俺は毛皮だけ貰ってその場を後にした。ここでも更にごたごたが起こり、しかもミズキの知人の連絡員なんて厄介極まりないキャラまで登場しやがった。しかし面倒過ぎるので割愛させていただく。

 まあ端的に言えば、殆ど自分でも何言ってるか覚えてない、いや覚えたくないような適当な罵詈雑言で誤魔化して、どうにか離脱に成功した、という具合だ。


 そして俺は今、町を来た方向に戻っている。もちろん、犬の平原に行くわけではない。

 やがて見えてくる犬の平原、その手前、煉瓦の町通りの一番端に存在するぼろい一軒家。何も書かれていない白い暖簾だけが掛けられた、いまいち何をしているところなのかピンと来ない、まるでこだわりのうどん屋さんみたいな風情の店舗。周囲の建物とはどうも趣が微妙に異なる。


 やっと、やっと辿りつけた。この素晴らしき目的地ユートピアに!!


 少しテンションが上がり過ぎたので、心中だけにして、せめてその場で変な挙動を取らないように自重する。

 とりあえず、深呼吸。すぅ、はぁ、すぅ、はぁ。

 精神を落ち着けて店の暖簾を潜る。


「いらっしゃーい」


 明るい女性の声。看板娘なんだろう。黒髪に鉢巻をしてる青い目の可愛らしい店員。どこぞの新婚さんみたいなノリで出迎えられた。あの超長寿番組は司会を三代に渡って受け継ぎ、今もなお放送中だ。

 店内にはカウンターと丸椅子のみ。俺以外に客はいないようだ。良かった。ほっとしつつ、とりあえず丸椅子に座り、メニューをなんとなくめくる。……ほんとにうどん屋だとはな。めくりながら、注文を取りに来るまで待つ。暫くして。

「ご注文お決まりですか?」

 きた。今だ!

「それより、なにか最近『困ったことはない?』」

「はい、私は困ってるんです」

「へー、具体的には?」

「実は」


 打てば響くとはこのこと。会話の繋がりに若干の疑問が残る、まるであらかじめ覚えた台詞みたいな反応速度。いや、実際そうか。『困ったことはない?』これがこの場でのキーワードだ。解答は用意されている。


「最近、近所で地上げが横行していて。地元の仁侠者と縁のある大手の建築屋がここら辺を大型テーマパークにするって言って、売り上げの低い店から順々に土地を買い占めてるんです。合わせてホテル建築の話も出てるみたいで。逆らうと恫喝まがいのことまでするし、みんな怯えちゃって」


 RPGの割に嫌にリアルな問題だな。田舎のシャッター商店街みたいな話になってきたぞ。


「うちは、幸い蓄えもあるし、お客さんもこんな状況でも定期的に通ってくれるから経済的には良いんだけど。ただ、連中の嫌がらせは日増しに激しくなっていくし、店にやってきては土地の権利書を譲れって毎日うるさく騒いで。自警団も向こうの味方だし、私もう不安で不安でしょうがないんです」

 本当に嫌な側面で現実味に溢れてるなぁ。なんか聞いてるだけで憂鬱になってくる。

「お客さんは見たところ、腕利きの魔術師みたいだし」

 初心者装備を防具だけ一新したからな。

「もしよかったら、で良いだけど、ここの用心棒になってくれませんか?、一度追っ払えば奴らも懲りると思うんです。食事とお部屋はこちらが用意しますから」

 可愛らしく小首を傾げて、小柄な体格で不安げに見上げてくる。くりくりとした大きな目を軽く潤ませた姿は男女問わず、守ってあげたい、と何かくるモノがあるな。

「わかりました」

 でもこう言うのはそれに惑わされたからじゃない。


 ピリリーン

{サイドストーリー・サブミッション『用心棒』を受領しました}


 通称SS、グランドストーリーとは一切絡まない、完全に独立した独自のミッション。その最大の特徴は、条件さえ満たせば何度でも受領出来ること、難易度が一律で変化しないこと。


 こうして、俺の傍観生活は遅ればせながらなんとか、スタートを切ることに成功した。

 むしろ、これだけで俺的にはゴール、すなわち大円団グランドフィナーレであった。









































 終われなかったけどね。

ご意見ご感想誤字脱字など、出来ればよろしくお願いします。

次話もなんとか一週間以内で続けれればいいなと夢想してみたりします。

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