第2話 辺境の町と不思議な扉
辺境の森を抜けた先に、ようやく小さな町が見えてきた。
木造の家が点々と並ぶだけの、人口も少ない村だった。
馬車を降りると、埃と土の匂いが混ざった空気が、頬を打つ。
「ここが……私の国になる場所なのね」
リシア・フォン・アルヴェルドは、深呼吸して町を見渡した。
目に映るのは、荒れた屋敷と、手入れの行き届かない畑。
住民の顔は疲れ切っていて、子どもたちも痩せていた。
王都での暮らしとはまるで別世界だ。
「姫様……」
騎士のガルドがそっと声をかける。「これは……本当に」
「ええ、でも嘆いている場合ではないわ」
リシアは微笑むように答えた。「まずは生活の基盤を整えましょう」
執事のルーベルトがメモを取りながら分析する。「畑は半分が耕作放棄、家屋も修理が必要です。
最低限の生活確保には、水源と食料、簡易宿舎の確保が必要です」
「その通りね。町の人たちにも協力をお願いするわ」
リシアは深く頷いた。
その日の午後、王女は住民たちに挨拶した。
初めは疑いの目で見られたが、真剣な態度が少しずつ彼らの心を解いていく。
「……本当に、この方が王女なのですか?」
若い農夫が小声でつぶやく。
「ええ、でも怖がらずに。私たちと同じように、ここで暮らしていくのよ」
リシアは優しく返す。
メイド服のような作業着を着た少女が目を輝かせながら話しかけてきた。「姫様、私たち、もっと畑を耕してもいいでしょうか?」
「ええ、でも無理はしないで。私も皆さんと一緒に手伝うわ」
微笑むリシアに、少女は小さく頷いた。
ガルドは周囲を警戒しつつ、村人たちの動きと不満を観察する。
「姫様、このままでは治安面も問題が出ます。
夜間の見回りや、森の危険生物の対策も必要です」
ルーベルトも静かに頷く。「将来的には、森の奥の資源を活用することも可能です」
その言葉に、リシアの胸がわずかに高鳴った。
森の奥――あの場所は、まだ誰も触れていない。
夕暮れが近づくころ、リシアは一人で森の縁を歩いた。
風に乗って、胸の奥がかすかに震える感覚が広がる。
何かが、彼女を呼んでいるような――。
苔むした岩壁の間に、巨大な石の扉が現れた。
古代の遺跡のような重厚な扉。
手を伸ばすと、わずかに振動が伝わる。
「……ガルド、ルーベルト。ここに何かある」
二人がそっと後ろから声をかける。
「姫様、気を付けて」
ガルドの声には緊張が混ざる。
「でも……行ってみる価値はありそうです」
ルーベルトは冷静に答えた。
リシアは小さく息を吸い、扉に手をかけた。
その瞬間、胸の奥に柔らかい声が響いた。
『やっと来てくれた』
思わず振り返る。
誰もいない。ただ、不思議な温かさだけが残る。
「……誰?」
答えはない。
だが、リシアは知っていた――ここは、ただの森でもただの洞窟でもない。
何か大切なものが、確かにそこにあるのだと。
「姫様、この先は……」
ガルドが剣に手をかけるが、リシアは静かに制した。
「私たちだけで、確かめるわ」
森の奥、まだ見ぬ地下世界への扉。
王女と二人の男、そして未知の力が織りなす、辺境の物語の幕開けである。




