大変らしいが俺はレベル上げしてた
えっと、完成度が低いのは自覚済みなので、はい。あとこれからの投稿はかなりゆっくりさんになるかもです。
一応理由は活動報告に明記しました。
ほんとすいません。
信仰者が修道士になるための条件は至極単純なものだ。信仰者は神の信仰者、その名前通り聖職者系の職業で祈祷術が使える。回復とか浄化とか。それらを戦闘中に味方に使うことで彼ら彼女らは経験値を得る。けれど、修道士転職条件はそれらを一切使わずに、直接モンスターを倒すことでレベルを10まで上げることだ。完全なソロプレイ潰しである。
この世界にはシステム上不可視の数値が存在する。MPと各種パラメーターだ。MPはスキルを使用するためのポイントで、一定の熟練度のスキルを何回使えるかで相対的に判断することが出来る。尽きかけると画面の右端にメッセージが出るし。
各種パラメーターはこのアバターの性能を表すものだ。初期値は現実世界に準拠するらしい。今のところ、実際に行動してみる以外に具体的な数値を知る手段はない。例えば筋力値なら重たいものを、素早さなら軽装で徒競走なんかをすれば、大体は推し量ることが出来るだろう。
現実と同じだけの筋力値を持つなら、そこまで重いものじゃなければ、武器などを装備することは出来る。けれどそれでモンスターを倒せるかは別問題だ。戦士などの前衛職は、武器系のセンスを一つ、最初のキャラメイク時に設定できるし、他の武器もある程度練習すればセンスを得ることが出来る。センスがあればシステムの補正を受けられて、その武器を上手く扱うことが出来るし、スキルだって使える。しかし信仰者や魔術師のような後衛職は武器系のセンスをもともと得れない。さらに、これはVRMMOだ。現代の日本で普通に育った人が生身で、突然武器を持ってシステムの補正も受けれない状態でモンスターを倒す。それも複数体、荒唐無稽にもほどがある。
「だってのに、最初から狙っていくやつがいるとはな」
「別にいいだろう」
先ほどの場所から徒歩五分ほどの<犬の平原>。町を囲む煉瓦の城壁、中央門を出ればすぐだ。その手前で俺の言葉に憮然とした様子で答えるミズキ。
「そう言えばどうやって修道士の転職条件を知ったんだ? 運営にでも聞いたのか?」
「ああ、君は運営側だったな。違うよ、私はクローズβ版のトッププレイヤーだった<攻略神>さんのサイトを見たんだよ」
「ふ~ん」
<攻略神>って誰だ? とは聞かない。恐らく有名なんだろう。それよりもこいつ運営側じゃないのか。ただ緑のメッセージカードが本社宛だって知ってただけみたいだな。
「んでもさ、こんな事態になったら普通は変えない?」
「こんな事態だからさ。確固たる力が欲しい」
腰から青銅の剣を抜き放ち、剣身を見つめる。
「まあ、修道士系は派生も協力だからな」
修道士とその派生職は、祈祷術と武器、さらに二つを合わせた独自のセンスとスキルを扱うことが出来る。
「加えて私はリアルで剣を嗜んでもいるからね」
そして調子を確かめるようにブンッと剣を鋭く横に一振り。一点のぶれも無い真一文字。その細腕のどこにそんな腕力を持っているのかと目を見張る。なるほど、口だけではないようだ。しかし、なんでこいつ態度が男みたいなんだ。まあ、そのおかげでコミュニケーション能力が普通な俺でもこんな美人相手にここまで気安く話せるんだけどさ。
