悲鳴と共鳴と汚れた魔剣 14
初めてあいつの表情が変わり、全身の筋肉を使って無理矢理に逃げる。集中が切れたせいか光る剣が消失。周囲にあった剣が刺さりまくった木が、すべて真横にずれていく。
「ちっ、外したか」
『首落としの鎌』というのはどうやら透明な刃らしい。
恐ろしく長い、鋭利で視界に映らない刃。なるほど厄介だ。気づいたら死んでるなんてことが普通にありえるわけだ。命中してからかわす、なんて真似がルピルルッル以外にできるとは思わない。
「うお……、自分の血なんか見たの何百年振りだっけ」
傷口に触れた手をみながらルピルが言う。
俺は接近しつつ『竜臥断鱗巻』を二重発動しソードフィールドを展開する。手を緩めたらヨゼフのようになる。
短剣の渦が加速。「おいおい、いまさらちゃちな手品なんかいらねーよ」しらけた表情でルピルが言う。「ほざけ!」ルピルの死角から圧縮空気で加速した短剣が襲いかかる。命中の直前でルピルが精製した剣が短剣を迎撃。複数箇所に同時に短剣を放つが、すべて命中の直前で剣が出現して砕ける。
俺は『気訃瑠嶺流』に術式を切り替える。竜巻が消失し、ダウンバーストに変わる瞬間にルピルが地面を蹴った。金属片の爆発を背に受けて加速し、効果範囲から離脱。突っ込んでくる。
カサナカラは多数の手札を状況に応じて使いこなす引き出しの多い強さだった。
こいつは真逆で身体能力と刃だけで戦う、肉弾戦のみで最強を誇っている。
鎖が伸び、ルピルの行く手を阻む。ルピルは鎖の軌道に対して真横から剣をぶちあてて鎖を弾く。回転する刃は正面からの衝突には滅法強いが横から弾かれればまったく耐性がない。ぱきんとなにかが折れる音。『首落としの鎌』も迎撃されたらしい。俺も短剣を飛ばして攻撃するが、安々と回避される。
「頼りにならない助っ人だな! 頼んでないが」
「面目ねーわ……」
俺はゼルドの近くまで後退する。一人分の攻撃力だと手数に押されてボコられるのがオチだった。しかしどうやって倒すんだよ、こいつ。
つーかククロレノどこいった?
あいつほど不意打ちに長けた能力もほかにないだろうに。……恐いから関わりたくないなり。というあいつの声が透けて聞こえてきた。
「なあ、おまえ。俺を『速離源力』であいつの近くに飛ばせるか?」
「できなくはないと思うが」
大量の剣に押されて串刺しにならないか?
「おまえは接近戦で勝てなかったが、オレなら勝てる」
「言ってくれるじゃねーか」
ゼルドがチェーンソーを小さく、自分の周りに収束。「舌噛まないように気をつけろ!」ルピルの打ち出した剣の群れに、俺は圧縮空気の噴射で逃げる。同時にゼルドを斜め上に向けて噴射する。チェーンソーが剣を砕きながらルピルに伸びていく。ルピルはほかとあきらかに形状の違う剣を手の中に精製。俺が『切棘鍼渦断 (キカロレン)』を振るい、横薙の真空刃を生み出す。舌打ちを一つしたルピルが切っ先をこちらに向けると、真空刃が切れた。俺のサポートにゼルドが微笑したのが遠目に見えた。
鈍色の発動光が一瞬浮かび、透明な不可視の刃が複数展開する。
ルピルの剣がすべて切れた。魔力の核を失った剣が消失。だが首落としの鎌も折れて消える。どうやらあれが見えないのは薄すぎて光を透過するかららしい。人間の目は反射された光を見ているので、光を反射しない物体は見えないのだ。
「ゥゥルウアアアアゥ!」
狼の吼え声が響く。ゼルドの体を生物属性の桃色の発動光が覆う。光の中から現れたのは狼に似た四足獣だった。自身の肉体構造を丸事変化させる『変獣咧化 (ヘクテリカ)』の術式だ。人間の獣化士はこれと他属性の術式を並列発動はできないが、ドグル族であるゼルドは刃を展開したままだ。