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「そのお言葉を、信じてもいいのですか?」
とてつもなく、可愛げのない言葉を呟いてしまいます。
「もちろんです」
セイル様は不思議そうに私を見つめました。
こんなことを言わないほうがいいと思いながらも、心の中で解決できない気持ちが渦を巻いて、この気持ちをうやむやにすることは出来なかったのでした。
「私の元婚約者は別れる1週間前まで、私に愛してると言っていました。 それから喧嘩のひとつもしていないのに、1週間後には私を嫌いだと言いました。 私は彼の言葉を信じていたのです。 私も彼の気持ちに応えなければと思っていました。 あれは何だったのだろうと、私を愛してもいないのに愛していると言って微笑んでいたのかと。 どうして、そんな嘘を? そんなに簡単に、人の心は変わるものなのですか?」
なんて面倒くさい女なのだろうと思います。
好きな人に、わざわざ嫌われるような事を言ってしまうなんて。
でも、ずっと、心の中でわだかまりとなった重い気持ちを、誰かに訊いてみたかったのです。 答えを教えてほしかった…。
「元婚約者と、よりを戻したいのですか?」
セイル様の冷めた声が聞こえて、
「いいえ。 ただ、人の言葉を信じていいのか、分からなくなってしまったのです」
迷える子羊のような私に、セイル様は言いました。
「…元婚約者の方は、その時は、アリシア嬢を愛していたから、そう言ったのかもしれません。 または、自分が好かれたかったからかもしれないし、自分の過失を誤魔化す為に言ったのかもしれません」
自分の過失…? そういえば、あの日は、約束の時間より1時間も遅れて来られたわ…。 甘い言葉で誤魔化そうとしていたのかしら?
思案顔の私を見て、セイル様はさらに続けました。
「アリシア嬢。 人の本質を見る時は、その人の行動を見ることです。 自分を良く見せるために言葉では何とでも言える。 嘘をついてでも良く思われたい人もいます。 でも、その人が本当に自分の事を想ってくれているかどうかは行動で分かる。 元婚約者は、あなたに真実のこもった行動をしましたか?」
諭すように言われ、私はエリオット様の行動を思い出してみました。
そういえば…彼は私との約束をドタキャンすることが多かった。 誕生日プレゼントも、私は失礼にならないようにきちんとした物を購入して贈っていたのに、彼は庭の花を摘んで花束にして、なんてことも多くて、手抜き感が否めなかったわ。 観劇に連れて行ってくれる約束もうやむやにされたし、いつも男友達を優先して私を後回しにして。 なんだ…彼は私のことなど、あまり大切に思っていなかったのね。 自分の態度が悪くて私が怒り出さないように、甘い言葉で誤魔化してただけなんだわ。 それなら、彼の言葉に重みを感じる必要は無かったのね…。
心の中にあったわだかまりが、浄化していくような気分でした。
「セイル様、ありがとうございます。 私、やっと心が晴れました。 もう、彼の言葉に悩むのは終わりにします」
清々しい笑顔を向ける私を、セイル様は穏やかな表情で見守ってくれました。
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