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悲鳴と共鳴と汚れた魔剣 5



 いまのシャルトルーゼにはラクシェイムを超える魔術師は存在しない。彼さえ殺せばあとは烏合の衆に過ぎない。

(とはいえ両腕に首と足首の捻挫、それから頬肉がざっくり。代償は少なくなかったなぁ。ってか超痛い。特にほっぺた。爪で抉られるって辛いなぁ……)

 一度引いて、鎮痛と消毒を受けてから出直そうと考える。

 アッカザドたちは……、大丈夫だろう。

 アルテア率いる第三中隊は“突撃兵”と異名をとる帝国の精鋭部隊だ。錬度のおいては王国に劣るといわれる帝国兵だが例外もある。実戦を数多く経験し、理論と殺し合いの両方を経験した上級兵の錬度は王国のそれを大きく上回る。

 第一から第三までの中隊が敵の最前線を圧倒して戦意を挫き、錬度で劣る後方の部隊が士気の下がった敵兵を数で圧倒するのが帝国の常套手段だ。

 さて、引き返そうとアルテアが少し俯くと、ごろんと無造作になにかが転がってきたのが目に入った。


 アッカザドの首だった。


 断面が焦げている。口端から赤が零れる。見開いた目がアルテアに伝えていた。逃げろ。と。

 撃鉄が起こされる音。アルテアが飛び退く。だらりと垂れた腕が慣性で軌跡を引き、圧縮魔力弾を受けて粉々に砕け散った。赤い霧となった自分の腕に見向きもせずに弾丸の放たれたほうを見る。キャルト族の細身の女がアルテアに銃口を向けていた。

「シャルル=ディバイト=ライトニングデスだと……? シャルトルーゼから離れたはずじゃあ……」

 シャルルはなにも言わず、『電璽流』による細い電撃の蛇を無数に、一息で放つ。

 圧縮空気の噴射で後方に跳びながら、札を展開し、電撃を無効化しようとする。が、先に発動していた電波の反響で周辺すべての位置情報を把握する『電凱波』に干渉してしまい札の力が消失。雷の蛇が殺到する。

「くっ……」

 咄嗟にジレンを避雷針代わりに地面に突き立てる。

バチバチと音を立てて足元の土を焦がす。

 シャルルが雷で筋力を刺激して身体能力の百パーセントを発揮して間合いを詰める。キャルトの筋力は人間族のそれをはるかに上回る。(速い……!)アルテアは加速魔法を使えるが、ガーレ=アークほどの出力はない。長時間の維持も不可能でせいぜい十秒ほどが限界だ。恒常発動できるシャルルのほうが総合的な速力は高かった。

(腕が使えなくて戦える相手じゃないなぁっ。くそっ!)

 シャルルの左手から圧縮魔力弾が放たれる。右にかわしたが、予測していたシャルルが先回りして底部のブレードを走らせる。肩口を裂かれながら、無理矢理体を引く。利き腕を失っていては札を使う余裕すらない。

「私怨はにゃいが、済まにゃい」

 足元から電撃が迫る。

 至近距離ではかわせるはずもなく、雷撃が背骨を突き抜ける。

 筋肉が硬直し、意識が白濁する。

 銃口がアルテアに向く。

「死ね」

 銃弾とブレード、そして雷撃を駆使したあまりにも綿密な接近戦の動きにいまのアルテアでは抵抗する術はなかった。万全であっても勝てるかあやしいにも関わらず、ハンディが大きすぎる。銃口の奥が光を放つ。圧縮魔力弾がチャージされる。アルテアは目を閉じて、せめて苦しまずに死ねることを願った。ガキン、と鋭い音がした。逸れた圧縮魔力弾が後方の空に抜けていく。腕を失ったアルテアがバランスを取れずに地面に尻をつく。一瞬、アルテアんはなにが起こったのかわからなかった。一振りの剣が威力を失って転がっていた。シャルルの銃の底部にあるブレードが折れている。剣の飛んできたほうを見る。つられてアルテアもそちらに視線をやった。黒髪に焦げ茶色の目をした男が新たに剣を抜き直していた。

「ガーレ=アーク……?」

 生きていたのか? や、どうしてこのタイミングで? 自分は助かったのか? などと幾つもの思考が浮かんでは消える。たしかにソードフィールドならライトニングデスと戦えるかもしれない。しかしいまさらガーレ=アークが参戦する理由がわからない。

 ガーレの口元が小さく動いていることに気づく。『聴爾覚』をつかって聞き取ってみる。

「なあなんでロットウェル殺した?なんでだよ。どうしてだよ。よってたかって俺いじめて楽しいのかおまえら。死ねよ。なあ?死ねよ」

「壊れて、る……のか?」

 シャルルがアルテアを一瞥する。

 アルテアが体勢を立て直すべく引く。

「やむを得ない、か。いましばらくはおまえに殺されるわけにはいかにゃい」

 アルテアという懸念要素の消えたシャルルが、ガーレに向かって加速するのが視界の端に見えた。



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