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ログアウト不能らしいが俺は自宅警備員してた  作者: 並立裏子
プロローグないしはエピローグ
1/6

発生らしいが俺は遭遇してた

勢いで始めました。走り出しました。

どうぞ。

{このゲームはログアウト出来ません。現実への帰還を果たしたいのなら大いなる道に挑みなさい。さすれば望みは叶えられるでしょう。なお、この世界での時間は現実の一秒につき五年ですから。外部からの救助は期待しないほうがいいでしょうね。


それと気になるでしょうから付け足しておきます。


五感や三大欲求は出来得る限り再現しています。


デスペナルティはレベルとステータスが半分になることと、それに伴う強烈な痛みとなります。


ではグランドストーリー・メインミッション『世界からの脱出』『三大悲願』スタートです







現実リアルを覚えているうちにクリアできればいいですね}




 VRMMO。『ワイワイオンライン』


 このダサすぎる名前のゲームはかつて大ヒットしたVRMMORPG最初期の名作、『ブイブイオンライン』を制作したAW社のスタッフが贈るよりリアル、もっとリアルを標語とした発売前の最新RPGだ。

 そのオープンβ版のテストプレイヤーの募集が一般から行われることになった。


 名前は昔から残念だが、ゲーム内容自体は神ゲーを連発させることで有名なAW社。その最新作ということでオープンβ版テストプレイヤーの応募総数は五百万を突破したらしい。もともとの定数は九千五百しかないから、抽選は本当に大変だったそうだ。


 なぜ九千五百という中途半端な数なのかというと、残りの五百をトラブルシューター兼現地GMとして社内やその身内からバイト代を出して雇うからなんだ。


 俺はその五百人のうちの一人。開発スタッフの一人である叔母の伝手で連絡員として参加しているのだが。


「どうなってんだよ!」


「運営ふざけてんのか!」


「え、うそ……だよね?」


「あり得ねー、なにマジにしてんだよぉ」


「うわー、さすがにこのドッキリはヒクワー」


「チョー展開キマシタワー」


「中二臭いイベントだなーおい」



 この卒業を迎える大学生活最後の年の夏休み、就活という辛すぎる現実から逃避するためにちょっとしたバイトでもしようかと、頼んで入れてもらったのに、いきなりこの事態。勘弁してよほんと。



 始まりの町<パイシス>石畳の道がきちんと舗装された、文化的には西洋の中世的な町。

 ログインするとまず初めに自分のアバターの製作。アバター製作専用の青髪美幼女NPCとの楽しいひと時が終わったものから、町の中心にある広場に集められ、全員集まったところで町長NPC(髭の生えたナイスミドル)による口頭でのシステム説明と簡単なチュートリアルが始まる。事前に聞いていた通りなら、そうなるはずだった。なのに、何故か何時まで経っても説明が始まらず、広場の上空に突然白いローブの女性NPCが――なんでNPCとわかるかと言うとNPCは顔の見えるところに特殊な文様の刺青を入れているからだ――現れて代わりにシステム説明とチュートリアルを始め出し、挙句の果てには


{このゲームはログアウト出来ません}


なんて言い出しやがった。しかも外部からの救助は無理だと。なんてテンプレだよ!

 最後に意味深な言葉を残して、また突如消え去る女性NPC。それと同時に俺は目の前にウィンドウを展開。こんな恥ずかしいぐらいのテンプレ事件に巻き込まれてたまるかボケが!

 クソッ!ほんとにログアウトが無い!



 AW社に連絡員用の特殊アイテム、本社宛メッセージカードのアイコンをタッチ。アイテムイベントリから取り出した緑色の封筒、本社宛メッセージカードを起動。目の前にキーボードが浮かび上がる。素早く現状を事細かに打ち込み、送信をタッチ。送信中の文字が空中に浮かび上がり、そのまま固まった。送信の進行度を表すパーセンテージも0で固定されている。どれほど待っても送信されない。いや、されているのか?