<犬の平原>
適正レベルは5~10だ。けれどプレイヤーが最初に挑むフィールドだけあって、ここのモンスターの動きは鈍いし、防御力も低い。しかもフィールド入口付近では特に弱いものしか存在しない。加減を弁えて戦う分には、適正レベル以下でもなんの問題も無い。
標的を見つけた俺は、草原に蠢く五十センチぐらいのデカい蟻、頭上に浮かぶ名前は<ノーマルアント>に向けて杖を構える。横にはレベル5の文字もある。距離は三メートルほど。ギリギリで俺の魔術スキルの有効範囲だ。ノーマルアントはノンアクティブモンスター──つまり自分から襲ってこないタイプのモンスターなので、攻撃されるまでプレイヤーには気づかない。
魔術系スキルの発動にはMP以外に三つの要素がいる。一つ目は触媒(杖などの魔法器具系)、二つ目はそれぞれ固有の魔方陣、三つ目は使用する魔術の名称。杖を対象に向け、魔方陣を正確に頭に思い浮かべる、出来るだけ小さくまとめるイメージ。ショックの場合、一番最初に覚えるだけあって、その構成はシンプルなものだ。すると杖の先に30センチほどの魔方陣が展開するので、魔術名を唱える。
「『ショック』」
一言。魔方陣から弱い衝撃波が放たれ、ノーマルアントを打つ。ノーマルアントが少し姿勢を崩し、頭上に設定されたHPバーが二割ほど減る。
「ギギィ!」
攻撃によって俺を認識したノーマルアントが如何にも昆虫っぽい怒声を上げながら向かってくる。スキル使用後は再使用までタイムラグがあるので再度『ショック』は放てない。カサカサとまるでGの如く近づくノーマルアント。
「チェストぉぉぉぉぉぉッ!」
気合一発。蟻は俺の二メートル手前で、横合いの茂みからとんでもない勢いで飛び出したミズキに、体当たりに近いブロンズソードの一撃を食らって冗談みたいに吹き飛んだ。地面と平行に空を滑空したノーマルアントは反対側の大木に激突し、急速に減るHPバーは一気に残存二割を切った。
え?
設定上アバターの肉体性能はリアルに準拠する。戦士系ではないのでシステムの補助も受けられない。ということは、今アイツは純粋に自分の力のみで先ほどの現象を引き起こしたのだろうか。ありえないだろう。
しばし呆然としたが、ふっと我に返り近寄って素早く魔方陣を展開。HPが四割以上一気に減る稀に起こる硬直の状態異常になっているノーマルアントにとどめを刺した。
ピリリーン!
{レベルアップしました}
お決まりの効果音とアナウンスが響き、目の前に職業レベルが2になった、とウィンドウが開く。見れば向こうも同じことになっているようだ。パーティー登録してあるので、経験値は戦闘での貢献度を基準に分割される。まあ二人ともレベル1だし、当たり前か。さっきのは俺が引き付けて、横合いから強襲、怯んだところへ再度スキルを叩き込む、それを繰り返して倒す、という流れの作戦だった。結果上手くいったからそれはいい。レベルアップするとHPとMPが全快する仕様なので、この調子なら暫くは上手く立ち回れるだろう。ほんとはさっさと離脱したいものだが、この際それもいいとする。
「でもいいとできないのは、お前だよ」
「なんだ?」
首傾げて不思議そうに見返してんじゃねえ!免疫無いから誤魔化されるだろうが!
