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猫と勇者は死神と奈落に共鳴するとかしないとか 6




「ふう。ジギギギアより弱くて助かった」

 俺はその場で尻餅をついた。足元に水溜りがあることに気づく。

「貴様、よくその出血で動けるにゃ」

「へ? って、うお?!」

 これ全部俺の血かよ?! とりあえず血管を圧迫してとみたが、止まらない。

「手を退けろ」

 シャルルが言う。手にはブレード。その周りが歪んで見えた。刃を走る電熱の高温が陽炎を生み出しているのだ。

「あの、シャルルさん……?」

「満足な医療器具がにゃいのだ。こうして塞ぐ他あるまい」

「お、お手柔らかに、お願いします」

 シャルルは俺の傷口に刃を当てた。電熱が俺の皮膚を焼く。傷は塞がったが、痛すぎて治らなくてもいいから死にたくなった。

「助かったよ。正直、私一人にゃらば負けて死んでいただろう」

「魔王にほぼ一対一の勝負挑もうなんて馬鹿げてるんだよ。お前クラスの魔術師が三人はいないとまともに戦えないと思え。無知は罪じゃないが、人を殺すぜ」

 シャルルは悲しげな目をして、散らばった兵士のパーツを見渡した。

「肝に銘じる……」

「わかればいいけどな」

 なんかこいつのことをつくづくいいやつなんだなぁと思った。

 利益とか仕方なくとかじゃなくて、純粋に国と人のために魔王を討とうと考えたのだ。召喚されたばかりの(実際には記憶を奪われたばかりの、だが)俺は戦わないと利用価値がなく、殺されないために仕方なく魔王と戦った。

俺はリグム=フェン=ナイトロールを思い出す。あいつはガーレ=アークを利用した。ふとそれはカイセルが魔王を討てる力を持ちながら「何もしなかった」と思われないためなんじゃないだろうかと思ったのだ。魔王を倒した勇者を召喚したものとして、カイセルは、王国の英雄になりそれなりの名声を得ていた。リグムはあれで結構弟思いなやつだったのだ。

整理をつけるにはまだ時間が掛かりそうだが、ともかくあいつはあいつで悪いやつじゃなかったと俺は思いたい。俺達は形だけの親友ではなかったはずだ。

「……浮かない顔をしてるな」

「いや、大したことじゃにゃいんだが、アゼルはにゃんのために戦っていたのだろうと思ってにゃ」

「この先にいけば答えはあると思うぜ」

「にゃに?」

「多分だがな、俺一人で行くつもりだったが、行ってみるか?」

「ああ。だがその前に……」

「なんだ?」

「私と共に戦って死んだものたちの、墓を作らせてくれ。シャルトルーゼでは戦場で死んだものは戦場に還すのが決まりにゃのだ」

「手伝わないぜ」

「わかっている」


 遅々として進まない墓作りを結局手伝ってから、俺達は山奥へ入っていった。シャルルが『電凱波』を使うと目当てのものは直ぐに見つかった。洞窟の中にそれはいた。シャルルが強く歯を噛んだ。

「そんなとこだろうと思ってたんだが、的中だったな」

 小さい子供が二人と、二十台くらいの女が一人。子供の二人は半魔だった。おそらくアゼルが父親だろう。俺は剣を抜いた。

「ガーレ、何をする気だ」

「た、助けて。わ、私、人間……」

 女は子供を突き飛ばした。俺はその首を撥ねた。もう一人を袈裟切りにして、女の心臓を貫く。

「ガーレ=アーク! 貴様ァ!」

 キレて飛び掛ってくるシャルルを、血を流しすぎた俺はかわせない。ああ、殺されるかなとなんとなく思ったが、馬乗りになって銃口を突きつけてままシャルルは止まった。

「答えろ。にゃぜ殺した」

「じゃあどうするのが正しかったんだ?」

「にゃぜ殺した!」

 だからその「にゃ」、緊張感が台無しなんだよ!

「生き延びれば子供二人は人を喰う。それだけだ。女は人間だから人を喰わないだろうって? 本来人を喰うアゼルが女を食わなかったのはなぜだと思う? 断言してやる。垂らしこんだからだよ。こいつが追い出されたのか、逃げ出したのか、迷い込んだのか知らないが、餌でしかない人間に悪魔共が欲情するはずがない。罪がないとは言わせないぜ。ああ、最初は村人だったのは、こいつの知り合いが殺されて恐くなったのかもな。けど知らない冒険者共なら死んでいいってのはなかなか人でなしだな」

「そんにゃ馬鹿にゃ話があるか! 子供二人だって、町で暮らせば――」

「なぁ、人間は人喰いで育った子供を許せるのか?」

「っ……」

「迫害に遭って惨めで孤独に死ぬのと、いま死ぬのとどっちがましか。とか訊いてやろうか? 自分以上の力を持つ異端の存在に人間がどんな目をするか、キャルト族のお前はよく知ってるだろ。

どんな形でも生き延びるのが正しいなんて傲慢な正論、俺は聴きたくないな」

 ああ、やっちまった。

 シャルルはぽろぽろと泣き出した。

「正義が、わからない」

 そう言って、俺の胸を力なく叩く。

「大衆が正しいと言うものだよ。個人の信じるものは、正義とは呼ばない。だからお前は、どうあろうとしても正義じゃない」

 余計なことを言ってるのはわかっていた。

 シャルルは俺の頬に大粒の涙を溢し続けた。


 ……ってか重いから退けよ。




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