 いや、されているけど届かないってことか。そういや本社の説明者が、このアイテムはメインシステムを通して連絡を入れる仕組みで、そのメインシステムの都合上伝わるのは一分のタイムラグがあるって言ってたような。



 だとして、これにも一秒五年のアホ設定が適用されてるなら一分は六十秒だから向こうに事態が伝わるまでざっと三百年。連絡がすべてのテストプレイヤーの家に行き届くまでも考えると、一万年ぐらいかかるってことか?


 …………………………やってられるか。


 でもどうする。さっきのNPCが言っていた“大いなる道”ってのはほぼ確実にグランドストーリーのメインミッションのことだよな。



 このゲームには一応、三つの目的みたいに呼ばれるものが設定されてある。難易度が高く、さまざまな条件を満たして初めて達せられる目標。全魔王の討伐。全ビッグダンジョンの攻略。全世界の詳細な地図の製作。

 一つ目の全魔王の討伐とは、世界各地に住まい自由に行動する魔王の名を持つユニークモンスターを全て倒すこと。

 二つ目の全ビッグダンジョンの攻略とは、通常のダンジョンとは段違いで広大なビッグダンジョン全てに潜入してダンジョンボスを撃破、ダンジョンの核を回収してダンジョンを崩壊させること。

 三つ目は全てのフィールドを探索してフィールドボスを倒したり、全ての町を発見して未発見の全ての町に存在する門番モンスターを倒したりなんかして、その場所をマップに登録、世界地図を完成させること。

 この三つをゲームではグランドストーリー・メインミッションとして、纏めて『三大悲願』と呼んでいる。

 これを全部クリアしろってことなんだよな。


 ……………………………………もっとやってられるか。


 俺は現実逃避も兼ねて軽い遊び程度でこの世界に来たんだ。なのに人生かけた攻略するとか、マジ無理。絶対に嫌だ。他に任せて俺は傍観者になろう。最悪、一万年ぐらいここで過ごそう。どうせ忘れる家族もいないし、数時間程度ゲームやったって誰かに迷惑かけるような身分でもない訳だし。


 気づくと、広場は騒がしく混乱の極みだった。意味の分からない雄叫びを上げるやつ、ひたすら喚くやつ、泣くやつ、笑うやつ、怒るやつ。静かなやつらもほとんどは呆然自失状態。


 冷静に周囲を観察したりしてるやつらはごく僅かだ。あちこちで上がる落ち着いて下さい、という声は俺と同じ連絡員たちだろう。真面目なことだ。業務内容はあくまで問題を本社へ連絡することで、それ以外の問題の解決や補助、ましてやこんな異常事態への対処は含まれていないのに。


 俺は混沌の坩堝と化した広場に背を向け、町中へ歩き出した。


 まずは装備だ。


 ゲーム開始時に軍資金として与えられる1000マクス――この世界の通貨――で全身の初心者防具を一新せねば。


 無責任だとは思わない。三百年後に俺はしっかりと仕事を果たすことになるんだから。こんな不測の事態でただのバイトに負える責任なんかこれっぽっちだ。


 それにテンプレ通りならこの手のゲームに強いプレイヤーが頭角を現していそいそと攻略に勤しむことだろう。俺は悠々自適なパンピーニートに属させてもらうとしよう。気が向いたら、たまにガヤぐらいならやってやるから。



 武器の店と防具の店は大体隣り合ってるよな。広場からほど近い脇道、目の前には木造の如何にもそれらしい見た目の、一軒家の小奇麗な店舗が二つ並ぶ。向かって右には盾の看板、左には剣の看板がかかっている。まあ、右だよな。


「いらっしゃい。リキド武器商パイシス支店へようこそ」


「失礼しました~」


 ドアを開けてみると何故か武器屋だった。なんでだ、混乱を抱えながら物は試しとばかりに今度は左隣の店舗に入る。


「いらっしゃいませ。トニア防具商パイシス支店へようこそ」


 どうやらこっちであっているみたいだ、恐らくシステム上の不具合だな。仕方がないか。こんなことになったとは言えこのゲームは本来設計途中、まだβ版なんだもんな。一応後でメッセージカード出しとこう。


