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空の玉座と召喚士の悲鳴 4



「アイバ、気づいてるか」

「ああ、あれだけ仲間を殺されたのにまったく躊躇なく進撃してくる。普通の魔物にはちょっとありえないことだな」

「それどころか、お前が潰した仲間を平然と踏みつけてくる。群れる魔物は仲間意識が強いことが多いが、それもない。なんだろうな……」

「なにか作戦に変更は?」

 ロットウェルが後ろから言う。

「ないな。いくら数が多くても僕たちが遅れを取る要素がない。疲労した者は下がれ。以上だ」

「了解」

 数人が言う。他の数人は術式を紡ぎ始めていた。

「俺も前衛で参加するよ」

「わかった。じゃあ、最初は僕が仕掛けるよ。そのあとに続いてくれ」

 リグムは自分の胸の前で両手を合わせた。『火儘獄沁炎』だが可燃性の魔力を作り出すことで油なしで発火させている。加えて酸素密度のコントロールも本来毒属性の魔術師であるリグムの得意とするところだ。

 ぐん、と前方の空間に引き摺られるような感覚があった。次に視界のすべてが紅色に染まる。金髪の炎撃士が起こしたのとは比べ物にならない大破壊。加えて『旋捲風』によって熱波を相手側に押しやる。複合属性を扱えるリグムでなければこの威力は出せないだろう。炎撃士の顔に絶望に似たものが浮かんで、すぐに消えた。

「散開」

 俺は刃を抜く。『速離源力 (ソロバリク)』を発動、空気を吸引し、後方に噴射して超加速する。同じく加速術式を使っているロットウェルを追い抜いて突進する。先頭の狼型の魔物が牙を剥いてきたので逆噴射で速度を緩め、更に真横に動く。首筋を半分切断する。次の猿人型の魔物が腕を振り上げて、隙だらけの胸部を晒していた。加速し、心臓を突き刺す。魔物の群れは数匹が取り囲むように動いてきた。「おっと、」一匹を『速離源力』のベクトルを変換し心臓部に噴射し吹き飛ばしながら猿人の腕を切り裂いて攻撃を阻止、一匹目を吹き飛ばした方向にステップし、真横から襲い掛かってきた大蛇型をかわす。ついでに首を断ち切る。血の匂いに釣られたのか、さらに群がってきたので『旋捲風』を縦に二重発動し、それらを旋風で地面に縫い付ける。

「アイバ様!」

 俺は大きく跳躍。追いついてきたロットウェルが通常サイズの剣を投擲し、二匹の脳天を割る。更に六本の剣を空中に生成。射出し近づいてきた魔物を縦に串刺しにする。舞うように跳躍、両手の剣で次々に魔物を切り裂いていく。途中数度牙や爪が突き立つが、鋼の装甲の前に沈黙する。生半可な物理攻撃は無効化できるのが鋼鉄系の魔術の強みだ。後方に控えていた魔物から発動光が漂ってきたので『旋捲風』で潰す。

「やるねぇ」

「どもども」

 ロットウェルには笑みを見せる程度の余裕があるらしい。まったく頼もしい限りだ。と、紫色の巨大な発動光が展開した。リグムの毒属性の上級魔術のようだ。

「全員、俺の周りに集まれ!」

 リグムがそうしたように声の振動波に指向性を持たせて鼓膜にだけ届ける。周辺にいた兵が俺の周りに集中、付随して魔物共が集まってくるが、ロットウェルの『鉄脅槍 (テガアリ)』による無数の鉄槍がそれらを串刺しにする。それでもまだ足りない分は、

「跳んでください!」

 『巨乾坤人』の巨剣が一閃。それでことが済んだ。

 俺は『竜臥断鱗巻 (リダリゼグマ)』の低気圧を中心に周辺物質を調整、上昇気流を伴う螺旋形の風の膜を張る……、よりも少し前に『王腐瑠覇水 (オルナバズイ)』が、高い対腐食性を持つ金やプラチナでさえ溶かす王水の奔流を撒き散らした。

「っ……、マズッ」

 術式の構築を急ぐ。毒の津波が目の前に迫っている。間に合わない……?!

「くそっ」

 俺の脇から油の入った瓶が投擲された。『火儘獄沁炎』の爆炎と爆風が毒を弾く。一瞬の合間のあと俺の竜巻が俺達だけを毒から守った。

「悪い」

「俺は俺の身を守っただけだ」

 金髪の炎撃士は無愛想に言う。

「……わお」

 竜巻から飛び出ていたロットウェルの巨剣の切っ先がキレイに消失して蒸気を上げていた。周辺の地面からはまだ濃い霧があがっている。生物系の魔術を使うカルーが王水の分解を進めている。

「あの野郎……。俺達まで殺す気かよ」

 風を噴射し、跳躍。リグムの隣に降り立つ。

「どういうつもりだ?」

「済まない。コントロールを誤った」

 コントロールを誤った? 王国最強と言われるこいつが?

