そして超越者達は魔剣を振るう 11
キャルト族の女性が一人近づいてくるのが見えました。全身にひどい火傷を負っているようで私は多少警戒しながらいつでも剣を抜き放てるように構えます。
女性は同じように多少の警戒を残しながらも、片膝に乗せているアイバ様を見て少し表情を緩めたように感じました。どうやらアイバ様の知り合いらしいです。私も柄から手を離すことにします。
「それは生きているか?」
「はい、ゴキブリのごときしぶとさでなんとかご存命のようです」
「そうか、それじゃあ……」
一瞬でした。銃口が私に向き、四つの雷の蛇が私の周りをいまにも食いつかんとのたうちます。恐るべき早業でした。
「……お前はにゃにものだ?」
「なにって、アイバ様の、友……人でしょうか?」
「そうか、そいつはえらく人外の友人が多いのだにゃ」
「え?」
「人間じゃにゃいのは匂いでわかる。頭を吹き飛ばされたくにゃかったら早めに正体を見せろ」
問われて困惑するばかりでした。
そんなことを言われても私は……
「匂いかぁ。ちぇっ。アイバさえ騙せたらいいと思ってたのが裏目ったなぁ。ああ、本物のこの女の人ならとっくに死んでるよ。魔物の大群に襲われて、腕を食われてショック死。って、君に言っても仕方ないか。知らないもんねぇ」
……まあ偽物なんだけど。
「にゃんだお前は?」
「なんだって言われても困るけど、強いて言うなら神かな」
「神……だと?」
「そう。神様。全知全能なんだ。君を殺すこともできる。あんまりえらそうな口をきかれると殺したくなるから注意してね。ちょっと短気なんだよ」
キャルトの女が引き金を引いた。圧縮魔力弾が放たれ、ロットウェル=ウィンザードの頭部にあたる部分を突き抜けていく。
「……にゃるほど。神か」
「……理解した? 次やったら怒るよ」
弾丸はなにも壊さなかった。ロットウェルの頭部はそのまま胴体に引っ付いている。シャルルは試しに銃弾を地面に向けて放つ。弾丸は地面に大きな穴を穿つ。銃の問題ではないことを確認し、電撃のほうも試そうかと思ったが止めた。
受けて壊れなかったのではなく、そのまま突き抜けた。そんなことが可能な魔術があるとは思えなかった。仮にあったとすれば光学系の魔法だろう。だがそんな魔法がもし使えるならば、すでに自分の手に負える相手ではない。
「おまえはそいつをどうしたんだ?」
「別にどうも……、あ、戦わせたいんだ。ファンなんだよ、彼の」
「ファン?」
「うん。だってすごいじゃん。帝国騎士の名手、アルリア=アークをなぎ倒してアーク家に入り、『紅蓮の長槍』アストナ=フェン=ナイトロールを破ってガンドラの戦役を実質的に制する。まあリグム=フェン=ナイトロールとその一団には一度負けたけれど死んではいないし、ジギギギア=ギギガガ=ガギゾを殺害している。なによりすごいのは、彼が弱いことだ。攻撃魔術の最大値こそ高いけど、溜めが長すぎるあの術は実戦じゃ使えたもんじゃない。こいつ、キゼルフェセウ以外にほとんど攻撃魔術持ってないんだぜ? 信じられるかい?」
「……刻鳴士である私の立場から言うにゃらば、正気の沙汰ではにゃいにゃ」
「でしょ? それがカサナカラ=カラフ=カカロートに勝つんだぜ? あいつのスペック詐欺すぎるだろ。だからもっと見たいんだ。あいつが死ぬまで強いやつをぶつけ続けたいんだよ」
「悪趣味にゃ……」
「邪魔したら殺すよ」
「わかっている。わかっているさ」
降ろした銃をもう一度、ロットウェルの眉間まで持ち上げる。
そして引き金を引いた。
次はすり抜けたりはしなかった。首から上が吹き飛んだロットウェルがそのままの姿勢のままふわりと力が抜けた。仰向けに地面に横たわる。
「あーあー……、君もしかして自殺志願?」
「殺さにゃいことはわかってるさ。おまえはわたしにもこいつをぶつけたいのだろう?」
「まあその通りだけど、これやってどうするの?」
「そいつがおまえの手の内にある限りアイバは何度も戦火に飛び込むはめににゃるからにゃ。だからまずはそれを消す」
「君がこいつに追われるハメになるけど?」
「いいや、私は逃げる。あいにく身一つにゃものでにゃ。逃げ場にはことかかにゃいんだよ」
「……ちぇっ。それ一番つまんない展開じゃん」
「だろうにゃ」
「うん、じゃあそんな君に一ついらないことを教えてやろう」
立ち去ろうとしたシャルルが足を止める。
「シャルトルーゼが近いうちに滅びるぜ」
「にゃんだと……?」
「せいぜいがんばりなよ。事態なんてのは自分たちのしらないところで起こっていつだって気づいたら手遅れになってるんだ。ああ、楽しいね。解決できるだけの力を持ってるやつらがあとになってあわてふためいてるのを見るのはほんとに愉快だ」