 ドアを開けると受付の上半身裸で下は革のズボン、筋骨隆々とした白いホッケーマスクを被った男性が、見た目にはそぐわないさわやかボイスで迎えてくれた。


 十三日の金曜日には絶対に会いたくない、子供が無くレベルのショッキングすぎる外見だ。これは不具合なんだろうか、それとも仕様なんだろうか。判断に困るところだ。

 所狭しと並んだ防具たち、そんなイメージを持って入店したら意外と店内は小奇麗で閑散としていて、特に目を引くものは何もない。奥にカウンターがあり、受付にジェイソン君が立っているだけ。何故か若干前傾姿勢で。

 正直、精神的にも物理的にも絶対にお近づきになりたくないタイプだが、装備の交換、ひいては俺のこのゲームにおける華麗な傍観ニート生活を営むためだ。致し方が無い。



 のろのろと警戒しながら近寄り、小声で話しかける。

「あの、防具欲しいんですけど」

「はい、ではそちらのカタログをお取りください」

 はきはきとした口調で返すジェイs…………色々面倒臭いので諸々含めてジェン君と呼ぼう。しかしほんとに見た目と声や態度がそぐわないな。言われた通りにカウンターの端に置かれたカタログを手に取る。革張りの薄い本のようだ。

「お好きなものを選択してお申し付けください。また、ご試着なども出来ますので自由にお申し付けください。なお、お売りした防具の返品は承っておりませんのであらかじめご了承頂きたく存じます」

 そう言って軽く会釈をする。丁寧な物腰は一流の執事バトラーのような優雅さの溢れる立ち振る舞いだ。ある種の気品すら漂っている。ジェン君、君は一体何者なんだ?

 ………………………深く掘り下げても面倒事しか起こらなそうなので、今はスルーしとこう。



 そのページを見るとただの数値ではなく装備の立体的なイメージ映像が飛び出て来るという、意外とハイテクなカタログの中から、もっとも安い革の靴、革のズボン、革のローブの全身革の装備シリーズを注文する。それぞれ、100マクス、300マクス、500マクスの占めて900マクス。ローブ、当たり前だが俺の職業ジョブ魔術師マジシャンだ。プレイヤーアバターの成長システムとして『ワイワイオンライ』はセンス熟練度制と職業ジョブ制の二つを取り入れている。

「本当にそれでよろしいのですか?」

 うん、誤発注を減らすための確認作業なんだろうけどね? 君に言われるとマジで鳥肌ものだよ、ジェン君。



「大丈夫だからちゃっちゃと出してくれ」

「分かりました」

 そう言うと一つ頷き、左手をカウンターの上に突き出すジェン君。よく見れば、その薬指には複雑な文様が刻み込まれた指輪が。まさかの既婚者かよ!?

 俺が唖然としていると、ジェン君の左手のかざされた場に1メートルほどの紺色の魔方陣が展開。

召喚サモン・革の防具・魔術師マジシャン用一式」

 声と共に淡く光る魔方陣の中心から、丈夫そうに作られた革の靴、革のズボン、革のローブが出現する。効果を終えると同時に魔方陣も薄れ消え去った。

 今のは召喚術サモン? なんとジェン君、魔法を使いやがったよ。しかも召喚獣じゃなくてアイテム装備品の方。これって確か召喚術師サモナーの中でも相当高位じゃないと出来ないんじゃなかったっけ? ジェン君、君は本当に何者なの?

 ジェン君がまたャラに似合わないことをしたのは、深く掘り下げると間違いなく面倒事が起こるんだろうと確信したからもうまったく完全にスルーする方向として。

「合計が900マクスとなります。そちらの読み込み板にプレイヤーカードをお当てください」

 カウンター右端の幾何学模様が彫り込まれた、機械的な装置が一つ置かれている。それに近づき右手を見て

「オープン」

キーワードの詠唱により手の中に何事か色々書いてある金属のプレートが出現する。それを読み込み板にかざすと、ピッ!