「……」


「るおおおおおおっ!」

 ロットウェルの咆哮が耳を切り裂く。

「ちっ……」

 リグムの胸倉を引っつかんでやりたかったが、いまはそんな場合ではなかった。

 再度風を噴射し飛行、戦いの中心に戻る。

 ロットウェルが剣を振り回している、その後ろで褐色の肌の女が獣の牙を振り上げていた。

「ロットウェル!」

「えっ?」

 噴射を最大まで引き上げ加速、するさいに後ろになにかが抜けた。おそらく誰かが俺を攻撃した。

俺は時速約300キロでロットウェルの手を掴んで引き摺る。こいつ、重てぇ……! 鋼で武装してるから当たり前なんだが。毒の塗られた獣の牙が寸前までロットウェルのいた場所に突き出される。

「カルー?!」

 下に向けて噴射の角度を調整し、上空に離脱する。

「カルー、何を……」金髪の炎撃士が女を止めようとする、フリをして油の入った瓶を上空に投げた。即座に『旋捲風』を叩きつけて瓶を打ち落とす。逆向きの『旋捲風』が俺のそれと一瞬拮抗するが、俺のほうが魔力量が多く、下向きと上向きでは重力の助けのある下向きのほうが強力なため叩き落すことに成功する。

「ど、どうなってるんです?」

「知るか!」

「あたしを抱くなんてどういう心境の変化なんですか!」

「落とすぞ」

「ごめんなさい。やめてください!」

 加速して攻撃を回避しながら動く。重過ぎてかなり辛い。

「途中までは普通だったよな。……いきなり、いや、病状の進行? 俺とこいつだけが平気なのは、昨日の晩に戦わなかったからか? ちっ、多分リグムのやつも掛かってるな」

「病気?」

「錯乱してるわけじゃない……。病でもないな。あれはあきらかに俺とお前を狙ってる。つまり誰かの意思がある。あれは、おそらく魔法だ」

「あんな魔法聞いたことも見たこともないですよ」

「俺もないな。だが実際あるんだから、認めないわけにはいかないだろ」

「ですけど……」

「ちなみに俺には選択肢が二つある。ここでお前を見捨てて一人で王都まで帰還するか、わざわざお前を助けてやるか、だ」

「是非後者でお願いします!」

「そのためには、元仲間を皆殺しにしないといけなさそうだな」

 さっきからこいつを抱えてるせいで速度が上がらない。そして加速系が使えるやつらはリグムを含めずっと俺の下をついてきている。

「あたし的には自分の命が一番かわいいので全然OKで」

「よく言った。降ろすぞ、三十秒魔物共を誘き寄せろ」

「ラジャ!」

 降ろす、っていうか、落とした。魔物の群れの丁度真ん中あたりに。動揺一つせず上手に着地し、刃を生んで魔物共の蹂躙を開始する。

 俺はリグム達の前に降りる。

「やめろ」

 形式上、説得を試みてみたが、返事すら返ってこなかった。無数の術式が一斉に俺に向く。まともに受けたら骨も残らない。

「……まともに受けなきゃいいんだよな」

 発動されている発動光が入り混じりすぎて訳がわからないことになっているが、軌道はだいたい把握できる。そのほとんどが上級魔術だ。つまり発動は早くない。

『速離源力』の最大加速、俺に出せる最速で間合いを詰める。慌てて高速発動に切り替えるが、遅い。後方数ミリ先を爆炎が抜けていく。俺は最初に間合いのうちにいた一人の首を切断。突き出された獣の骨に似た武器を、体を捻ってかわし、両腕から胸部にかけてを斬る。味方が密集しているので相手は大規模術式を使えず、かつ小規模術式や体術では『速離源力』を超えることはできない――、と思っていた俺はリグムが『王腐瑠覇水』を味方を巻き込むように使ったことをギリギリ思い出して、最大加速で離脱。案の定、風向士の『気訃璃嶺流』が味方を砕いた。余波こそ受けたもののなんとか俺自身は無傷で済む。十数人が自分の術で潰れても風向士は顔色一つ変えない。

「はぁ、恐いなぁ」

 接近戦は博打だと思い知る。うん、一発で片をつけよう……。

 空中でずっと紡ぎ続けていた術式を解凍。風向系魔術最高位、魔王にトドメを差した魔法を起動。

「……悪いな、俺のために死んでくれ」

 一部隊すべてがその空間に存在した物質と同時に消失した。効果範囲空間に全方位からの圧力を掛け続けて存在しうる最小の点になるまで押し潰す。ビッグ・クランチと呼ばれる宇宙の終焉の形を体現する、あらゆる防御の通じない、無二の攻撃魔法。一介の風向士に過ぎない俺が勇者と呼ばれる最大の理由だ。

 この魔法に名前はない。俺しか使えないし、俺が名づけるのも面倒だからだ。

 ただ、発動光が膨大で起動速度が遅い。つまり読まれやすいのがこの術の欠点だ。効果範囲がそこそこ広いので並みの相手ならば読まれてもまったく構わないが。

「やっぱお前はこんな手品じゃ死なないよなぁ。リグム」




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