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外伝・あくまでケダモノの王 4




 ゼルド=レクス=マテリアルブレイドは親兄弟から親戚のことごとくに至るまでリグムに殺されている。ガルドメイスとチェインジュディスは公式に戦争を行ってはいない。

ガルドメイスの実態はひどく不安定なもので、派閥ごとの意見の対立と権力争いを繰り返していた。ゼルドの属する群れは最も過激な一派だった。

 ゼルドの一族はルーフェイスというガルドメイス建国に関わった偉大な先祖を持つ。国政に深く関わり、教えを拡大解釈し、ガルドメイスを排他的な国にしてきた。そしてそれは間違った方向ではなかった。人間を受け入れれば、今よりももっと混沌とした情勢が続いていただろう。こと政治的な面に於いては、長いあいだ淘汰されてきたドグルやキャルトよりも人間たちのほうが優れていた。彼らを受け入れれば、ガルドメイスはいまより進んだ国になっていたかもしれない。一方で実権は人間たちが握ることになっただろう。しかしそれは内部から疎まれる要因にもなった。

 ガンドラの戦役に乗じて奇襲をかけたのはガルドメイスのほうだった。精鋭を揃えた暗殺部隊を送り込み、大平原での戦乱に乗じて手薄になった地方の都市を攻撃した。メンバーはゼルド達の群れが選ばれた。それは奇襲と銘打たれた呈のいい生贄だったことを彼は知らない。

 幾つかの都市で暗躍し、幾人かの要人を葬ったあと、ある都市の守りについていたリグムにぶつかった。リグムは強かった。そしてゼルドの側にはリグムの情報がほとんどなく、リグムの側はゼルドの情報をたっぷりと握っていた。加えて毒属性は鉄属性に対して極端に強い。一族揃って鉄属性の強者だったゼルドたちは成す術なく敗れた。

 そしていま。

 血を流しながらリグムが逃げ回る。

 毒属性の強酸を不動態が貫通していく。ガスは脆い金属が反応して無害な物質へと変わる。水の刃も爆炎も、理論強度の鋼に遮られる。『紅蓮の長槍』ならば貫通できるが、一度見せてしまえば作り出すまでの隙は与えられなかった。

「参ったな……。手も足も出ないや。君、ちょっと強すぎないかい?」

 風属性を駆使してなんとか逃げてはいるが、体中の無数の傷を負っている。致命傷を避けているのが不思議なくらいだった。ゼルドは無慈悲に刃を飛ばす。ああ、避けられないなと思い、ありったけの魔力でなにかをしようとした。間に合わないことはわかっていた。

 だから間に合ったことに驚いた。

 赤い飛沫が視界を覆い尽くすが、それはリグムの血ではなかった。猿に似た生き物が背中を裂かれ、リグムに寄りかかるようにして絶命していた。刃が深く食い込んでいるが貫通はしていない。筋肉と硬い毛皮で止まっていた。ゼルドが気にせず刃を放つ。

「……そうか。虹色の発動光というのはそういうことか」

 リグムが両手を合わせた。多数の属性を複合させるときにリグムはこの動作をする。例えば毒属性で酸素濃度を調節し、火属性で爆炎を起こす。このときリグムは五つの属性を並列して発動させていた。

 生物属性で肉体を形成する。四足獣が好ましいだろう。ゼルドの刃は速いので、対抗できる程度のスピードが欲しい。大きいほうがいい。少しくらい切られた程度ではびくともしないからだ。

 鉄属性で外骨格を形成する。いかに速く、巨大でも簡単に急所を切り裂かれては意味がない。理論強度とはいかないが、リグムも精錬には自信がある。少しくらいの助けにはなるはずだ。

 水属性と毒属性を混合して血液を作る。続いて髄液、脳漿、各酵素を流し込む。

 最後に火属性を使った。

虹色の発動光が終わり、多少強引に体温をいれられて鎧を纏った四足獣が目を開ける。十メートルを超える巨体を無数の刃が掠めていく。ガリガリと鎧が削られる。幾つかの刃は深く食い込んだが、やがて回転を止めて沈黙した。

巨体がゼルドに向かって突進する。大きすぎて回避できず、ギゴジルトが対応。似たようなサイズの巨剣を叩きつけて地面に縫い止める。あまりの重量に地面が揺るぐ。鎧が砕かれ、足元が膨大な量の血液で染まる。

 赤い発動光が覗き、ゼルドが死体のあいだで身を屈める。「カーゴグウン」が二重発動。酸素濃度の調節のあと、爆炎と爆風が発生し死骸ごとゼルドを吹き飛ばした。

 距離さえとれれば、広範囲を攻撃できる大魔術を得意とするリグムの独壇場だ。さきほど使ったものの軽く数十倍はある『紅蓮の長槍』を展開する。

 最大級の火炎魔法は、まるで小型の太陽のようだった。周囲のすべてが乾き、燃えていく。余裕があったので風属性を並列で使い、自分に熱を届かせないこともできていた。

 こと遠距離戦において、リグム=フェン=ナイトロールに敵う魔術師など一人として存在しないだろう。

 リグムはしばらく煙が晴れていくのを見ていた。ゼルドの姿はなかった。勝てないとみるや、逃げにまわったのだろう。紅蓮はリグム自身の視覚を塞いでしまった。

 リグムはゼルドのそういう部分が一番恐かった。一族のための復讐を謳いながら、不利とみるや即座に逃げを選ぶことはできる。生き残ることを優先した戦い方だった。どこかアイバを重ねる。きっと大陸最強と呼ばれる魔術師の中で、最も長く生き延びるのは彼だろうと思う。

 もう少し様子をみたあと、リグムは『紅蓮の長槍』の発動を解いて尻餅をついた。視界が揺れていた。血が足りないのだ。

生物系で作った皮膚で傷口を塞ぐ。血液を作り、貧血を治すと視界が徐々に正常に戻ってきた。代わりに猛烈な吐き気を覚えて、リグムは嘔吐した。胃液しか出なかった。

 それからもう一度、召喚魔法を試してみる。

 幾つかの属性を重ねて、生き物を作り出す。

 異界の生き物のように異様な姿をしたモノが生まれた。

「五つ以上の属性を混合させるから虹色に見えただけなのか。あいつ本人にも原理がわかってなかったから、召喚なんて呼んでたんだろうなぁ」

 リグムは溜め息をついた。

 いまのこの肉体はカイセルのそれをベースにしたものだ。だからカイセルに近い魔術が使える。最初から自分にこれほどの才能があれば、また違った選択がとれていたかもしれなかった。





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