「なんだ今のは?後衛職の一撃があんな効くわけあるか?普通じゃないぞ。どんな怪力だ」
「運動エネルギーを目一杯乗せて全力で切りつけただけだ。何も特殊なことはしていない。後それを言うなら君だってそうだろう」
「は、何がさ?」
なにを根拠にそんなこと。てかそんな見るな。目を逸らしたくなる。何にも後ろ暗いことなんかないの………。
「普通あんなにスムーズには魔方陣は立ち上がらない。今日が初プレイだったのに、あれほど難解な魔方陣を練習も無しに、しかもあんなにコンパクトになんて普通無理だ」
あったー!そういやありましたねー。てかアレがバレるのは現状においてはヤバいだろう。最悪迫害の対象になるかも。なんとか……。
「それは、その方がMPの消費が少ないって本社から」
誤魔化せないっすよねー。そうっすよねー。
「知ってたとしても、実際に出来るかどうかは話が別だ。君、ただの正義感が強い連絡員じゃないだろう?」
もとより正義感なんてものは微塵もないんですけど。
「…………やめよう。お互いに痛くも無い腹を触りあうのは不毛過ぎる」
「詮索はいいが、今後は自分の現状を鑑みてから行動すべきだな」
勘違いはするくせに、妙に鋭いな。どうもチグハグな感じだ。
それから二、三時間ほど同じ作業を続け一体一体確実に潰していった。レベルが上の相手だけあって経験値はうまみが大きく、あれよあれよという間に、俺たちはともにレベル4になった。与えているダメージ総量は向こうのが上なのに貢献度的に半々ぐらいなのは、与えたダメージ以外に初撃、とどめの二つに特別に補正が入るからのようだ。やっているうちに気が付いた。
「よし、そろそろ良いだろ。終わりにしよう」
俺のスキル熟練度も上がり、ショックは3とそこそこの成長を遂げたし、ミズキもパラメーター的にはここら辺を狩場に出来るレベルまで到達した。もう夕暮れ時だ、日が落ちるとモンスターも活発になるしこれ以上は蛇足だろう。
「む、そうか。では最後にあれを狩ってみないか?」
同意を示すも少し名残惜しそうなミヅキが、視界の右端に映るモンスターを指さす。
「コボルトか」
犬の平原、その名の由来となるこのフィールドの主流モンスター。体格は痩せ形で1メートル半ぐらい、犬の頭に人の体を持つ毛むくじゃらな野人。さっきのノーマルアントよりは強く、やはり防御は弱いが素早さとパワーにかけては段違いだ。アクティブモンスター、自ら敵を求めて動き回るモンスターで、あと少しでこちらが向こうの索敵範囲に踏み込むというところ。
「や」
「るんだな!よし!」
めとこう、音にする前に曲解されたのは初めてだ。
「おま!?、話聞け!」
「いざ!」
勝手に見切り発車した暴走特急は、あっさり索敵範囲に突入。勢いそのまま人型モンスターのクリティカルゾーンにあたる、喉元に一撃を加える。激昂して突き出される腕を掻い潜り、カウンター気味にもう一度、喉元を一突。
「はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
狂気じみた叫び。HPバーが半分を切り、仰け反り効果で身体が泳いだところへ更に一突、二突、三突。ダメージエフェクトが派手に舞い上がり、ほんとにシステムアシストを受けてないのか疑問に思うほどの凄まじい連撃に、コボルトは儚く散った。
「非常識にもほどがあんだろ……」
呆気にとられて呟く。
ピリリーン
{レベルアップしました}
無論ミズキがだ。俺は何もしていないし、何かする前に敵は死んだ。
「よし!」
ウィンドウを開き、自分のHPを確かめたり、剣を振って身体の調子を確かめたり。小さくガッツポーズをして喜ぶ姿からは、先ほどまでの狂気じみたものがかけらも見て取れない。
まあいいよ。うん。百歩譲ってここまでは良しとしよう。不本意な強制労働だったけど、結果的にはそこまで消耗することも無かったし、積極的に上げるつもりはなかったけど一応レベルも上がったし。だからそれは別にいいんだ。もう割り切る。
でもさ、これは無理だよ。受け入れられないよ。
なんで俺たち、ボスと遭遇してんだよド畜生ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!
コボルトを倒してすぐ、そいつは現れた。青い毛を全身に生やし、二メートルを超える巨躯の人型。ただし、頭は犬頭。
モンスター名、絶叫するブルーコボルト。
二つ名持ちのお出ましだった。
アイデアは頑張って出したつもりなんですが、ちょっとした知り合いの畜生外道のせいでとんでもない事態になってしまいました。
まあ、パソコンつけっぱだった私が悪いのですが。
ご迷惑おかけします。