「お買い上げありがとうございました」

 お財布携帯風というか完全にお財布携帯だよな。世界観台無し。これもメッセージカードで出しとくか。45度ピッタリの惚れ惚れするぐらい綺麗なお辞儀をするジェイ君を背に俺は店を後にした。本当は杖も、初心者用も枯れ枝の杖から一つランクが上の老木の杖に変えたかったのだが、残る100マクスではとても手が届かない。



 プレイヤーカード。簡単に言えばこちらの世界での身分証明書兼財布だ。名前と職業ジョブとレベルが一番上に書かれており、その下に取得しているセンスと熟練度が、更に下にそのセンスに対応したスキルやマジックと熟練度、最後に所持金等が書かれている。俺の場合なら。


名前・コウ 職業ジョブ魔術師マジシャン レベル1


センス

杖1

魔術1

無属性(物理)1


スキル

魔術・無属性《ショック1》


所持金 100マクス


 とこうなる。

 個人情報面について。名前は、まあまんま名前だ。アバターに付けられたこの世界での名称。次に職業とは、そいつが基本的に出来ることを表すものだ。俺の場合なら魔術師マジシャンで、文字通り魔術が使える者の事を言う。因みに物理は、全ての魔術師が最初に習得する基本属性だ。戦士ファイターなら武器が扱えるし、平時とは異なる強力な技、スキルと呼ばれるものも使える。信仰者ビリーヴァーなら祈祷術で傷を癒したり、呪いを解呪したり出来る。因みにこの三つを初期職と呼び、最初のアバター製作時にどれか一つを選び設定する。後々に転職条件を満たすと、他の職業に転職出来たりもする。

 それで残りのセンスとはその出来ることを細かく才能ごとに分けたり、他にもこんなことも出来るんだという補足を入れたりするものだ。スキルとは先ほど説明した通り、システムアシストを受けた強力な技である。ただし強力であるため使用には、システム上は閲覧不可能なMPという特殊なゲージを消費することになる。



 センスやスキルの隣に書かれた数字は熟練度だな。熟練度とはセンスの場合、上がれば上がるほどシステムの補正が強くなり、そのセンスに関系する行動にボーナスが付くようになる。スキルの場合には消費MPが少なくなったり、効果が高くなったりする。最高で確か10になるはずだ。それと魔術は属性を一つも持っていないと発動できないから、それのみに対応するスキルはない。同じ理屈で杖もまた然りだ。

 纏めると、杖を用いたスキルを使う度に杖センスの熟練度が上がる、よって杖を用いたスキルの効果が上がり消費MPが少なくなる。同じく、魔術スキルを使うたびに魔術センスの熟練度が上がる、よって魔術スキルの効果が上がり消費MPが少なくなる。属性はその属性のスキルを使うたびに熟練度が上がる、よってその属性のスキルの効果が上がり消費MPが少なくなる。スキル自体もまた使い続ければ熟練度が上がる、よって効果が上がり消費MPが少なくなる。更に補足すればレベルの高い存在にスキルを使うほど熟練度は上がりやすい。



 財布として使う場合は、支払いや受取の時は現金は直接扱わず、このカードを通して扱うことになる。個人同士の受取の場合は一部の例外を除き、両者が合意したら自動で加算、減額され、このような売買など商業に絡む時は読み込み板と呼ばれる何ともメカニカルな装置を使うことになる。フィールドやダンジョンでマクスを現金の状態、鈍銀色のコインとして見つけた場合はこれらと異なり、手に入れたいと心で念じながらそれにプレートをかざすと回収される。



 町を探索する中、プレイヤーのほとんどはまだ広場にいるのか、見かける数は少ない。NPCの方がまだ多いだろう。別にもう目的もなくただ歩き回っているわけではない。

 プレイヤーはこの始まりの町<パイシス>の詳細な地図が配布されている。そして俺は本社でバイト料の減額を条件に町のお勧めポイントやちょっとした隠れ家ポイントを教えて貰っている。それはほんとに些細なものだが、現状においてはかなり役立つものがあったのをいくつか思い出したんだ。

 今向かっているのもその一つ。



 決して走ったり慌てたりしないで、無駄に注目を集めない落ち着いた足取りで向かう。やがて町はずれにたどり着く。このまま真っ直ぐ行けば<パイシス>を抜け、一番最初にプレイヤーが挑むことになるフィールド<犬の平原>に入る。その手前にアレがある。よし、見つけた。

「おーい、君」

 ん、俺…………だよな? うそ、声かけられた? NPCか?

「はい?」

 振り向き応じると、息のかかりそうなほど至近距離に女性の綺麗な顔。

「―!?」

 慌てて後ずさる。とりあえずその顔に刺青は無かった。プレイヤーだ。

「あ、すまない。驚かせたかな」

 すまなそうに謝る女性プレイヤー。その見た目でまず目に付くのは装備。革のローブに革の靴、革のズボン、腰には初期配給の木の練習剣じゃなく店売りのブロンズソードがつってある。全身初心者装備が一つも無い。どうやら自分以外にも装備を整えた人物が居たようだ。え、でも待って。革のローブ?、剣?



「君、運営側の人間、だよな?」

 え、もしかして俺の事知ってる運営側の人か? バイトの顔まで完全に把握してるとなると、相当お偉いさんってことになるけど、とてもそうは見えない。綺麗に整った顔立ち、きりりと澄んだ青い目、白い長髪を後ろで結んでいるポニーテール、百七十の俺より少し高いぐらいの高身長、活発そうな雰囲気。ワイワイオンラインでは、システムがまだ未換装で見た目は髪、目、肌の色を変えるぐらいしか出来ない。これが彼女のリアルな姿ということになる。キャリアウーマンということはないだろう。バイトリーダーとか?

「そうだよな?」

「………そうだけど」

 なんでこいつは初っ端からタメ語なんだろうか。ちょっとは年上の可能性を考慮しないんだろうか。

「やっぱり。広場で緑のメッセージカードを使うのを見てたから、そうだとは思ってたけど。なあ君、どうして他の人たちみたいに周りに声もかけないでこんなところに来たんだい? 装備まで整えて」

「え、とその」

 まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!?

 どうする。どう誤魔化す。どうやらこいつは“あの条件”もクリアしているようだし。ここであの場所を知られるのはヤバい。今のうちにあの場所を独占できないと、今後の安全かつ優雅なニート生活に多大な影響をもたらす。どうする、アイ〇ル!?

「いい、答えなくて。私は君が度してここに来たか、大体もう見当はついている」

 んなッ!? 俺以外にも教えてたのかよあのバカ!

 焦る俺にドヤ顔の女性プレイヤーはゆっくり告げた。



「レベルを上げに来た、そうだろう?」

 ………………………は?

 なんだそれ。全く持って考えていなかったのだが。装備を整えたのは、ある条件を満たすためだし。いや、でもここから<犬の平原>フィールドは近いし、傍から見たらそう見えるものか。てかそうとしか見えないか!?

「なあ、そうなんだろう。だったら私も連れていってくれないか」

 勘違い女性プレイヤーはさながら暴走列車の如く止まらない。積んでる荷は俺へのあらゆる美辞麗句だ。「強すぎる正義感から真っ先にレベル上げを……」とか「孤独への道を進もうとする君はまさに……」とか「そのような心の強い何事にも動じない君に同行したい……」とか。あれよあれよ、息継ぎは何時してるんだよなマシンガントーク。

 明らかに普通じゃない。付き合ってるだけでこっちの気力が奪われそうだ。もういい、もう。

「……………分かった。行こう」

 幸いこの女性プレイヤーはあの場所について何も知らないみたいだし、ここは乗っかって誤魔化すべきだろう。否定しても目の前のプレイヤーが納得できる言い訳を繕える自信無いし。

「なあ、その装備、魔術師マジシャン?」

 ローブを着てるのに、剣を持つアンバランスな彼女を見ながら言う。

「いや、信仰者ビリーヴァーだよ」

 事も無げに言い放つ。

「よりにもよってこの非常時に修道士モンク志望か~」

 重ねて頭が痛い。



「名前をまだ言ってなかったな」

「ん、ああ。そうだったな」

「私はミズキと言う」

「俺はコウだ」

「宜しくな」

「ああ、こちらこそ?」

「なんで疑問形なんだ?」

 これが後に『聖・切り裂き魔』と呼ばれる馬鹿と俺の出会いでした。

ご意見ご感想誤字脱字など宜しくお願いします。

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